18/45 説教ークライアントの女
梅雨に入る少し前
神野はメイクの真希を連れて再び大塚の事務所を訪れた
夏向けのポスター撮りがあるという
神野の契約はWebでのプロデュースのみなのだが、この機会にプロのメイクを覚えてもらって、普段からの好感度と動画映えを狙っている
ただ神野は内心、新しいポスターは無駄じゃないかと思っていた
4期もやっていれば顔はすでに周知されているはずだ
「この商店街は私の支持母体ですので、定期的に写真撮ったりポスターを発注したりしてお付き合いを深めなきゃならんのです」
大塚の話を聞くと一理ある
これも必要経費という訳だ
「あの、化粧もするんですか?」
鏡の前でファンデーションを塗られながら、落ち着かない様子で大塚は真希に訊いた
化粧も男性のメイクアップアーチストも初めてだった
赤崎は興味津々でその様子を見つめている
花澤は女優のメイクも担当するような一流どころで、赤崎も彼女のWebチャンネルをフォローしている
そこから派遣されたメイクのプロとなれば、女性なら誰でもテクニックを知りたいと思うだろう
「お写真撮るならちょっとトーンアップした方がいいですねぇ
ライトが強すぎると表情が不自然になるでしょお」
「はぁ、そうなんですか」
「普段は眉毛とお髭の剃り残しに気を付けてくださいね
ココとココ」
耳の下から顎にかけてと小鼻の脇を小指で差しながら真希が言った
「ああ、癖になってるのかな
気が付かないもんですね」
「眉はこの形を覚えて、ハサミで整えましょ
おネエさんにやってもらった方がいいかも」
そう言って赤崎にコツを教えた
「はい、できた
じゃ、おネエさんとおじさまもいかが?」
「いえいえ、私は…」
内田が慌てて言った
赤崎も遠慮したのか小さく手を振って後ずさりした
「えー、せっかくだからやればいいのに
早苗ちゃんはきっと映えるよ」
神野は事務所の入り口を振り返った
何故か猫のキャリーを持った倉田が入ってきて神野は驚いた
(確かあいつにはここが留守になるときの猫の相手を頼んだはずだが?)
「よ、神野、真希」
倉田は慣れた手つきでキャリーから豆トラを出してケージの中に移した
豆トラはにゃーんと啼いて、倉田の手に体を擦り付けている
「くらたく~ん、ちょおっと来てくれるかな?」
「なんだよ」
神野は満面の笑みを浮かべ、倉田を捕まえて事務所の外に連れ出した
「おまえ、何してんだよ!」
「猫ちゃんのお相手」
「そこじゃない、早苗ちゃんってなんだよ!」
「早苗さんで間違ってないでしょ」
「あほか!
あの人は大塚さんの」
「ああ、彼女だよね」
「わかってんなら、馴れ馴れしくするな
クライアントの女に手を出すのは絶対ダメ!」
「なんもしてないって
神野こそ俺を使いすぎ
あちこちで手伝わされてさ、少しは楽しみがないとやってらんないよ
今日だって」
「今日?」
「朝からぐっさんと撮影してきたんだ
すっげーいい画が撮れたんだから」
「わかったわかった
それは助かるけど、赤崎さんをファーストネームで呼ぶな
大塚さん、けっこうガチで惚れてるらしい」
「へーい」
(ガチって…彼女の方はどうかなぁ?)
二人が事務所に戻ると、赤崎がメガネを取って鏡の前でメイクを教わっていた
簡素な事務服が艶っぽさを際立たせる
その場の男たちを釘付けにするのに十分だ
隣りで子供のように目を輝かせている倉田を見て、神野はとてもイヤな予感がしていた
【余計なお世話書き】
政治家さんのポスターってすごくお高いです。
小さな印刷所とかでは機械を準備するのも大変なんですって。
ですから1回だけお願いとかいうのは無理か思いますし、継続して発注して差し上げないと迷惑かけます。
選挙に携わるってそんなに簡単じゃないです。




