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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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タランの来訪

 コウグ公爵家の使者がミリを訪ねて来た次の日、コードナ侯爵家にコウグ公爵家から先触れが遣わされた。今度はタラン・コウグ次期公爵がミリを訪ねて来ると言う。

 ミリはコードナ侯爵邸に出向き、タランの到着を待った。



 コードナ侯爵邸に着いたタランは、応接室に通される。ドアを潜ると直ぐに、バルの父ガダ・コードナ侯爵が声を掛けた。


「自ら謝罪に来るとは感心だね、タラン殿」

「・・・コードナ卿」


 先触れには謝罪の話など持たせてはいないし、謝罪に来た積もりではなかったタランは顔を僅かに蹙める。

 ガダの隣にはミリが立ち、その隣にバルの母リルデ・コードナ侯爵夫人が立って、ミリはガダとリルデに挟まれていた。


「ようこそ、タラン殿。お久しぶりですね」


 リルデは微笑みをタランに向ける。


「ええ」


 タランは僅かに顎を上げて一言だけリルデに返した。気分の悪さがタランの表情に滲む。

 それに構わずに、ガダがミリに顔を向けた。


「ミリ。彼がタラン・コウグ殿だ」


 そう言ってガダはミリにタランを手で示す。そしてガダはタランに顔を向けて、表情で名乗りをタランに促した。

 タランはまた顔を僅かに蹙めながら、ミリに顔を向ける。


「コウグ公爵タモンの長男、タランだ」


 ミリはタランに向けて、上位貴族への礼を取った。

 タランは僅かに蹙めた顔のままで、息を吐いて一拍置く。


「・・・お前の名は?」


 タランはミリに名乗りの機会を与えたけれど、タランが「君」ではなく「お前」と言った事に、ガダとリルデの片眉が上がった。

 その事にミリは構わずに、タランに名乗り返す。


「はい、タラン・コウグ様。コードナ侯爵ガダの三男バルの長女のミリ・コードナと申します。お目に掛かれて光栄です」

「私の自慢の孫だ」


 ガダが孫を強く発音した。前日にリルデが同じ様にした事は、コウグ公爵家の使者には通じなかったけれど、タランは意味を理解して、また顔を僅かに蹙める。

 そしてタランはガダにもミリにも何とも返さない。それを返せないのだと受け取って、ガダとリルデは表情に笑みを滲ませた。


「さあ、座ってくれ」


 着席を促すガダの声にも、タランは顔を僅かに蹙める。


 タランの向かいにミリを挟んでガダとリルデが座る。

 この場の顔触れであれば、ガダとリルデだけ座ってミリを後に立たせるのが通常だが、タランが訪ねて来たのはミリなので、ミリも着席をした。

 しかし普通なら、ガダが中心で左右がリルデとミリだ。それなのにミリを真ん中にしている。これはミリに向けた言葉でも、ガダとリルデが受けて立つとの意志表示だった。

 そしてそれはタランにも正しく伝わり、タランはまた顔を僅かに顰める。



 どちらから話を切り出すか、僅かな時間の探り合いが起こり、先ずはガダが口を開いた。


「書面での抗議に対して、書面ではなくこうしてタラン殿自ら頭を下げに来てくれるなど、上に立つ者として立派な事だ」


 タランはガダの言葉に、明らかに顔を蹙める。


「勘違いは()めて欲しい、コードナ卿」


 ガダは眉間に皺を寄せてみせた。


「うん?勘違いか?」

「そうだ。今日はコーカデス子爵領への船の乗船券を受け取りに来たのだ」


 ガダが小首を傾げてみせる。


「タラン殿は昨日の、コウグ公爵家に我がコードナ侯爵家から送った抗議の手紙には、目を通していないのか?」

「昨日の事で抗議があるのはこちらだ。船には乗せずにホテルにも泊まらせないとは、一体どう言う事なのだ」


 謝る気のないタラン相手に、昨日の事をこれ以上遣り取りしても時間の無駄になるだろうと、ガダもリルデも感じた。それならさっさと話を進めて、さっさとタランを帰らせた方が良い。

 二人はお互いを見て目を合わせ、そして一緒にミリに視線を向ける。

 ガダもリルデもミリを守る積もりだけれど、目の前のタランの様子ならミリに任せても大丈夫で、自分達が口を挟む迄の事もないと二人とも判断した。


 ミリはタランに向けて、用意していた資料を見せる。


「こちらが現在のホテルの予約の空き状況になっております」


 タランは資料にちらりと視線を送ると、わざと音が鳴る様に指を広げた手のひらを「ぺし」と資料に載せた。


「・・・なんだこれは」

「本日の時点では、その日以降でしたら御予約頂けます」


 タランは手を一旦持ち上げて、また「ぺし」と音が立つ様に資料の上に落とす。


「話を聞いていないのか?私は明日の船の話をしているのだ」

「なるほど、そうでしたか。タラン・コウグ様は使者の方から、予約に関してのお話を聞いていらっしゃらない様ですので、改めて御説明致します」

「違う」


 タランは「ぺしぺし」と資料を二度叩いた。


「明日の船の乗船券を渡せと言っているのだ」


 そう言ってタランはもう一度資料を叩く。

 ミリは表情を変えずに言葉を返した。


「明日、コーカデス領の港町に向かう船が王都から出航致しますが、そちらは既に他の方に御予約を頂いております」

「だから」


 そう言いながらタランは、今度は声に合わせて三度資料を叩く。


「その予約を私に寄越せと言っているのだ」

「お断りさせて頂きます」

「・・・何だと?」

「お断りさせて頂きます」


 ミリは綺麗にもう一度繰り返した。

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