秘密の流れ道
学院でホテル等の予約を求められたレントは、放課後直ぐにコーハナル侯爵邸にミリを訪ねた。しかしミリがコードナ侯爵邸にいる事を聞いて、そちらに帰る事にする。
チリン・コーハナル元王女の妊娠の真偽を確認する事を考えたけれど、それ程親しくないコーハナル侯爵邸で自分が口にする話題ではないとレントは思い直した。
コードナ侯爵邸でミリに会えたレントは、学院での様子を伝えて対策の相談をミリに持ち掛ける。
しかし、ニッキ王太子妃とチリンが妊娠した事が生徒の間に広まっている事に驚いたミリは、それを報せる為の王宮への遣いを直ぐさまコードナ侯爵家に出して貰い、自分はレントを連れてコーハナル侯爵邸に向かった。
コーハナル侯爵邸では、ミリからの話を聞いてチリンと夫のスディオ・コーハナルが驚く。そしてレントから詳しい状況の説明を受けると、王宮に事実確認を求める連絡をスディオが送った。
ミリは怒っているチリンの気持ちを落ち着かせ様とする。王宮から何らかの連絡があった時の為に、スディオに求められてレントもコーハナル侯爵邸で待機をする事になった。
状況的に、チリンも妊娠している事をレントは悟る。
ただしレントは、怒っているチリンからは離され、つまりミリからも離され、スディオも色々と忙しくしていたので、一人でお茶を飲んでお菓子を食べて、何か起こるまではただ待っている事になった。
コードナ侯爵家とコーハナル侯爵家からの連絡で、学院の生徒達にニッキ王太子妃とチリンの妊娠の情報が広まっている事を知った国王と王妃とソロン王太子は、手遅れである事を悟る。
妊娠は事実なので、今から否定するのもおかしい。順調なら数ヶ月後には妊娠を公表する事になるし、今否定すれば公表した時に、嘘を吐いていた事を知られる事になる。
しかし妊娠を肯定して良いのかも検討が必要だ。
タラン・コウグ次期公爵の様に、コーカデス領のホテル滞在と妊娠を結び付ける人間は出て来るだろう。と言うか、王家も既に結び付けて考えている。
そうしたらホテルの予約が殺到するかも知れない。実際に学院では既に、予約申し込みが何件もあったとの報告だ。予約申し込みがあっても受け付けていないのだから、まだ準備が出来ていないのだろう。
ソロン王太子は、ミリやレントの時間を取り過ぎると思ったのもあってサニン王子の勉強会を中止にしたのに、またミリとレントに負荷を掛けてしまうであろう事にも気を滅入らせた。
催促を受けたタランが王宮に到着したのは、その様な状況の中だった。
王妃はタランが姿を見せるなり、秘密を漏らした事を前置きもなくいきなり責める。
「なぜ秘密を人に話したのですか!」
「え?何の事でしょう?」
「チリンの事よ!」
「妊娠に付いて、王太子妃の事もだ」
ソロン王太子が口を挟む。タランは眉尻を下げた。
「秘密を漏らしたりはしていません」
「コードナ侯爵から、王太子妃が妊娠したのは本当かと問い合わせがあった」
「え?」
「コーハナル侯爵家からもよ!」
「え?コーハナル侯爵家?」
「コードナ侯爵家から、チリン・コーハナル殿が妊娠したとタラン殿が伝えたが本当なのかとの問い合わせがあったと、コーハナル侯爵家からも問い合わせがあった」
「いや、ですが、それは、そこは秘密ではないでしょう?」
「秘密だと言ったではないの!」
「いや、だって、王太子妃殿下もチリン殿も、ミリ・コードナが出産のフォローをするのですよね?」
「だからってなんでコードナ侯爵に話してしまうのよ!」
「え?だって、ミリ・コードナが」
「ミリ殿はコードナ侯爵に伝えていないだろう」
「え?」
「王家もコーハナル侯爵家も、まだ妊娠を公表していないのだから」
「いや、そうだけれど」
「タラン?妊娠の事はミリ・コードナ殿が先に口にしたの?」
「え?・・・いいえ。最初はミリ・コードナは、二人の妊娠を知らない振りをしてましたから」
「最初は?タラン殿との会話中に、二人の妊娠をミリ殿は認めたのか?」
「いや?どうだっただろう?」
「最後まで、ミリ殿は知らない振りをしていたのではないのか?」
「そうよね。そうでなければ、コードナ侯爵がわざわざ問い合わせて来たりしないでしょうし」
「そうだったかも知れません」
「そうだったかもではないではありませんか!」
「あ、はい」
「それでタラン殿?他に誰に秘密を漏らしたのだ?」
「え?いや、誰にも伝えていませんが?」
「昨日、ミリ殿の下に使者を送ったそうだが、その者にも伝えていないのだな?」
「え?・・・家の者には何人か」
「何をやってるのですか!」
「秘密を漏らしているではないか」
「いや、ですが、コーカデス子爵領に滞在するのに、妻に理由を言わない訳にはいかないではありませんか?留守にするのに父にも説明は必要ですし」
「ハッカ殿に伝えたのですか?」
「え?ええ。ハッカと一緒に行く必要がありますし」
「ハッカ殿に口止めはしましたね?」
「それはもちろんです」
「ハッカ殿はコウゾ公爵家にも伝えていませんね?」
「え?・・・そうだとは思いますが」
「断言はできないのですか?」
「・・・確認します」
タランの返事に王妃は拳に力を込めたけれど、ふっと体の力を抜くと拳も開く。
「コウグ公爵家からなのかコウゾ公爵家からなのか分かりませんが、学院では王太子妃とチリンが妊娠した事が、広まったそうです」
「・・・え?」
「コーカデス卿からの報告だ。誰が始めに言い出したのかは分からないそうだが、複数の生徒が王太子妃とチリン殿の妊娠を知っていたので、学院では事実として話が広まったそうだ」
「え?」
「授業が終わって大分経つ。タラン殿が来るまでに既に、各家に広まっているだろうな」
ソロン王太子の嫌味に、タランは何も返せなかった。




