論点と立場と考え
ソロン王太子はレントの事もミリの事も確かに認めていた。そして二人と同世代の他の子供達とは、ソロン王太子の二人に対する扱いが明らかに違った。それはレントが子爵になる前からだ。
しかしその事は一部には、二人と同世代のサニン王子の為であった。サニン王子が王となった時に、レントとミリには王族と友好的な関係でいて欲しいと、ソロン王太子は考えているからだ。
それなのでソロン王太子が二人を認めているからと言って、二人と比較してサニン王子を認めていないと言う訳ではなかった。
「いや、サニン?サニンの事を認めていない訳ではないよ?」
「・・・ですが、父上・・・」
「サニンは良くやっている。それは私も分かっている。ただし、コーカデス卿やミリ殿の方が、サニンより出来るとは私も思っている」
「やはり」
「でもね?サニンの歳の頃の私は、今のサニンとそれ程変わらなかったと思う。そしてその頃の私よりこの二人は出来る。更にこの二人が今の私の歳になれば、私より全然出来る人間になっているだろう」
「え?・・・そんな」
「トータルすれば、ね?王族として必要な事とか、国王としての資質とかでは私も負けないよ?負けたらダメだから、そこは譲らない。それだからこそ、私は王太子なのだし」
「父上」
「いつかサニンも王になるのだから、その点に付いては誰にも負けないで欲しい。もちろんそれ以外に付いても、この二人や他の子達とも競い合って、力を伸ばしていって貰いたいけれどね」
「・・・はい」
ソロン王太子とニッキ王太子妃がコーカデス領の港町に宿泊した時に、サニン王子は王宮で留守番だった。一緒に行こうと誘われもせず、行きたいかの意思確認もされずに、サニン王子はおいて行かれていた。
どうしておいて行かれたのか、と言う疑問への答えの一つとして、ミリとレントが何らかの働き掛けをソロン王太子とニッキ王太子妃にしたのではないか、ともサニン王子は思っていた。
何をどう働き掛ければその様な事になるのか分からないし、行きたいのなら後からでもそう言い出せば良かった事は自分で分かっている。けれどレントとミリの事を考える時に度々、おいて行かれた事がサニン王子の心に浮かんでいた。
それなので今も、ミリとレントを前にして、サニン王子はソロン王太子の言葉を素直には受け取れていなかった。そう言う年頃であるのもある。
サニン王子はミリに顔を向けた。
「ミリ殿」
「はい、サニン殿下」
「私が受ける授業に対して、ミリ殿が補足を付けたり補完をしたりすると言うのは、ミリ殿からの提案だったと言う話だったね?」
要約すればそうとも言える。けれどサニン王子の言葉はミリの意識とはズレていた。
「王太子殿下とお話をさせて頂いた時に、学院でサニン殿下と同級となる人達を集めて、今の様な勉強会を開く話が出ました。その時にわたくしが教師役をするのではなく、授業では教わらない部分の補足をさせて頂く流れになりました。サニン殿下とお話させて頂いた時に、関連する話題について別途話をする事になりましたので、今の様な方式になった認識です」
ミリの言葉に小首を傾げていたサニン王子は、首を戻して小さく肯く。
「確かに最初は、祖父や父の政務に関する話題について、私と雑談をする予定だったね」
「はい」
「話題が続かないから、授業内容の補足にして貰ったけれど」
「サニン殿下のお持ちの知識に枝葉を付ける事が、ソロン王太子からの御要望でしたので、今の内容的でも目的は達せられていると考えております」
今度はミリの言葉が、サニン王子の言いたい事からはズレて来ていた。
「それは分かっているけれど、それでミリ殿?」
「はい、サニン殿下」
「コーカデス卿はミリ殿が私に、授業の補足をしてくれるのを止めさせる方向の提案をしているけれど、ミリ殿はどう思う?」
サニン王子が言わせたい事は、ミリには分かっている。ミリはそのサニン王子の質問を想定はしていたのだけれど、やはり何とも答え難かった。
ソロン王太子にサニン王子の家庭教師を頼まれたのが切っ掛けで、今の様な形の勉強会を行う事になり、授業内容の補足をサニン王子へ行っている。ミリとしてはやらずに済むのならやらなかった。
けれどコーカデス領の港町で、ソロン王太子とニッキ王太子妃に従業員の研修に付き合って貰うと言う、報酬は既に貰ってしまっている。
「コーカデス卿の仰る事は正しいと思います。しかしサニン殿下が仰った様に、時間が掛かるのも確かです」
取り敢えずミリは、だからどうすべきかの結論までは言わずにおいた。もちろんそれではサニン王子は納得しない。
「つまりミリ殿は、私の意見に賛成と言う事だね?」
「サニン王子の負荷が高くなる事をわたくしが選ぶ事は出来ません」
「それはつまり、私に賛成なのだね?」
「わたくしが補足する事を続けるか止めるかに付いては、わたくしは王太子殿下とサニン殿下の決定に従います」
「と言う事だ。コーカデス卿」
「そうですね」
レントはサニン王子から視線をミリに移した。
「ミリ様?」
「はい」
「疑問などを足掛かりに、自ら知識の幅を広げる方法を身に付ける事の方が、サニン殿下御本人の為になると、ミリ様は思っていらっしゃるのですよね?」
そうは思っていても、報酬を受け取っているので、ミリは手を引く訳にはいかない。
「人の考え方を参考にしながらでも、サニン殿下御本人が考え方を学ぶ事は可能かと思います」
ミリの言葉が本心とは言い切れないとレントは感じ取った。
「しかしそれで身に付くのはミリ様の考え方であって、サニン殿下御本人に必要な考え方とは異なるかも知れませんよね?」
そんな事を言い出したら、教師と言う職業がなくなりかねない。
ミリはレントがいつもの様に論点をずらし始めたと思い、小さく息を吐いた。




