秘密の流出入
妻を妊娠させたいと言うタラン・コウグ次期公爵に、求める物が分かればそれを提供するとミリが約束した事で、タランを引き上げさせる事が出来た。
タランが帰った後直ぐにコードナ侯爵家から、王家にはニッキ王太子妃の、コーハナル侯爵家にはチリン・コーハナル元王女の、それぞれの妊娠がタランから知らされたが事実なのか、との確認をする手紙を送った。
その手紙には両方が事実だと知っているミリからの、詳しい経緯を書いた手紙も添える。
ミリは手紙の内容をバルの両親であるガダ・コードナ侯爵とリルデ・コードナ侯爵夫人には秘密にした。だが、ミリが秘密の手紙を添えた事で、ニッキ王太子妃とチリンの妊娠が事実なのだと、ガダもリルデも確信する。
しかしミリが秘密にした意味は理解しているので、二人とも王家とコーハナル侯爵家からの返事が来るまでは、知らない振りをする事にした。
そして二人が知らない振りをしてくれているだろう事は、ミリも理解している。
チリンとその夫のスディオ・コーハナルはコードナ侯爵家とミリからの連絡を受け取ると、コードナ侯爵家には事実を認めた上で、まだ秘密にして欲しいとの返事を返した。
そして王家にはスディオの名で事実確認を求める手紙と、チリンの名で王妃に抗議と非難をする手紙を送る。
ミリは、タランの情報源が王妃なら、何が妊娠に効果があったのかなど分からない事を知っていた。それなので結局はタランが、コーカデス領の港町への滞在を望むだろうと、ミリは思っている。
それでもタランを帰らせたのは、時間稼ぎの為だった。
港町のホテルやレストランの事はまだ公表していないので、コーカデス商会はまだ、予約を受け付ける為の準備をしていなかったのだ。
ミリもラーラも、予約済みの利用者達の感想を元に、安価なコースなども作ろうとしていた。
何しろ今は、チリン・コーハナル元王女とニッキ王太子妃が利用したフルコースしかない。そしてフルコースだけでは並行して複数の客に利用して貰う事が難しく、稼働出来ないホテルの部屋やレストランの席が発生する。その売り上げが得られない分も上乗せさざるを得ず、その為にただでさえ高いフルコースの金額は、更に割高になっていた。
コウグ公爵家が予約をしたら、その配下の貴族家も予約してくるに違いない。
それなので、コース設定は後回しにするとしても、早急に予約を管理出来る様にしなければならなかった。
しかし、ミリの準備は結局間に合わない事になる。
その日のまだ朝の内、学院の授業前の教室で、レントは生徒達に囲まれていた。生徒達はレントに、コーカデス領のホテルと船の予約の説明を求めたのだ。
その話が聞こえたクラス中の生徒にレントは囲まれて、その後は上級生も集まって来て、休み時間毎にレントを囲む人数は増える。直接予約を求める生徒も現れ、そうすると他の生徒も取り敢えず予約だけでもしようとしてくる。
しかし時間が経っても生徒達が得られる情報は増えないし、もちろんレントに予約を受け付けて貰える事もなかった。
レントはコウグ公爵家の使者が前日にミリを訪ねて来た話は、ミリから連絡を受けて知っていた。
レントはニッキ王太子妃の妊娠は聞いていたが、ソロン王太子からは口止めされていた。そしてレントはその時点ではまだ、チリンの妊娠を知らない。それはどちらもまだ公表されていない情報だった。
しかしレントに予約の話を訊きに来た生徒が、ニッキ王太子妃とチリンの妊娠を口に出してしまった。それを知っていた他の生徒も、二人の妊娠を肯定してしまう。そしてそれはレントの周りに集まった生徒を通して、各家に伝わってしまう事になる。
ミリからの手紙を読んだソロン王太子は、コードナ侯爵家からの手紙も直ぐに開封し、事実を質しに王妃の下に向かっていた。
そこで王妃は、タランにニッキ王太子妃とチリンの妊娠を伝えた事は認めたが、それは秘密にする約束をしての事だと主張する。
どう後始末をするかで王妃とソロン王太子が話しているところに、コーハナル侯爵家からスディオとチリンの手紙が届いた。
コードナ侯爵家から王家への手紙には、チリンの事は書かれていなかった。それはコーハナル侯爵家がまだ公表していないからだ。ガダもリルデも王家はチリンの妊娠を知っているだろうとは思っていたけれど、公表されていない事をわざわざ伝えたりはしない。
そしてミリも、王家の誰に見られるか分からないので、手紙の中でチリンの事には触れていなかった。
そこにスディオからの事実確認と、チリンからの非難の手紙を受け取って、王妃もソロン王太子も頭を抱える事になる。
ソロン王太子は取り敢えずコーハナル侯爵家に、チリンの妊娠を王妃からタランに伝えた事を知らせた。そして先ずタランに秘密を漏らさない事を改めて誓約させ、秘密の話をタランが何故コードナ侯爵家で話してしまったのか、他にも話してしまっていないのかを確認する事を約束する。
その後直ぐにソロン王太子は国王に、タランの召喚を要請した。
チリンが怒っているとソロン王太子から聞いた国王は、タランの召喚を即決し、即行で召喚状を用意して、タランの下へ届けさせる。
一方でタランは王妃に宛てて、翌日に訪ねる連絡をしていた。それはニッキ王太子妃とチリンが、何をしたから妊娠したのか確認をする為だった。
それなので王宮から受け取った召喚状も、いつもの王妃からの了承の連絡だと思って、中身の確認を後回しにしていた。
コウグ公爵邸は王都の暴動の時に焼け落ちて、いまだ再建していない。それなのでタランはホテルに泊まっていた。
コウグ公爵家の使用人が召喚状を受け取っていたら、それが王妃からのいつもの手紙とは違う事に気付いただろう。しかしホテルの従業員が受け取ってタランの下に届けて来たので、手紙の重要度がタランに伝わっていなかった。
タランからの返事もなく、本人も姿を現さない為、王宮からタランの下に改めて使者が遣わされ、タランは初めて召喚されていた事を知る。
そして急いで国王の下を訪ねられる服装に着替えて、馬車を急がせて王宮に着くが、その時にはもう日は暮れていた。




