無償とは?
「無償の場合は不要だな?」
ミリと質問者の遣り取りが終わっていない内に、言葉を挟む参加者がいた。
ミリはそちらをちらりと見て、視線を質問者に戻す。質問者もミリに視線を戻すと、言葉を挟んだ参加者を手で指し示して小さく肯いて、譲る事を示して自分は着席をした。ミリは着席した質問者だった人に会釈をして、言葉を挟んだ参加者に体を向ける。
「何の話でしょうか?」
「無償の場合は料金の前払いがないのだから、いつキャンセルしようが構わないと言う事だ、と言ったのだ」
「コーカデス商会の都合で御予約を別日に変更して頂く事がある事は想定しております」
「そうではない」
「その場合は最初にお支払い頂いた料金は預かったまま、改めて御予約をして頂いて、差額があれば清算致します」
「その事ではないが、そちらの都合でキャンセルしておいて、詫びはないのか?」
「何かしら、サービスをさせて頂くかも知れませんが、先程も申しました通り、同じものを提供致しましたら、料金は同じで御座いますので」
「割り引くなり、ただで泊まらせるなりしないのか?」
「はい」
「ケチ臭いしがめついな。商人の血か?」
その言葉にミリが反応しない為、座ったままの発言者は鼻を鳴らしてから言葉を続けた。
「まあ、そもそも無償なら関係ない。無償の時はキャンセルしても、何らペナルティはないと言う事だな?」
「今も申し上げました通り、同じものを提供致します場合は同じ料金となります」
「だから、それは金を払う場合だろう?私の話を聞いているのか?無償の時だ」
「ホテルなりレストランなりを予約なさる時の話ではないのでしょうか?」
「ホテルやレストランを無償で予約してキャンセルする時の話だと言っているだろう!」
「ホテルの宿泊もレストランの食事も、無償で提供する事は御座いません」
「だから!平民の話ではなく、特別な相手の場合の話をしているのではないか」
「レストランで席だけ予約頂く事も可能ですが、その場合には料理を指定した場合よりも高額の予約料を頂く予定です」
「・・・はあ?食べないかも知れないのにか?」
「はい」
「・・・平民を相手にしようとする店の考えなど、分からなくて当然か。だが、王太子夫妻にもコーハナル侯爵家にも、無償で宿泊を提供したのだろう?」
「いいえ」
「うん?無償での提供だったと聞いたが」
発言者はコウグ公爵家の代理人をちらりと見て、ミリに視線を戻した。
「両家から料金を取ったのか?」
「コーハナル侯爵家のスディオ・コーハナル様とチリン・コーハナル様の御夫妻には、ホテルやレストラン等で提供するサービスの試験を行って頂きました」
「試験?」
「はい。その報酬として、宿泊や料理を提供させて頂いたのです」
「何?」
「王太子御夫妻にも同様に、王族としての観点での試験をお願い致しました」
「無償で提供したのではなく、試験を担当した報酬として、王太子夫妻にも宿泊を提供したと言うのか?」
「はい」
「それならコウバ公爵家も、その試験に協力してやる」
「いえ、結構です」
「・・・なに?」
「コウバ公爵家に御協力頂く必要は御座いませんので、御協力は不要で御座います」
「・・・何だと?」
「コウバ公爵家の御協力は不要です」
「私が協力をしてやると言っているのにか?」
「はい」
「・・・好い気になるなよ?」
「御忠告、ありがとう御座います」
ミリは会釈をすると、微笑みを発言者に向ける。発言者はテーブルの上に音を立てて手のひらを載せた。
「侯爵家の協力は受け入れて、公爵家の協力は不要だと言うのか?」
「スディオ・コーハナル様とチリン・コーハナル様にアドバイスを頂き、王太子御夫妻にも御満足頂けました。御利用頂いた方々からは御感想や御指摘をお聞かせ頂いており、それらを基に改善を進めて参る積もりでおりますが、試験は既に不要です。公爵家の方に限らず王家の方にも、今後試験して頂く予定は御座いません」
「いや、それなら今、コードナ侯爵家の者共が泊まっているのは何なのだ?」
「今、泊まって頂いている方達ですか?」
「ただで泊まっているのは知っておるのだぞ?」
「いいえ。料金はお支払い頂いております」
「嘘を吐け。王都を出発する者達が、ただで旅行出来ると話していた事は分かっているのだ」
「どなたの発言か分かりませんが、今御滞在頂いている方達の分も、船代を含めて先払いして頂いております。支払いは別の方々となりますけれど」
「別の?」
「はい。今現在は、コーダロ侯爵家、コークル侯爵家、コーサレル侯爵家、コーセント侯爵家、コーハナル侯爵家、コードナ侯爵家に料金をお支払い頂いて、六家の貸し切りとして御利用頂いております」
「貸し切り?料金を払っているのか?」
「はい。六家には規定通りの料金を前払いでお支払い頂いております」
「では、ただで旅行出来ると言うのは・・・」
「各家が御招待なさった方々からのお話ではないかと考えられます」
「いや、貸し切りって、六家だとしても、かなりの額ではないのか?」
「はい。ありがたい事です」
ミリは深く肯く。
「貸し切りですので、一番高いクラスを基準にした料金設定になります。もちろん料金だけではなく、提供させて頂くサービスや料理も、一番高いものとなります」
「それは・・・身内割引とかでもなく?」
「はい。これから同じサービスを御予約頂く場合と、同じ料金で提供しております」
ミリは発言者から顔を上げて、参加者達を見回した。
「料金表はお手許の資料に記載しております。今後、金額を抑えたコースなどの提供も考えてはおりますが、それらは御利用頂いた方々の御意見を基に検討致しますので、御利用頂けるのはしばらく先となります」
そう言うとミリは、発言者に視線を戻す。
「一年後には全体を見直す予定ではありますが、一年間は値下げはあっても値上げはせずにこの料金で提供致しますので、御予約の申し込みの前に御確認頂ければと思います」
そう言ってミリは発言者に微笑みを向けた。




