身内の指摘
発言者はミリから視線を外し、驚いた表情のまま参加者達を見回した。
「いやいや、それは、国同士の問題になりませんか?」
「その心配はないかと思っておりますが」
「いや、心配の有無ではなく、そうなってからでは遅いではありませんか」
「もし本当に、他国の王族の方がいらっしゃるのでしたら、傍付きの方も大勢いらっしゃると思います。料理人を連れて来る場合もあるでしょうから、レストランの厨房をお貸しする事も出来ますし、給仕も傍付きの方に御担当頂けば問題ありません」
ミリの言葉の途中から視線を下げて考えていた発言者は、ふっと顔を上げてミリに向けた。
「あ、でも、例えばお忍びで一人でいらっしゃったりしたら?」
議場に失笑と苦笑が広がるが、ミリは表情を変えない。
「その場合には最後まで、忍んで頂ける事を期待致します」
「しかし・・・国によっては、後から文句を付ける口実に使うところも、出て来るのではありませんか?」
「ないとは言えませんが」
ミリの言葉の途中で発言者は、テーブルに両手を突いて体を前に乗り出した。
「そのリスクに対しては、どの様に責任を取るお積もりですか?」
議場が静まった。
参加者達はミリに視線を向けて解答を待つ。その多くは表情に不安を滲ませ、また何人かは意地の悪さを滲ませていた。
「各国の様式を取り入れるに当たり、それぞれの国から専門家を招いています」
ミリの言葉に参加者の多くは、ほっと息を吐く。しかし発言者は責める言葉を重ねた。
「その専門家達の所為だから、御自分には責任がないと?少なくとも、その専門家達に任せた責任はあるのではありませんか?」
ほっとしていた参加者達の幾人かは、発言者が責任に言及した事を受けて、発言者の味方に回る気持ちになる。意地の悪さを滲ませていた何人かはそれを感じ取り、表情には喜色も滲ませた。
「各国の専門家を送って下さったのは、それぞれの国の首長です」
「・・・え?」
発言者の眉根はより眉尻と口角は下がり、口は僅かに開いている。発言者と同じ表情の参加者も複数いた。
ミリは表情を変えないまま続ける。
「コーカデス領の港町を開発するに当たり、コーカデス商会は情報や人員を各国から集める様に計画をしておりました。ですがコーカデス商会が各国に働き掛けるよりも早く、各国の船員達からそれぞれの国に伝わっていました。そして船の関係者を通して、建物の設計や建築にアドバイス出来る方を紹介して頂いたり、従業員として働く方達を紹介して頂いたりしていたのです。さらにそれがそれぞれの国の首長の耳に入り、他の国からも同様に情報や人が集まっている事が認識されると、言葉や従業員教育が出来る教師の方々を国の代表として、競い合う様に送って頂けたのです」
「・・・え?」
発言者の口はもう少し緩んだ。
「その遣り取りの際に、平民に提供する事も御理解頂いておりますので、御心配なさっている事態にはならないと考えております」
そう言ってミリが微笑むと、バルの父ガダ・コードナ侯爵はまた笑いの息を漏らし、パノの弟スディオ・コーハナルを始め何人かが、釣られてまた笑いを零した。
発言者が着席をして場が落ち着いたところで、ミリは話の続きを始める。
「これまでの説明の通り、料金はまずクラス毎に異なりますが、御利用頂く内容に拠っては、一般クラスなのに王族クラスよりも高額になる事も御座います。それは御利用頂くに当たり、どのコースをお選び頂くかにも拠ります。先程はいずれのホテルでもレストランでも料金は統一していると申しましたが、それは同じクラスをお選び頂いて、フルコースと言うのをお選び頂いた時の話でして、お好みで色々とお選び頂けば、お選び頂いた内容に沿っての料金となります。予約を頂く際に御説明致しますので、そちらを基に御検討頂きたいと考えております」
「質問を良いだろうか?」
ガダが手を挙げた。ミリは肯いてガダを手で指し示す。
「はい。どうぞ」
ミリに指されてガダは立ち上がった。
「フルコースと言うのは、どの様なものなのだ?貸し切りの時に説明されたコースの事だろうか?」
「いいえ。最上のサービスや料理を提供致しますコースではありますが、貸し切りコースよりは金額は安くなります」
「最上なのに安いのか?」
「はい。貸し切りではフルコースと同じものも提供致しますが、いつでも提供出来る様に対応も致します。フルコースは食事の時間も御予約頂きますが、貸し切りはそれが御座いません。深夜も料理人に待機させたり致しますので、その分が割高となっております」
「料理は同じなのか」
「いいえ。御要望があるかは分かりませんが、例えば王族クラスのフルコースには出さない、貴族クラスや一般クラスの料理やお酒も、貸し切りではお出しする事は出来ます」
「それは・・・私が訊くのもあれだが、一般クラスの料理に、例えば妊娠に良いと噂の料理があっても、王族クラスのフルコースでは出ないと言う事だな?」
「はい。別に注文を頂かない限りは出ません」
「そして予約時の説明では、どれが妊娠に良いか等の説明は行われないのだな?」
「はい。現地ではそう言われている、とまではお答えする事はありますが、どなたが妊娠なさった等の情報はコーカデス商会では集めません」
「だが例えば、王太子御夫妻が何を食べたのかは教えて貰えるのだろうか?」
「いいえ。先程は侯爵家の六家に貸し切りで御利用頂いていると申しましたが、それは事前に公表する事を了解頂いております。どなたに御利用頂いたのかに付いては公表致しませんので、何を召し上がられたのかに付いてもお答えする事は御座いません」
「なるほど。質問は以上だ」
そう言ってガダが座ると、今度はレントが手を挙げる。
「意見をよろしいでしょうか?」
質問ではなかったので、ミリの動きが一瞬止まった。それでも直ぐにミリはレントを手で指し示す。
「はい。どうぞ」
レントは立ち上がり、ミリに会釈をしてから口を開いた。
「クラス名なのですが、王族クラスと貴族クラスと言う名称は変えた方が良いかと思います」
「・・・王族クラスの呼称は、王家から許可を頂いておりますが?」
「そうなのですね。ですが貴族クラスと付けられると、貴族では一般クラスを選べない様に思えます。しかし実際には一般クラスでも、貴族の移動時につかう宿のレベルには達しているのですよね?」
「その通りですが、貴族クラスを選んで頂いた上で、サービスやメニューで料金を調整して頂く事は可能です」
「それは頼み難いと思いますので、一層の事、一般クラスを貴族クラスと呼んで、その上は上級とか特級とかの呼び方にした方が、利用しやすいかと考えます」
「いいえ。ホテルもレストランも、ターゲットは平民です。平民に取っては王族や貴族と銘打った方が、価値があるのです」
「そこは説明時なり説明書なりに記載すれば良いと思います。貴族クラスであれば、貴族も満足するとか、王族クラスなら王族も認めたとか」
「しかし、王族クラスに泊まったと言える事は、お客様のステータスになりますので」
「それは平民も貴族も変わらないと思います。ですが、その様なあからさまな呼び名より、説明を受けないと知らない情報があった方が、特別感が出るのではありませんか?」
「特別感・・・」
「はい。知る人ぞ知る、と言うものですね」
「・・・確かに、仰る通りかも知れません」
「ですので名称に限らず、サービス内容もなるべく隠した方が、体験した時の特別感が上がると思います」
「なるほど。その通りですね」
「コーカデス卿?ミリ・コードナ殿?」
ソロン王太子が口を挟む。
「運営に関する話し合いは、二人だけの時にやった方が良いのではないかな?」
ソロン王太子の言葉に、二人は慌てて頭を下げた。




