サニン王子の反撃とレントの告白
「しかしコーカデス卿?」
サニン王子が小首を傾げてレントに呼び掛けたる。
レントは自然と体に力が入る。それはサニン王子の反撃を予感したからなのだけれど、サニン王子の表情からはそれを感じられず、レントは直ぐに少し力を抜いた。
「はい、サニン殿下」
「ミリ殿の代わりをコーカデス卿が全く務められるのなら、私には特に不満はないけれど、でも、コーカデス卿には一体何のメリットがあるのだ?」
「ミリ様にはコーカデス領の開発の手伝いをお願いしております」
「コーカデス商会だったね?」
「はい」
「私への教育より、コーカデス領の開発を優先したと言う事かい?」
「いいえ」
サニン王子の言葉を予想していたレントは、首を小さくゆっくりと左右に振る。
「先程申し上げました通り、サニン殿下の勉強相手には、ミリ様よりもわたくしの方が適任だと考えております」
「それは私には利になるが、コーカデス卿に取っては、学院の授業に出ないだけではなく、コーカデス領の開発からも手を引くのだろう?」
「いえ?わたくしも当然、コーカデス領の開発を行います」
「いや、それはおかしいじゃないか。ミリ殿にコーカデス領の開発を行わせる為にコーカデス卿が私の教育を担当するのなら、コーカデス卿は当然、領地の開発が出来なくなる筈だ」
「いえ。サニン殿下の勉強に携わる代わりは、あくまで学院の授業です。今現在もわたくしが手掛けている領地開発の為の時間は、そのまま継続して領地開発の為に使います」
「その領地開発の為の時間と、私の勉強に付き合う為に掛ける時間と、どちらが長いのだ?」
「それは、サニン殿下との時間の方ですが」
「そうだよね?ほら?おかしいじゃないか?」
「ええと?何がでしょうか?」
「コーカデス卿に取って大切なのは、先ずはミリ殿にコーカデス領の開発をして貰う事の様に思えるけれど?」
「先ずと言いますか、ミリ様にはコーカデス領の開発をお願いしていますが?」
「ミリ殿にコーカデス領の開発をして貰うのは、コーカデス卿が学院で授業を受けるより大切だと言うのだろう?」
「え?ええと、ええ、はい」
「これまでコーカデス卿は、学院で授業を受ける事を優先して、その時間をコーカデス領の開発に使っていなかったのだろう?と言う事は、学院の授業の方が領政より優先だったのに、ミリ殿には領地開発を優先させる。これって変じゃないか」
サニン王子は少し体を乗り出した。
「と言う事はつまり、コーカデス卿かコーカデス領に取って、何か他に利益になる事がある筈だよね?」
「それは、はい」
「勉強を私に教える事で、コーカデス卿が利益を得られるとは思えないし」
「それは、ですが、王太子殿下と王太子妃殿下に、ホテルなどでの研修にお付き合い頂きましたし」
「それはコーカデス商会の利益にはなっても、コーカデス卿やコーカデス領の利益と言うには遠いじゃないか」
「サニン殿下が為政者としての考え方を磨かれる事は、この国の将来の為になりますし、延いては我が領の為にもなると考えております」
「それもあるだろうけれど、他にもある筈だ。コーカデス領にミリ殿の助けが必要なのは、コーカデス領が危機的状況にあるからだろう?将来の事より目の前の利益がなければ、おかしいではないか」
レントがちらりとサニン王子から視線を外すと、ミリと目が合う。視線をサニン王子に戻してから一旦下げ、またサニン王子に合わせてからレントは口を開いた。
「ミリ様に時間の余裕を持って頂くのは、わたくしとの交際練習をして頂く為です」
「交際練習?」
目を見開くサニン王子に向けて、レントは肯く。
「はい」
ソロン王太子も眉を上げて少し顎を引いていたが、ミリは表情を変えなかった。
レントはこの場で交際練習などに言及するかも知れない事に付いて、予めミリに伝えていた。
ソロン王太子が口を挟む。
「コーカデス卿?」
「はい」
「それは、コードナ侯爵家には話を通しているのかい?」
「はい。了承頂いております」
「バル殿も?」
「はい」
「え?バル殿も?本当に?」
ソロン王太子は目を見開いて訊き返した。レントの口角が僅かに上がる。
「はい」
「そうか・・・そうだよね。バル殿が許可しなければ、ミリ殿との交際練習なんて出来ないよね」
「はい」
「え?いつから始めるの?」
「許可はかなり前に頂いたのですが、領地開発を優先して頂いたので、まだそれらしい事は始められておりません。それですので、ミリ様が王都にいらっしゃったのを機に、始める積もりでおりました」
「けれど私がサニンの勉強を見て貰う様に、ミリ殿に依頼してしまったのか」
その通りでもあるけれど、レントは肯定せずにただ視線を下げた。
交際練習よりチリン・コーハナル元王女の出産準備を優先する積もりのミリも視線を下げる。
ソロン王太子も視線を下げた。
「弱ったな」
その呟きにレントとミリは顔を上げて、ソロン王太子を見る。サニン王子もソロン王太子に顔を向けた。
三人の視線に気付いて、ソロン王太子も顔を上げる。そしてミリに向かって苦笑いをした。




