失敗効果
レントは一度サニン王子に顔を向け、それからソロン王太子に向き直る。
「わたくしが領政に携わる様になってから役に立った考え方は、コーカデス領の領政の失敗に付いて原因を考えたり、正しい施策は何だったのか検討したりしていた事を通して、身に付いたのだと思います。そして、領政と国政では規模もレベルも違うとは思いますが、必要な考え方はそれ程変わらないのではないかと考えます」
「・・・そうだね」
少し間を開けてから肯いて、ソロン王太子は椅子の背凭れに体を預けると、視線を少し斜め上に向けた。
「王家は直轄領を持っているけれど、直轄領と国全体。施政の手段は大分違うけれど」
ソロン王太子は視線をレントに戻す。
「問題や将来を考える時に必要な考え方は同じだと思う。少なくとも、私には同じだな」
ソロン王太子は言葉の後半では、サニン王子に顔を向けた。
サニン王子はソロン王太子に、困った表情を向けて返す。
「それは私に、失政に付いて学べと言う事ですね?」
「そうだね」
ソロン王太子は姿勢を戻して、サニン王子に肯く。サニン王子は更に困った表情を見せた。
「失政に付いて学ぶと言う事は、過去にどんな失政があったのか、覚えるだけでは意味がないと思います」
「そうだね」
「コーカデス卿の言う通り、その失政の原因に付いての考察や、どうするのが正しかったのかに付いて検討をしなければ、考え方を身に付ける為に学んだ事にはならないのでしょう」
「そうだね」
「その様な時間、とても生み出せるとは、私には思えません」
サニン王子は首を左右に振る。レントも小さくだけれど、首を左右に振った。
「いいえ。わたくしの考えでは、今の授業よりはそちらを優先するべきであり、その考え方を身に付けてから、今の授業を受けるべきだと考えます」
「そうだね」
レントの言葉に肯いたソロン王太子をサニン王子は見る。
「父上?父上も同じ様な勉強をなさったのでしょうか?」
「そうだな。勉強と言うか、学院に入る前は良く、先代の国王陛下から昔話を聞かされていたね。その中で、お前ならどうする、とか、お前はどう思う、とか、良く問われたよ。今になってみると、あれが考え方の練習になっていたのだと思うね。それまでに習った事を後から振り返ったら、以前とは違う理解に至る事もあったし」
「・・・そうなのですね」
サニン王子は視線を下げた。そして顔を上げてミリを向く。
「ミリ殿もだろうか?」
突然サニン王子と目が合い、突然話を振られ、ミリは小首を傾げた。
「わたくしですか?」
「ああ。ミリ殿もコードナ家やコーハナル家の教育で、失政に付いての考察などを行ったのだろうか?」
「はい」
「だから、気を付けるべきポイントが分かるのか」
「そうですね。それもあるかとは思いますが、わたくしの場合は自分では、自分が失敗した経験からの方が、因果を考える癖が付いた様に思っております」
「え?・・・ミリ殿も失敗する事があるのかい?」
「はい。もちろん御座いますし、わたくしは多分他の方々より、失敗が多いのではないかと思います」
「ミリ殿が?」
「はい」
「・・・そうなのか」
サニン王子は呟く様にそう言う。
目の前のミリには隙がない様に見えるけれど、実は結構うっかりさんなのかと思い、サニン王子は自然と微笑みを浮かべた。
その様子を見たレントは、サニン王子が考え違いをしていそうだと思う。
レントはミリが、他の人とは比較にならないくらい多くの事を経験したりしているからこそ、間違えや失敗の数も人より多いのだと受け取っていた。
サニン王子がレントを振り向く。
「つまりコーカデス卿の提案は、まず考え方をミリ殿に習ってから、教師の授業を受けると言う事だね」
「違います」
レントは首を左右に振った。サニン王子は不服げな表情を浮かべる。
「考え方を身に付ける事が先なのだろう?」
「その通りですが、それをミリ様に教わるのではなく、サニン殿下御自身で身に付けて頂く必要があるのです」
「何故だ?何故その様な、それこそ時間の無駄ではないか?」
「え?どこが時間の無駄なのですか?」
「今ミリ殿にして貰っている授業の補完の様に、考え方を学ぶべきポイントを提示して貰えば、探し出す時間が掛からないではないか」
「その探し出す事自体が学びに繋がるのです」
「いいや。話を聞いている限りは、考え方を身に付けていなければ、学びに必要なポイントは見付からないのではないか?誤ったポイントで色々と考えたところで、考え方の学びには繋がらないだろう?」
「そのポイント選びに失敗する事で、問題に対する嗅覚の様なものが鍛えられるのです」
「しかしポイント選びを失敗すれば、間違った学びに繋がるではないか。今の私は既に間違った学びを積み重ねて来た所為で、コーカデス卿やミリ殿と違って父に認められていないのだ」
サニン王子の言葉で、ミリは腑に落ちた。
授業の時と授業の補完をする時で、サニン王子の意欲が違っている様にミリは感じている。しかしそれは、ソロン王太子にミリが認められていると思っているからこそ、サニン王子はミリから様々なものを吸収しようとしていたのだとミリは理解した。




