サニン王子の論理
サニン王子の言う事はもっともだけれど、レントとの交際練習ならともかく、サニン王子とではどの様なトラブルが起こるか分からない、とミリは考える。
「コーカデス卿にはわたくしとの交際練習に付いて、わたくしの都合を優先して頂ける事になっております」
ミリはやんわりと、サニン王子の申し出を断った積もりだ。しかしサニン王子には、その意図が伝わらなかった。
「ミリ殿の優先度とは、王太子妃殿下の出産の準備を最優先としてくれて、次が私の勉強の補完だろう?もちろんその次で構わない」
「サニン」
ソロン王太子が低い声でサニン王子の名を呼ぶ。サニン王子はソロン王太子に顔を向けてはっとした表情を浮かべると、また直ぐにミリを振り向いた。
「学院が始まったなら、授業が優先だな。その次で良いから」
「サニン。ミリ殿にはミリ殿の生活がある」
「ですがコーカデス領の開発は、コーカデス卿がするべきですし」
「サニン。助言を求められたりした訳でなければ、王族が他家の領政などに口を出してはならない。それは習っただろう?」
「習いましたが父上?私はコーカデス領の領政には、口出ししてはいないではありませんか」
「領地の職務に誰を任命するかなどは、領主の専権事項だ。コーカデス卿がコーカデス商会を通してミリ殿に領地開発を依頼して、コードナ侯爵家もそれを許している。そこに王家が口を挟んだりしたら、コーカデス子爵家とコードナ侯爵家だけではない。他の貴族家からも一斉に反発される」
「王家が貴族家に口を挟むのではなく、ミリ殿の時間を有効に活用する方法を私は提案しているだけではありませんか」
「分かった」
ソロン王太子がまた低い声を出したが、サニン王子は明るく返す。
「分かって頂けましたか」
「その件は後で説明する」
「え?」
「コーカデス子爵家の開発はコーカデス商会を通してミリ殿がする事になっている。これに関わる事は一切口に出すな」
「え?父上?」
「これは命令だ。後で、サニンが納得するまで説明するから、この場では口にしてはならない」
「・・・分かりました」
サニン王子は全然納得が出来なかったけれど、取り敢えず肯いた。
どう考えても、ミリがコーカデス領の開発を手伝う必要があるとは、サニン王子には思えない。ミリに取ってコーカデス領の開発の優先度はかなり低いのだろうから、少しの時間で中途半端に手を出せば、却って開発の邪魔になる。コーカデス子爵家はコードナ侯爵家の配下に入ったと言うのだから、ミリがわざわざ邪魔になる事をするのはおかしい、とサニン王子は思っている。
「そうすると、勉強の補完を引き続きミリ殿にお願いしたい、と言うのも駄目なのですか?」
「今はその時間をコーカデス子爵領の開発に使うと知ってしまっている」
「しかしその話は、この場でコーカデス卿が思い付いた事の様です。ミリ殿はその積もりではなかったのではありませんか?」
「まあ、そうかも知れないが」
「そもそもコーカデス卿は先程、ミリ殿に意見を訊いていませんでしたよね?」
確かにそうだとソロン王太子が小さく肯くのを見て、サニン王子はミリに顔を向けた。
「そしてミリ殿の意見は、王太子殿下と私に従うだったね?」
そうは言ったけれど、今とは文脈か違う。
「わたくしが申しましたのは、わたくしにサニン殿下のお手伝いを続けさせるか否かに付いて、王太子殿下とサニン殿下に従う、と言う意味です」
「うん?詰まり私が望めば、このまま私の勉強を助けてくれると言う事だろう?」
「それは、そうですが・・・」
あの時点まで話を戻すのかと思うと、ミリは少しげんなりした。
サニン王子はミリに肯くとソロン王太子を振り向く。
「と言う事で父上?私はミリ殿に引き続き、勉強の補完をして欲しいです。ただしミリ殿には、母上の出産準備を優先して貰って構いません」
サニン王子はまたミリに顔を向けた。
「そしてミリ殿には、私との交際練習を依頼したい」
「サニン?」
眉根を僅かに寄せるミリに微笑みを向けて、その表情のままサニン王子はソロン王太子を振り向く。
「これなら、コーカデス子爵領の領政には口を出した事になりませんよね?」
「いや、サニン。コーカデス卿がミリ殿に、領地開発を手伝って貰うと言っているではないか」
「コーカデス子爵領の領地開発を手伝うか、私と交際練習をするかは、コードナ侯爵家とミリ殿で決めて貰って良いのですから、口出しにはなりません」
「そうはいかないだろう?」
「父上の仰りたい事も分かりますが、でも、それでは貴族家に遠慮をするばかりになって、貴族家の者達とは、何一つ一緒に出来ないではありませんか」
「貴族家の都合を考慮して、共に行うならその上で行動するのだ」
「全ての貴族家の都合を予め考慮するなど不可能ですし、仮に出来たとしても時間が掛かって手遅れになります。それよりはこうしたいと要望を伝えて、それに協力して貰えるかどうか、検討して貰えば良いのではありませんか?」
「サニンの言う事も確かにそうだが、まず、交際練習は駄目だ」
「え?何故ですか?」
「まず王族には、交際練習をした前例がない」
「前例も何も、父上の世代で始まったのですから、該当するのは父上とチリン殿の二人だけではありませんか」
「それに、交際練習をした相手との結婚率が高い。と言うか、交際練習していない相手と結婚するケースが少ない」
「交際練習はあくまでも練習で、婚約とも違いますよね?」
「もちろんだが、交際練習をしたとなると、周囲からは結婚を念頭に置いていると取られる」
「ですが私は、コウゾ公爵家の令嬢と結婚するのですよ?」
「だから、ミリ殿がコウゾ公爵家の養女になると思われると、言っているではないか」
「交際練習でもですか?」
「そうだ」
「コウゾ公爵家がミリ殿を養女にする可能性がないのに?」
「可能性うんぬんじゃないと言っているだろう?」
「でも、コーカデス卿はミリ殿と交際練習をするのでしょう?」
サニン王子はレントを振り向いた。
「領地開発までミリ殿に手伝って貰っていたら」
サニン王子はそこまで顔をまたソロン王太子に向ける。
「コーカデス卿とミリ殿が、それこそ結婚する積もりだと思われるのではありませんか?」
「わたくしはその積もりです」
その声に、ソロン王太子とサニン王子はレントを見た。
レントは二人に微笑みを返す。
ミリは目を閉じて顔を伏せ、僅かに首を左右に振った。




