クラスと王族の意向
着席したまま質問を続けていた参加者が黙ったので、ミリはそちらから視線を外す。
「料金に付いての説明を致します」
そう言いながらミリは、参加者達を見回した。
「御覧頂いた資料にあります通り、複数のホテル、複数のレストランが御座いますが、料金はクラス毎に統一しております。王族クラスでしたら、どのホテルの王族クラスも同じ料金となります」
「質問をよろしいでしょうか?」
一人の参加者が手を挙げ、ミリは肯いてその参加者を手で指し示す。
「はい。お願いします」
「ありがとう御座います」
発言者は立ち上がると、まず会釈をした。
「レストランもクラス毎に同じなのですね?」
「はい」
ミリが肯くと発言者も小さく肯いて返す。
「中には手に入り難い食材があったりすれば、金額は高くなるのではありませんか?」
「はい。どのクラスを選ばれましても、料金を追加して頂く事で、特別な料理は御用意する事が出来ます。それに付いては、予約時に御相談頂きたいと思います」
「はい」
発言者は一度肯いた後に、小さく二度肯いた。
「それで逆に、例えばこの国ではありふれた物でも、他の国では貴重食材として、王族しか食べられない様な料理に使われる事もあると思います。それは王族クラスに出て来たりするのでしょうか?」
「はい」
「え?・・・料金は高いのですよね?」
疑問形で言葉を口にしているけれど、発言者の表情は少しズレている。
「王族クラスでしたらそれなりには」
「え?」
発言者は驚いた表情を浮かべ、ミリの言葉を遮った。
「高い料金を支払って、ありふれた物を食べさせるのですか?」
「調理の仕方はその国流になりますが、もしそれをお望みにならないのでしたら、御予約時に選ばないで頂ければよろしいかと思います」
「選ばない?」
発言者の眉間に皺が出来る。
「選ばない事も出来るのですか?」
「もちろんです。レストランの御予約の時には、クラスとコースとメニューをお選び頂く事になります。例えば、一般クラスのホテルに泊まって頂くお客様でも、レストランで王族クラスの料理をお選び頂けます。そして料理は当日に席に着いてから決めるコースか、予め指定するコースかを選んで頂いて、予め指定するコースなら、どの料理にするか選んで頂きます。その時に食材や調理法も御説明致しますので、珍しい物をお望みならそれをお選び頂く事は出来ます」
「・・・なるほど」
発言者は目を細めた。
「ですがそうすると、王族クラスを選んだけれど、安い料理ばかり選んでしまう事もありますよね?」
「それは可能ですが、王族クラスは席も王族の方に御利用頂ける品格の物を用意しておりますので、普段慣れた料理をお選び頂いても、充分に王族気分を味わって頂けると考えております」
「つまり、クラスとは席のランクの事ですか?」
「サービスのランクの事になります。王族クラスでしたら、王族の方に給仕できるレベルの者が担当致します」
発言者はまた眉間に皺を寄せた。
「貴族家の出身者と言うことですか?」
「いいえ。身分は平民でも、王族の方のお相手を務められる教育を修めた者、と言う意味です。これはどの国のホテルやレストランでも同様です。その国の王族の方に御利用頂いても、御満足頂ける品質のサービスを提供致します」
「いや、ですが、我が国はまだ良いとして、中には身分に厳しい国もあるではありませんか?」
驚いた様な語調だが、発言者は目を少し細めている。
ミリは小さく肯いた。
「はい。ですがコーカデス商会が提供するのは、平民でも王族の扱いを受ける事が出来るホテルとレストラン等ですので、本当の王族はお客様のターゲットにはしてはおりませんので、問題御座いません」
「え?・・・そうですか?」
発言者の目が更に細まるが、ミリは様子を代えずに小さく肯いた。
「はい」
「もし厳しい国の王族が泊まりに来たらどうなさるのですか?」
「自国の様式のホテルやレストランを利用する事が目的であれば、わざわざ我が国に来る事はなく、自国のホテルやレストランを御利用なさるでしょう。もしコーカデス領にいらっしゃるとしても、他国の様式のホテルやレストランをお楽しみ頂くのではないでしょうか?」
発言者はソロン王太子に体を向ける。
「あの、王太子殿下。質問してもよろしいでしょうか?」
ソロン王太子はミリに顔を向けた。ミリが小さく肯くとソロン王太子も肯き返し、ソロン王太子は立ち上がる。
「何だろうか?」
ソロン王太子が立ち上がった事に発言者は驚いたが、直ぐに頭を下げた。
「ありがとう御座います」
発言者は顔を上げると小首を傾げる。
「あの、王太子殿下はホテルに何日も滞在なさったと聞きましたが、毎日、よその国の料理ばかりで、飽きませんでしたか?」
「いや、飽きる事はなかったが」
「そうですか。普段召し上がっている物が食べたくなったりはなさいませんでしたか?」
「それはあったな」
「やはり」
発言者は目を細めた。
「その時はどうなさったのですか?我慢なさったのでしょうか?」
「いや。この国の様式のホテルもレストランもあるから、そちらで食事をした」
「え?この国のもあるのですか?」
「ああ。コーカデス子爵領の港町には、他国様式のホテルやレストランと同レベルの、この国のものもある。庶民向けの宿泊所や屋台とは別にな」
「そうなのですか。ありがとう御座います」
「ああ」
頭を下げた発言者に肯いて、ソロン王太子は腰を下ろす。
発言者は頭を上げた後も顔を上げず、ミリを振り向かずにソロン王太子の方を向いたままだった。
僅かな時間を置いて顔を上げた発言者は、ミリに体を向ける。
「今の王太子殿下のお話の様に、旅先では故郷の物が食べたくなるものです。その際には身分にうるさい国の王族の方も、自国様式のレストランを使用するかと思います。それにはどう対処をするのですか?」
参加者の何人かが同意を表す様に肯いた。
「ここでの説明と同様に、平民向けのレストランやホテルである事を説明致します」
ミリの言葉に発言者は上半身を僅かに倒し、眉間に浅く皺を寄せた顔を前に出す。
「それで納得しなかったら?」
「御利用頂かない事になるかも知れません」
ミリの割り切った言葉に、発言者は大きく目を見開いてみせたながら、顔を後に引いた。




