推し薦めるレント
「いや、待って」
レントに向けてそう言ったものの、何と続ければ良いのかソロン王太子には思い付かない。ソロン王太子が言葉を見付ける前に、サニン王子が口を開いた。
「それはミリ殿の代わりと言う意味だね?」
「はい」
「いや。勉強はこのままミリ殿に補完して貰うから、コーカデス卿に教わる必要はないよ」
「ミリ様は忙しいのです。ですのでわたくしが代わりに、授業の補足を致します」
「いやいや、コーカデス卿だって勉強があるでしょう?学院はどうする積もり?」
「もちろん学院は休みます」
「わざわざコーカデス卿が休む必要はないだろう?今日までと同じ様に、ミリ殿に教えて貰えば良いのだから」
「ですから、ミリ様はわたくしよりも忙しいのです」
「いや、待って」
レントとサニン王子の遣り取りに、ソロン王太子が先程と同じ言葉で口を挟む。
「コーカデス卿?学院は間もなく学年末の試験だろう?」
「はい」
「このタイミングで学院を休んだら拙いよ」
「わたくしは既に、今年度の授業範囲の勉強は終えております。残りの授業に出席する必要は御座いません」
「そうなのか」
「はい」
学院在学中に何かと政務が忙しくて、自分自身も授業に余り出席出来ていなかったソロン王太子は、レントの話を受け入れた。けれどサニン王子は納得していない。
「ミリ殿が忙しいからと言って、コーカデス卿が学院を休む理由にはならない。そもそもミリ殿は王太子と王太子妃との取り引きで、私の勉強を見てくれているのだ」
この場のここまでの遣り取りで、サニン王子はレントに少し反発を感じていた。このままミリに教えて貰って、レントに習ったりしたくはないとサニン王子は思い始めている。
「王族との約束をわざわざ違える必要はないだろう?」
そのサニン王子の言葉にソロン王太子は額を抑えた。ソロン王太子とミリとの間にあったのは、その様な大袈裟な話ではない。
ソロン王太子がちらりとミリを見ると、ミリは特に表情を現していなかった。それなのでソロン王太子は一旦このまま、サニン王子とレントの話の行方を見守る事にする。
「報酬も前払いしてあるのだし」
「王太子殿下とミリ様の間の口約束では、サニン殿下への勉強の補助はミリ様の都合で行える事になっております」
「うん?それが何か?」
「ですので明日以降、サニン殿下の勉強会にミリ様が参加しなくても、ペナルティなどはありません」
「一度は引き受けておきながら、それは身勝手ではないか」
「それに最初はミリ様にサニン殿下の家庭教師をする事が、王太子殿下から打診をされていました。そしてそもそもの王太子殿下の御要望は、サニン殿下の知識の幅を広げる事です。それを叶える事が出来るなら、誰が担当しても良い筈です」
「いや、だが、ミリ殿だから補完が出来る訳だ」
「先程の話の通り、サニン殿下に考え方を覚えて頂くのは、ミリ様が教えてもわたくしが教えても、結果は一緒となります」
「え?その様な話、出ていたか?」
「考え方を教える事が矯正ではないのでしたら、数学を習う様に、考え方自体も身に付ける事が出来るとの結論になりました」
違う、とミリは瞬時に思った。しかし、先程の話が捻られていて、レントの言葉が違うとは感じるのだけれど、どう違うかの説明がミリには咄嗟に浮かばない。
サニン王子もレントへの正面からの反論が浮かばなかった。
「確かにその様な話をコーカデス卿とミリ殿はしていたが、私はそれに納得はしていない」
「しかしサニン殿下。考え方を習うのであれば、ミリ様からよりわたくしからの方が適していますよ?」
「いや、違うだろう?誰から教わっても同じなら、コーカデス卿ではなくて、ミリ殿のままでも良い筈だ」
「わたくしはコーカデス領の実際の失政に付いて学んでおります。ミリ様?」
「え?ええ」
「ミリ様は、コードナ侯爵領やコーハナル侯爵領の実際の失政に付いて、学ばれたのでしょうか?」
「いいえ。本日の授業の補足の様に、国の政策に付いてが主です」
「なるほど。と言う事ですのでサニン殿下?わたくしの方がより詳しく政策やその影響、そして失政に繋がる流れに付いても説明出来ます。考え方を学ぶのはミリ様でもわたくしでも変わらないとしても、サニン殿下が必要とする知識に付いては、わたくしの方がより詳しくお伝え出来るでしょう」
「コーカデス領の失政を説明すると言うのか?」
「はい」
「失政は公にはしないのではなかったのか?」
「サニン殿下が必要とする知識は、国政に必要となる知識です。この国の将来の為になるのでしたら、喜んでお伝え致します」
そのレントの言葉をサニン王子は胡散臭く感じる。そしてソロン王太子とミリは、レントの本音は別にあるのだろうと考えていた。
レントは真面目な表情で、話を少しずらす。
「ところでサニン殿下は、勉強会に参加している子息令嬢に付いて、どの様にお考えですか?」
「どの様にとは?」
「わたくしには授業に付いて来れていない様に見受けられました」
自信ありそうなレントの言葉に、サニン王子は首を傾げた。




