19/45 赤崎ー餃子とキス
「それじゃ、今日は先生と支援者のご挨拶に行って直帰しますので、戸締りよろしくお願いします」
内田が帰り支度をしながら赤崎に言った
「豆トラちゃんも一緒ですか?」
「そう、この子はラッキーキャットだね」
そう言って大塚は内田と猫を伴って事務所を後にした
見送った赤崎は事務服を脱ぎロッカーに入れた
上着を脱ぐと細身のパンツが腰のラインを強調し、それだけで女の匂いがしてくる
髪をほどきキャップを被ると、ショート丈のジャケットを羽織り、入口の鍵を引き出しから取り出したところで彼女を見つめる人影に気付いた
「今日は上がりですか? 赤崎さん」
ニコニコしながら事務所を覗いているのは倉田だった
「すみません、もう先生は帰ってしまいましたが」
「ついでがあったから寄っただけで、急ぎませんから
赤崎さん、ご飯まだですか?」
「これからです」
「僕もなんです
ここらで美味しいとこありませんか?」
(あらあら、神野さんに怒られたんじゃないのかしら)
「私は中華の気分なんですけど」
「いいですね」
倉田が何をしに来たかはバレバレだったが、赤崎はちょっと面白くなって誘いに乗ってみた
裏通りの町中華でビールと餃子、湯気の立つ小籠包がテーブルに並ぶと彼女のメガネが曇る
倉田はそのメガネをひょいと取り上げ、ハンカチで拭いて自分のポケットに入れて笑った
「やっぱり伊達メガネだ
なんで隠すんです? 綺麗なオネエサン」
「メガネが好きなんです、返してください」
「だって、また曇っちゃうよ
はい、カンパーイ」
赤崎は仕方なくグラスを目の高さに上げ、少し笑ってしまう
(困ったな、なんだか可愛く思えて来たわ)
「早苗さんってもしかして銀座にいた?」
「よくわかるわね」
「うん、なんか品がある」
「銀座に5年、六本木に3年」
「なんでこんな地味なとこに?」
「私はこの方が性に合ってるのよ」
「そっか、先生に無理に合わせてるわけじゃないんだね」
「無理なんかしてないわ」
「先生が好きなんだ」
「いけない?」
「うーん、それじゃ」
握手をするように倉田は右手を出した
「セフレからお願いします!」
唐突なセリフに赤崎はビールを吹き出しそうになってむせた
「な、何を言ってんの」
「だめ?」
「あなた神野さんと幼馴染って聞いたけど、どんだけキャラが真逆なのよ」
「あいつは陰キャで僕は陽キャなんで」
「陰陽の問題じゃないわ、呆れた」
「あれえ、フラれちゃったかぁ」
本気なのか冗談なのか、ヘラヘラと笑いながら倉田は餃子を頬張った
赤崎も一緒に声を出して笑った
しかし、笑いながらざわざわとしたものが心に広がるのを感じていた
(なんでだろう、この人は笑ってるのに…)
食事が終わり二人は店を出て歩き出した
「これから飲みに行かない?」
「ダメ
地元で噂になるわけにはいかないの」
そう言って赤崎は手を出した
「メガネ返して」
倉田はポケットからメガネを取り出して赤崎の顔に掛けた
ついでに顔を近づけて耳元に囁く
「ね、キスしていい?」
「キスしたいなら訊いちゃダメ」
手のひらで倉田の顔を押し返しながら言った
「そうなの?」
「訊いた瞬間にアウトよ
もちろん餃子も食べちゃダメ
じゃあね」
赤崎は手を振って駅とは逆方向に歩きだした
そして倉田は
(餃子…中華も罠だったか
やっぱ手強いなぁ)
ため息をついて見事なヒップラインを見送るしかなかった
【余計なお世話書き】
町中華で餃子を頼まないって選択肢はないですから、最初からフラれるの確定なわけで、ご愁傷様です。
早苗さんは古風な名前で小悪魔キャラなとこが好きです。




