サニン王子へのレントの説得
サニン王子は勉強会の授業中には授業に集中していて、勉強会に参加している他の子供達の様子を気にしてはいなかった。他の子供達はサニン王子の視界に入らない位置に座っているし、サニン王子の邪魔をしない様に物音を立てない様にもしている。
それなので、他の子供達が授業に付いて来ているのかどうか、サニン王子は考えた事がなかった。
「授業に対して特に不満も上がっていないと思うので、付いて来れていない訳ではないのでは?」
授業の様子を見ていたレントは、その様な筈がないと思っている。
「ですがあの者達から、授業内容に関連する話題が出た事もないのではありませんか?」
「それは、その通りだけれど」
「中には授業を理解している様子の者もおりましたが、それはミリ様の様に、授業の内容を既に学んでいるものと見受けられました。そしてそれ以外は、眠気と闘っている者達ばかりです」
「眠気と?」
「はい」
「確かにミリ殿の補足の時はそう言う者達もいたけれど、授業中でもか?」
「はい。サニン殿下への授業のレベルと、それぞれの学力が、合っていないのでしょう」
「そう、なのか」
「はい。それですので勉強会は、その者達に取っては無駄な時間となっております」
「そうだろうな」
「しかし、王族に声を掛けられたのなら、勉強会に参加しない訳にはいきません」
「私がその者達に無駄な時間を過ごさせていると言うのか?」
「はい」
サニン王子が、ではなく、勉強会に他の子供達を参加させる事はミリの提案だった。
「コーカデス卿は勉強会を止めた方が良いと言うのだな?」
「あの者達の為には、そう思います」
「しかしコーカデス卿も学院で、勉強会を主催しているのだろう?」
「あちらは完全に任意ですので、最初は少人数でした。メリットがあると自ら判断した生徒が少しずつ参加して来て、広がっていったのです」
「なるほど・・・分かった」
サニン王子はレントに向けて肯くと、ソロン王太子に顔を向ける。
「父上。勉強会は見直す方向で検討をしてもよろしいでしょうか?」
「いや、だが、それをすると、ミリ殿とサニンの二人で勉強をする事になってしまう」
「・・・なるほど。よろしくない噂が立つと言うのですね?」
「そうだね」
サニン王子とソロン王太子は肯き合うと、二人ともレントに顔を向けた。レントは微笑みを浮かべている。
「それですのでサニン殿下?勉強会はわたくしと二人で致しましょう」
レントの言葉にサニン王子は、その結論に繋げるのか、と驚いた。ソロン王太子はこれを狙っていたのかと、レントの話の持って行き方に感心をする。
そして、途中でこの結論も推測出来ていたミリは、小さく息を吐いていた。
ミリの吐く息に気付いたけれど、レントはミリには視線を向けずに続きを口にする。
「サニン殿下が学ぶ内容は、わたくしは既に修めています。そして疑問を感じた点に付いては、既に調べております」
「それをコーカデス卿から学ぶと言うのか?」
「え?ええ。それでも構いませんけれど、先程サニン殿下が求められた通り、教師の人達に今まで通りに授業を行って貰って、ミリ様がなさった様に休憩時間に補足でも構いません」
「それは、でも、コーカデス卿は無駄だと言っていなかったか?」
「それに付いては取り下げます。サニン殿下に先に考え方を身に付けて頂いた方が良いと思い、先程はそう申しましたけれど、このやり方でも考え方の矯正にはならないとの事ですので、こちらでも構いません」
「そうなのか?」
「はい」
サニン王子は首を傾げた。その様子にレントは強く肯いて返す。
ソロン王太子には、レントが理由と結果をずらしていると感じられていた。ただしレントがそうする意図が分かっていないし、別にこのままの結論でもソロン王太子は構わないので、まだ状況を見守る事にする。
ミリはレントが始めに無駄だと言ったのが、ソロン王太子やサニン王子にレントと対立をさせる為だったのだと思い至った。そこから歩み寄る様な言葉を掛ける事で、レントが望む結論に誘導しているのだとミリは考える。
そしてレントは、ソロン王太子かミリが口を挟んで来るかと思って待っていたけれど、そうではなさそうなので話を進めた。
「ただし授業前に予め、考えるポイントが分かっている方が効率が良いと思います。それですので休憩時間の半分を授業の補完に使い、もう半分を次回の授業でのポイントのヒントを出す事に使いたいと考えます」
「それは次の授業までに、考えたり調べたりしろと言う事か?」
「はい」
「だから、私には他にやる事も色々とあるのだ」
「ですが、授業の予習もなさっているのですよね?」
「それは、だが、予め教科書を読む程度だ」
「その時に、ポイントが分かっていれば考える切っ掛けにもなりますし、浮かんだ疑問が心に残っていれば、少し時間が空いた時に調べたりする事も出来ると思います」
「だが・・・そうかも知れないが・・・」
困った表情を浮かべてレントの提案を受け入れたくなさそうなサニン王子に、レントはまた微笑みを向ける。
「先程、王太子殿下はサニン殿下に必要なのは、知識の幅を広げる事より考え方を身に付ける事だと認めて下さいました。調べる時間をわざわざ取らずとも、生活の中でふと考えを巡らせて答えを求めるだけでも構いません。それだけでもただ補足を聞くよりは、サニン殿下の力となると、わたくしは考えております」
ミリにはまた、サニン王子に向けるレントのその表情が、胡散臭くしか見えずにいた。




