予約のクラスと家格の上下
議場が静まるとソロン王太子は口を開く。
「今まで同じ様な状況では、王族に対して忖度する事があったと思う」
参加者の内の何人かは何か覚えがあるのか、互いに目配せをすると肯き合った。ソロン王太子はそれを視野の端に感じ、声の調子を少し強める。
「しかし私はそれを望まない」
目配せしていた参加者達は困惑した表情をソロン王太子に向けたが、ソロン王太子に向けて小さく何度か肯く参加者もいた。
「どうしても必要な時には相談をさせて貰う事もあるだろう。しかしこちらの都合を押し付ける事で、経済的にも人的にも心理的にも、下位の者に負担を掛けてしまう事は理解している」
参加者の一部は眉根を寄せるが、一部は確りと肯く。
「そしてそれは上位の立場の者が避けるべきである事も」
ソロン王太子はまた参加者達を見回した。
「それはコーカデス商会への予約に限らない。もし今後、私の名を使っての無理強いをされる事があったのなら、私に連絡をする様に。私の名を騙る事はそれこそ不敬に当たるし、内容に拠っては詐欺にもなる。確りと調査を行って該当者は厳罰に処すので、安心して報告をして欲しい」
参加者の何人かは顔を強張らせて背筋を伸ばす。
ソロン王太子は立っている発言者に視線を向けた。発言者はソロン王太子に見詰められて、唾を飲み込む。
「それは不敬を持ち出して、人の意見を封じる事も含む。王族の意志を勝手に騙るなど、それこそ不敬であると弁えて欲しい」
発言者はもう一度、唾を飲み込んだ。
ソロン王太子はミリに体を向ける。
「説明会の主旨と異なる発言をしてしまった。ミリ殿、申し訳ない」
そう言うとソロン王太子はミリに向けて頭を下げた。その事に議場が響めく。
ミリはソロン王太子には言葉を返さず、ミリも同様にソロン王太子に頭を下げて返した。
「それでは続けてくれ」
頭を上げたソロン王太子が座りながらそう言うと、頭を上げて「はい」と答えたミリは体を発言者に向ける。
発言者は口を一度開き、直ぐに閉じてもう一度唾を飲み込んでから、また口を開いた。
「それならですね?同じ日に平民が貴族クラスを予約していて貴族が一般クラスを予約していたらどうなるのでしょうか?」
少し早口での発言者の問いに、ミリは小首を傾げる。
「どうなる、と言うのはどう言う意味ですか?」
「平民を貴族クラスに泊めて、貴族を一般クラスに泊めるのですか?」
「そう御予約を頂いたのでしたら、その通りですけれど?」
「その様な事が赦されるのですか?」
「赦される?どなたにですか?」
「泊まる貴族にですよ。平民だって貴族に申し訳なく思います」
「どなたが泊まっていらっしゃっるかも、どなたが泊まっていらっしゃったかも、お客様にお伝えする事はありません」
「え?でも、王太子御夫妻とコーハナル侯爵家の若夫妻は泊まったのですよね?」
「その情報も、わたくし共は口外しておりません。王太子御夫妻とコーハナル御夫妻が伝えた方から広まったのだと伺っています」
「それでは、貴族にも平民にも伝えないのですか?」
「はい」
「それは、後から知ったら気不味いではないですか」
「そう感じる方もいらっしゃるかも知れません」
「その人達にはフォローはないのですか?お詫びとか」
「はい」
肯くミリを見て発言者は顔を蹙めたが、ミリは表情を変えずに続けた。
「先程も申しました通り、コーハナル商会の用意したホテルやレストラン等は、お客様としては平民を想定しております。それですので、貴族家の方にはお気に召さない点もあるかも知れません」
「気に入らないなら来るな、と言うのですか?」
発言者の顔が意地悪く歪む。ミリは表情を変えずに肯いた。
「はい」
発言者と何人かの参加者が驚きを顔に表す。バルの父ガダ・コードナ侯爵とパノの弟スディオ・コーハナルは笑いを堪えた。ソロン王太子とレントは苦笑を滲ませる。
発言者は顔を蹙めた。
「つまりミリ・コードナ様は、妊娠する秘術を人質にして、貴族に言う事を聞かせようと言うのですね?」
議場が響めく。何人もの参加者がミリを睨んだ。
スディオは堪えたが、ガダは笑いを小さく漏らしてしまう。
ソロン王太子は眉根を寄せた。レントは目を閉じて僅かに顔を伏せ、首を小さく左右に振る。
ミリは、発言者が言いたかったのはやはりこれか、と思って小さく息を吐いた。
「確実に妊娠する方法が存在すれば、それは利益に繋がります」
「だから取り引き材料にしようと言うのですよね?」
「存在しないものを取り引き材料にする事も世の中にはありますが、その詐欺は一度しか使えません。コーカデス領に港町を作ってホテルやレストランを建てた費用が回収出来る程の取り引きが、一度で行える筈がありません」
「だから、予約したければ言う事を聞けと」
「この後」
ミリは発言者の言葉を遮る。
「御予約方法を説明致します。それを聞いても今のお考えが変わらなければ、その後でもう一度、今のお言葉を仰って下さい」
そう言ってミリは発言者を見詰めた。
発言者は口を何度か開け閉めしたけれど、もう一押しする言葉が見付からない。味方を求めて周りを見回すと、発言者には厳しい視線が集まっていた。そして味方の筈の者達は皆、顔を伏せている。
「良いでしょう」
発言者が座りながら言った負け惜しみの様な言葉に、ガダが我慢できずにふっと漏らした笑いの息に釣られて、スディオを始めた何人かも笑いの息を漏らしていた。




