14/45 郷愁ーブランコとジャングルジム
大塚は神野に問われ、しばらく考えていたが、ひとつ頷いて声をかけてきた
「神野さん、外へ出ませんか」
誘われて連れていかれたのは近所の公園だった
広場にベンチ、子供用の遊具が7,8個置かれた、どこにでもありそうな児童公園だ
ただ、遊具にはロープが張られ使用禁止の札が下げられている
「ここは私が子供の頃よく遊んだ公園なんですよ」
大塚は懐かしそうに言ったが、いまこの公園にはほとんど人がいない
「本当に地元なんですね」
「昔はこんな遊具なんてなくて、ただ原っぱで走り回ってるだけで楽しかった」
神野も頷いた、確かに子供の頃なんてそんなものだろう
「これは老朽化で危ないということですか?」
「そうです、修理する予算が付かないんですよ」
「もったいないですね」
「この公園も私が市長になりたい理由のひとつです」
「予算獲得ですか」
「ここだけでなく、あちこちの児童施設が予算不足で閉鎖されてます」
「いまは少子化対策で予算を取りやすいはずでは?」
「副市長の利権外だからですよ
子供が少ないのに公園整備にカネをかけるのは無駄だとか言ってます」
地方都市あるあるだな、と神野は思った
箱モノばかりが立派で、本当に市民に必要な施設はおざなりというパターンだ
「いいですね」
大塚の表情が険しくなったのを見て神野が言った
「強い思いって大事です
テーマもいい
市民が手の届く話でなければ共感されませんから」
「強い思い、手の届く話」
「大所高所は必要ありません」
「ああ、そうですね」
大塚の表情が穏やかな笑顔に変わった
「私は『市長』になりたかったんじゃない、この歪みが許せなかったんですね
忘れてました
思い出させてくれてありがとうございます」
「副市長を仮想敵にするのは悪くないと思いますよ
あの方、絵にかいたような悪役顔ですしw」
神野に言われて大塚は鼻に皺を寄せてしかめ面をした
どうやら副市長の顔マネをしたらしい
副市長は時代劇で小判が入った饅頭をもらってそうな顔をしている
「現市長が再出馬しないなら、市長陣営は誰が出てくるんですか?」
「副市長が濃厚ですが、市長の孫というのが出たがってます」
「まだ若いですよね、経験は?」
「市長の秘書程度です、政治経験はほぼないに等しい
副市長の方が与党会派と仲がいいんで面倒です」
「じゃあ、お孫さんに出ていただく方が助かりますね」
「でも、私は副市長と戦いたいです」
意外にも大塚が負けん気の強さを見せたが、神野はそれをプラス材料と考えた
「じゃあ、容赦なしでいきましょうか」
(ちょいと気の毒なことになるかもしれないけど)
「これからは街頭などの直接対話だけでなく、Webを使って広範囲に広めましょう
方法はいくつでも考えます」
事務所に戻った大塚と神野は応接室で打ち合わせを再開した
「ここからは一般的なWebでのイメージ構築のお話になります
簡単に言うとブランディング、キャラ付けということですね」
「はぁ」
「あなたにはすでに『猫議員』というキャラが付いてます」
後ろの方で「ぷっ」と吹き出す声が聞こえた
「豆トラちゃんが意外にもタレントで人気がでましたから、ここは乗っかりましょう
猫は最強コンテンツです」
「確かに猫動画って見ちゃいますよね」
お茶を持ってきてくれた事務員の赤崎が言った
「猫ちゃんがいると商店街の皆さんがよく訪ねてくれるんですよ」
「それじゃ、ここにケージを置いて見てもらうといいですね」
会釈をするとふわりとシトラスの匂いが漂ってくる
大塚と同じ柔軟剤の香りだ
「賛成!」
赤崎は猫好きのようで嬉しそうに叫んだ
「あ、でも出払っちゃうとき困りますね」
「なんなら暇なヤツを猫のお世話係に送り込みますよ」
(倉田はどうせ暇してんだろ、少しは働かせよう)
「それで、ブランディングとはどういうことでしょう」
大塚が訊いてきた
「例えばですね」
神野は内ポケットから四角い黒縁メガネを取り出した
「こうするとどうなります?」
【余計なお世話書き】
億単位の横領はピンとこないけど、数十万の出張経費のごまかしは許せないって騒ぐことないですかね。
そういう感じです。
副市長で通してますが、いくらモブでも名前付けてあげなさいよw




