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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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タランの喩え

 ミリの拒否に、タラン・コウグ次期公爵は明らかに顔を蹙めた。


「いいか?物事は上流から下流に流れるのだ」


 前日に自分が使者に向けて言ったのと同じ様な事を言われて、ミリはどう返すかに少し迷う。結局ミリは言葉を返さず肯きもせずに、タランの次の言葉を待った。


「途中を飛ばしたり逆流したりするのは、非常に危険であるとは教わっていないのか?」

「はい」


 ミリに肯かれるとは思っていなかったタランは、驚きを顔に浮かべる。


「え?・・・教わっていない?」

「はい」

「・・・念の為に言うが、流れと言うのは喩えだぞ?」

「はい」


 タランはバルの父ガダ・コードナ侯爵に顔を向ける。


「コードナ卿?デドラ殿に教育を受けたミリと言うのは、この者ではないのか?」

「いいや、このミリだね」

「コーハナル侯爵家のピナ殿に教育を受けたのも?」

「ああ、このミリだ」


 タランは再びミリに顔を向ける。


「貴族の家には家格の差がある。コウグ公爵家はコードナ侯爵家より家格が上だ。それは理解しているか?」

「はい」

「それなら何故、次期公爵である私の話を受け入れないと言う判断になるのだ」

「コーカデス領の港町のホテルやレストランの経営に、コードナ侯爵家は関与しておりません」

「なに?そうなのか?」

「はい」

「いや、仮にそうだとしてもだ。仮にもお前はコードナを名乗っているのだろう?」


 タランの「仮にも」の言葉にガダは片眉を僅かに上げ、バルの母リルデ・コードナ侯爵夫人は両目を僅かに細めた。

 しかしミリは表情を変えずにタランに返す。


「わたくしはお客様を優先する経営を心掛けております。それを守る事は、家名に恥じない為にも必要だと考えております」


 タランは首を左右に振った。


「いやいやそうではない。良いか?コウグ公爵家が王妃陛下の実家である事は知っているな?」

「はい」

「詰まりは公爵三家の中でも、先ず重んじられなければならない家なのだ」


 ミリはまた肯きも返しもせず、タランの次の言葉を待つ。

 ミリがなかなか反応しないので、タランの方が先に待ちきれなくなった。


「うん?私の話を聞いているか?」

「はい」

「それならコウグ公爵家には、王家の次にホテルの宿泊の話を持って来るべきだったと分かるな?」

「ホテルもレストランも、平民の利用を考えています」

「何?!コウグ公爵家より平民を先に泊めると言うのか?」

「先に予約を頂いたのでしたら、そうなります」

「いや、なぜそうなるのだ?いいか?川に喩えるぞ?」


 タランは片手をミリの目の前に差し出し、親指と人差し指で幅を作る。


「川をどこまでも遡ると」


 そう言いながらタランは、親指と人差し指の幅を狭めながら、手を少しずつ上に上げて言った。


「やがて源流と言うのになる」


 タランは手を上げきったところで止める。


「そして源流は一滴の水にまで遡れるのだ」


 タランは人差し指を真上に立てた。


「この高貴な一滴が王族だ。そこからこの国の貴族が生まれる。そして」


 タランは真上に上げた人差し指に、もう一方の手の人差し指で触れる。最初の人差し指はそのままの位置に留め、後からの人差し指と親指との幅を少しずつ広げながら、手を下げて行った。


「だんだんと高貴さは薄まりながら川幅は広くなり、流れは遅くなって澱んで水は汚れ、そして海に流れ込む」


 タランは「ぺし」と音を鳴らして、テーブルに手のひらを載せる。


「ここが平民だ」


 タランは「ぺしぺし」とテーブルを手のひらで叩いた。


 王都の港に流れ込む川は、生活排水も流される王都の水堀と繋がっている為に、確かに汚れている。しかしコーカデス領の川は海に流れ込むところも綺麗で、ミリはそちらを想像していた。

 それにこの国の川の源流はいずれも湧き水で、王都の川も遡れば複数の湧き水に辿り着く。しかしその事をタランに言うと、元が天から落ちる雨だとの話にでもなれば、更に王家の神格化にまで話が広がるかも知れないと思って、ミリは黙っている事にした。


 待ってもミリが反応を示さないので、タランは顔を蹙め、話を続ける。


「この汚れた水が逆流してみろ。更に汚れが酷くなる事は分かるだろう?」

「仰る意味は分かります」

「それをお前はやろうとしているのだ」

「その意味では、ホテルもレストランも平民向けのものなのです」

「・・・え?」


 タランは目を見開いた。


「お前は何を言っているのだ?」

「ホテルもレストランも、利用者には平民を想定して作りました」

「何を言っている?王太子夫妻を泊めたのだろう?」

「はい」

「平民が泊まる様な部屋に二人を泊めたのか?」

「王族の方に泊まって頂ける品位の部屋を御利用頂きました」

「いや?え?どう言う意味だ?」

「平民でも、王族や貴族の様に扱われる事を体験できる施設として、ホテルとレストランを作ったのです。ですから普段のお客様は平民を想定しています」

「いや、だが、王太子夫妻を泊めたのだよな?」

「はい。お泊まり頂きました」

「その同じ部屋を平民にも使わせると言うのか?」

「はい。平民用ですが王族向けの部屋なのです。ですからお客様が平民でも、逆流とはなりません」

「平民向けのホテルをわざわざ建てたのか?」

「はい。ですので先程のコウグ様の喩えを使いますと、コウグ様に御利用頂くと、コウグ様が汚れてしまう事になります」


 ミリにそう言われ、タランは顔を蹙める。

 表情を消してタランの反応を待つミリの両脇で、ガダとリルデは笑いを堪えていた。

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