サニン王子の言い分
提案をソロン王太子に強い声で否定され、サニン王子は顔を蹙める。
「何故ですか父上?そうすればミリ殿は、時間を有効に活用出来ますよ?」
ソロン王太子は顔を上げて、サニン王子に視線を向けた。
「そう言う問題ではないだろう?未婚の令嬢をお前の傍に置く訳にはいかない事は分かるだろう?」
サニン王子は首を左右に振る。
「いいえ父上。私の傍ではなくて母上の傍です」
ソロン王太子も首を左右に小さく振った。
「いいや、同じ事だ。血の繋がりもない令嬢をその様に我々の傍に置いたら、どの様な噂になるか」
「ミリ殿は今、血の繋がりのないコーハナル侯爵邸で暮らしていますけれど?」
「コーハナル侯爵邸はラーラ殿の養家だ。ミリ殿とは縁がある」
「え?ミリ殿はどこにも縁が」
「サニン!」
サニン王子の言葉をソロン王太子が強く遮る。ソロン王太子は目を瞑りながら大きく息を吸って、気持ちを落ち着けてから目と口を開いた。
「ミリ殿はバル殿の娘でコードナ侯爵家に籍を置き、コーハナル侯爵家にも縁がある。間違えるな」
「・・・はい」
「どちらにしても、貴族の令嬢が他家に留まれば、その家とは婚姻をする事になる」
サニン王子は目を見開く。
「え?もしかして私ともですか?」
サニン王子の頭にはミリの出自が浮かんでいた。犯罪者の娘を王族に迎えるなどあり得ない。
そう思っているからこそミリには、王宮に勤める使用人達と同じ様に部屋を与えれば良いと、サニン王子は考えたのだ。
ソロン王太子はサニン王子の考えを読んで、小さく息を吐く。
「サニンの結婚相手には王宮に部屋を用意する。ニッキも私との婚約中にそうだった。令嬢に部屋を用意すると言う事は、そういう事だ」
それは分かるけれど、サニン王子にはそれはそれで、これはこれだ。
「でも私は、コウゾ公爵家の令嬢と結婚すると、決まっているのですよね?」
「決まってはいないだろう?コウゾ公爵家にはサニンと歳の合う令嬢がいない。まあ、今の様な状況でミリ殿の部屋を王宮に用意したら、ミリ殿がコウゾ公爵家の養女になると受け取られるかもな」
「それは、でも、あり得ないのではありませんか?」
「その様な事をバル殿が許す訳はないけれど、あり得るあり得ないではなく、そう思う者達が現れて、この国に混乱がもたらされる。それだから相手がミリ殿に限らず、王宮に部屋を用意するなどとお前は言ってはならない」
「・・・そうですね。分かりました」
サニン王子が肯いたのでソロン王太子はふっと体の力を抜くが、少し早かった。
「ミリ殿には客間を使って貰えば良いですか?」
「サニン・・・そう言う問題ではないだろう?ミリ殿が王宮に滞在する事が問題なんだ」
「使う部屋を毎日変えても?」
「もちろんだ」
「一日置きに帰って貰うのは?」
「一年の半分を王宮に留まるなど、駄目に決まっているだろう?良いか?実態がどうかではなく、噂が立つ事が問題なのだ。勉強会に他の子息令嬢を招いているのも、サニンとミリ殿を二人きりにしては噂が立ってしまうだろうから、それを防ぐ為だ」
ソロン王太子に強い視線を向けられて、サニン王子は頭を下げる。
「申し訳ありません。その件を失念しておりました」
「大切な事だ」
今度こそサニン王子が理解したと受け取って、ソロン王太子はまた体の力を抜いた。
「自分の身の振り方や、相手の立ち回って貰い方など、常に意識していなくては駄目だ。王族の言動は影響が大きいのだから」
「はい」
視線を下げて肯いたサニン王子は、顔を上げてミリに向ける。
「そもそもミリ殿は、何故コーハナル侯爵邸に滞在しているのだ?」
「ああ、そうか」
ミリが答えるより先に、ソロン王太子が声を出した。サニン王子がソロン王太子に顔を向けて小首を傾げる。
「父上?どうしましたか?」
「いや、ミリ殿?」
「はい、王太子殿下」
「ディリオの面倒も見ているのだよね?」
「ディリオ殿?」
ソロン王太子のミリへの問いに、サニン王子が小首を傾げた。
ミリはサニン王子に小さく肯いてから、ソロン王太子に顔を向ける。
「面倒を見ると言う程ではありませんが、相手をしたり多少の世話をしたりはしております」
「それは使用人の仕事なのでは?」
「サニン」
サニン王子のミリに向けた言葉に、ソロン王太子は顔を蹙めた。ミリは小さく肯く。
「はい。使用人も世話をしますが、チリン様もなさいます。それのお手伝いと言うか真似事もしますけれど、傍で様子を見ていたりするだけの事が多いですね」
「・・・なるほど」
サニン王子は少し考えてから肯いた。
もし自分に弟や妹が生まれても、その世話は使用人達が行うとサニン王子は聞いている。様子を見るだけなら、自分と同い年のミリも出来るのだろうと、サニン王子は納得をした。
「と言う事はミリ殿?ディリオ殿の様子を見ているのは、優先度が低くて構わないと言う事だな?」
サニン王子の言葉に、ソロン王太子はこめかみを押さえる。サニン王子の言葉が元王女チリン・コーハナルの耳に入ったら、自分が責められるだろうとソロン王太子は思った。
ミリも苦笑が浮かびそうになるのを抑えながら肯く。
「サニン殿下の仰る通りです」
「それなら問題ないな。ミリ殿の部屋は用意出来ないが、移動回数が減るだけでもミリ殿の負担は減るだろう。それで良いだろうか?」
ミリとレントの眉が上がった。ソロン王太子も片眉だけ少し上げる。
そこからミリは眉尻を下げた。
「良いと仰るのは何に付いてでしょうか?」
訊かれている事は分かっていたけれど、ミリは念の為にサニン王子に確認をする。
「それは当然、コーカデス卿の代わりに私と交際練習をして、コーカデス卿の代わりに私に授業の補完をして貰う事だよ」
ミリにはサニン王子の言う事はもっともだと思えた。
ただしミリは交際練習をしなくても良い。レントとの交際練習も、レントに強く望まれなければやらなかっただろう。
ソロン王太子はサニン王子の気持ちが少し分かった。サニン王子がこの様な事を言い出したのは、レントがミリの代わりにサニン王子の勉強を補佐する理由が、ミリとの交際練習だったからだ。
ミリに好意を寄せている訳ではないだろうけれど、自分のものを取られる様にサニン王子が感じているのだろうと、ソロン王太子は考えている。
そしてレントには、サニン王子の提案を受け入れられる筈がなかった。




