レントの更なる告白とソロン王太子の見解
「その、その積もりと言うのは?」
サニン王子はレントに尋ねる。
「今、サニン殿下が仰った通り、わたくしはミリ様に結婚して頂きたいと思っております」
小さく肯きながらレントは微笑んで見せた。サニン王子は首を傾げて顔を蹙める。
「え?誰と?」
「もちろんわたくしとです。ミリ様にはわたくしと結婚して頂きたいのです」
ソロン王太子は眉尻を下げた。
「まさか、コーカデス卿とミリ殿は既に、婚約しているのか?」
この国では貴族同士の結婚には、国王の承認が必要だ。しかしソロン王太子は国王から、レントとミリの婚約の話など聞いていなかった。
レントは小さく首を左右に振る。
「いいえ。プロポーズをさせて頂いておりますが、まだミリ様には受け入れて頂けておりません」
「ミリ殿と結婚など出来ないだろう?」
「確かに」
サニン王子がミリの出自に言及するかと思い、レントは食い気味に言葉を被せた。
「コーカデス家は子爵ですので、侯爵令嬢であるミリ様とわたくしでは家格が吊り合いません。その為に爵位を戻したいと考えて、領地の開発を進めております」
「ミリ殿本人に手伝って貰ってか?」
「はい」
躊躇せずに潔く肯くレントに、サニン王子は呆れる。そしてミリに顔を向けた。
「ミリ殿もそれを承知で、コーカデス領の開発を手伝っているのか?」
「いいえ。家格うんぬんの為に爵位を取り戻したいと考えているとは、思っておりませんでした」
「それではミリ殿は、コーカデス卿と結婚する為に、領地開発をしている訳ではないのだな?」
「そこまでにしておけ、サニン」
ソロン王太子がサニン王子の問いを遮る。
「何故ですか?父上?」
「婚姻は家同士の話だ。貴族家の婚姻に王家が口を挟んではならない」
「それは習いましたが」
「ミリ殿」
「はい、王太子殿下」
「コーカデス卿」
「はい、王太子殿下」
「サニンの勉強を助けて貰う話も、王太子妃の出産を助けて貰う話も、一旦なかった事にしてくれ」
「え?」
サニン王子が驚くが、ソロン王太子はそれに構わず続けた。
「皆を集めての勉強会もだ。明日以降は行わない。もちろん、サニンとミリ殿との交際練習もだね」
「何故ですか?父上?」
「この場はこれで終わりだ。サニンとはこの後、話の時間を設ける。良いな?」
「・・・分かりました」
ソロン王太子はサニンに小さく肯いて、ミリとレントに視線を巡らせた。
「二人も、それで良いだろうか?」
「はい」
「はい。結構です」
ミリもレントも肯く。
「この場で出して貰った提案は、持ち帰らせて貰う。検討してから改めて相談をさせて貰うかも知れないので、その際にはよろしく頼む」
「はい。畏まりました」
「畏まりました」
ミリとレントはソロン王太子に頭を下げた。
「では、今日はここまでとしよう。忙しい中、ありがとう」
そう言うとソロン王太子が立ち上がるので、ミリとレントも立ち上がり、一拍遅れてサニン王子も立ち上がる。
ミリとレントは頭を下げて、ソロン王太子とサニン王子が退室するのを送った。
ソロン王太子とサニン王子は別室に移る。
ソロン王太子の側仕えと護衛以外が退室すると、ソロン王太子は目を閉じて深い溜め息を吐きながら、椅子の背凭れに体を預けた。
ソロン王太子の体が後ろに下がった分は、サニン王子が体を前に出す。
「父上?ミリ殿はコーカデス卿と結婚出来るのですか?」
ソロン王太子は片目だけ薄く開いて、サニン王子の表情を確認した。
「可能か不可能かで言えば、可能だな」
「ですが、ミリ殿には貴族の血が流れていませんよ?」
「ミリ殿はバル殿の娘だ。法律的には何の問題もない」
「そうではなく、常識的には問題があります」
「コードナ侯爵家がバル殿の娘と認めている事に異議を唱えるのは、常識的とは言えないだろう?」
「・・・コーカデス卿とミリ殿の結婚をお祖父様は認めないと思いますが?」
「王家は権力バランスに問題がなければ、承認するだけだ。コーカデス子爵家はコードナ侯爵家の配下に入っているのだから、国王陛下も認めるだろう。まあ、少しは悩まれるかも知れないが」
「もし父上でも認めるのですか?」
「ああ。もしサニンなら認めないかい?」
「・・・理屈では分かるのですが」
「ミリ殿はバル殿の血を引いている可能性もある」
「え?・・・そうなのですか?」
「・・・本当のところはバル殿とラーラ殿しか分からないけれどね」
「でも皆、ミリ殿は犯罪者の血を引いていると」
「それはミリ殿もそう考えている様だけれどね」
「しかしコーカデス卿は、そうは思ってはいないと」
「コーカデス卿はミリ殿が、誰の血を引いていても構わないのではないかな」
「え?」
「私はそう感じたけれど」
「もしミリ殿が犯罪者の血を引く事が事実と分かっても、それを無視して結婚すると?」
「結婚出来ればね」
「出来ればと言うのは、周囲が許さないからですか?」
「まあ、コーカデス子爵家内は反対するだろうし、なによりバル殿が許さないと思ったのだけれどね。でも、交際練習は許可したと言うし」
「やはり交際練習は結婚を視野に入れるのですか?」
「調べた限りはそう思えるよ」
「と言う事は、ミリ殿もコーカデス卿との結婚は考えていると?」
「どうだろうね?もしかしたらバル殿を説得するよりも、ミリ殿にプロポーズを受け入れて貰う方が大変なのではないかな?」
目を閉じたソロン王太子の言葉には返さずに、サニン王子は視線を下げて体も下げる。
「・・・コーカデス卿の狙いは、優秀なミリ殿の囲い込みですよね?」
「それもあるだろうね」
「ミリ殿がコーカデス領の開発を手伝う理由は何なのでしょう?」
「楽しいからでは?」
「え?楽しいから?」
サニン王子は眉根を寄せた。
「領民の将来が掛かっているのですよ?」
「領地開発は思い通りに進むと楽しいと言うのはあるよ」
「それは、儲かるからですか?」
「それもあるだろうけれど、ミリ殿もラーラ殿もバル殿も、コーカデス商会を通してかなりの資産を持ち出していると思う」
サニン王子は目を見開く。
「え?利益は上がってないのですか?」
「あれだけの港と町を作ったんだ。投資金額に比べたら、収益は全然だろうね」
「バル殿とラーラ殿は、投資家としても有名ですよね?」
「そうだけれど、ラーラ殿もミリ殿もソウサ商会で行商を経験しているから多分、人々が喜ぶ事を単純に嬉しいと思いそうだと感じるな」
目を瞑ったままソロン王太子は、港町でのラーラ達の様子を思い出していた。
「バル殿は、ラーラ殿が良ければ何でも良さそうだし」
「コーカデス卿はそれを利用して領地開発を」
「そうだろうけれど、どうだろう?」
「どうだろうとは?」
「手段が目的と言うか、手段と周りが思っている事が、コーカデス卿の本当の目的なのかも知れない」
「・・・それはどう言う意味でしょう?」
「そうだね・・・学院ではコーカデス卿ともミリ殿とも一緒になるのだし、自分で答えを見付けて御覧」
サニン王子は眉根を寄せる。
「ミリ殿とは二人きりにならない様に、コーカデス卿とも一緒に、と言うことですね?」
「そうだね。出来たら他の令嬢達も一緒に」
そこまで言ってソロン王太子は、自分の学生時代は他の生徒との交流を殆ど持てなかった事を思い出した。
ソロン王太子は薄目を開けてサニン王子の様子を窺う。
勉強会に来ている令嬢達の様子を思い出しながら、更に眉根を寄せるサニン王子の姿を見て、ソロン王太子はまた目を閉じた。




