勉強会の無駄
レントの提案はミリに直接勉強を教わる事か、と言うサニン王子の解釈は即座にレントに否定をされた。
ミリはレントが、レントとの交際練習をする為の時間をミリに作って貰おうとしていた事を知っている。しかしミリも、レントの話はサニン王子にミリから勉強を教わる事を勧める為の様に感じられていた。
そしてそれはソロン王太子も同じだった。
「ここまでのコーカデス卿の話だと、私もサニンと同じ様に感じていたのだけれど、違うのだね?」
「はい、王太子殿下。王太子殿下はミリ様に、サニン殿下の知識の幅を広げたり、深みを出したりする事を求めたと聞きました」
「ああ、その通りだよ」
「その為には、授業を聞いてから補足をするのではなく、予め補完するべきポイントに注意を向けながら、授業を受けるべきかと考えます」
「う~ん?それと言うのは、授業内の流れの様なものを意識しているのかな?結果迄の流れを聞く前に、原因から結果に至る道筋を先に考える様な?」
「はい。為政者には予め因果を見通す事こそ重要だと、領政に付いて学び、実践する事に拠って、わたくしは実感しております。その見通す力を付ける為には、原因から想像できる幾つもの結果の内、現実にはどの結果が現れたのか、どうしてその結果になったのか、その理由に付いて、習うのではなく、考える事が大切なのではないでしょうか?」
「それは、まあ、分かるよ?思ってもいない結果になるのは、失敗した時が殆どだからね?思わぬ成功だって、その途中の筋道が予見出来ていなくて、たまたま良い方に結果が転がっただけだったりするから、そう言う意味では予測の失敗を含んでいる。でもコーカデス卿が求めている事は、授業を受ける際に実現するのは難しいのではないかな?」
「授業を受ける前に、予め補完するべきポイントを見つけ出しておく事は、確かに難しいと思います。しかしそれを実現する手段が、疑問点を自分なりに調べる事なのです」
「う~ん、分かる気もするけれど、どうだい?サニン?出来そうかい?」
ソロン王太子は顔をサニン王子に向ける。
「どうでしょう・・・疑問点を予め自分で調べるのであれば、教師による授業は不要になるのではありませんか?」
「全て調べ切れるなら、そうだね」
「その場合、私の勉強時間は確実に増えますので、コーカデス卿の言う無駄が教師による授業なのだとしたら、それは違うと思います」
そう言うとサニン王子はレントに顔を向け、目を細めた。レントは首を左右に振る。
「いいえ。教師達による授業を無駄だと言っているのではありませんし、教師による授業が不要だともわたくしは思っておりません。今日の授業のやり方では、ミリ様が授業を補完しなければならない事が無駄だと言っているのです」
「しかし、ミリ殿の補完に拠って、私は授業の内容をより深く理解できたのだ」
「ですから、補完なしでも、より深く理解出来る授業をするべきだと、わたくしは言っているのです」
「つまりコーカデス卿は、私の教師の教え方が悪いといいたいのか?」
「進め方があるとは思いますが、サニン殿下?授業と言うのは教師だけで成り立つものではありません」
「・・・私が悪いと言っているのか?」
睨んで来るサニン王子をレントは見詰め返した。
「休憩時間にミリ様が補完していましたが、それを他の方達も聞いていました。その他の方達にも、ミリ様の補完は役に立つと思いますか?」
「・・・確かに、理解していなそうな人もいたけれど、コーカデス卿は私もあの者達と同様だと言うのか?」
「補完が必要な時点で、勉強への取り組み方は大差ないと、わたくしは考えます」
ミリはソロン王太子の様子をちらりと見た。
ミリにはレントの言葉が不敬として受け取られる様に感じられたけれど、ソロン王太子は少し難しい顔はしていたがレントを咎める様子は見せていないので、ミリはまだ口を挟んだりしないでおく事にする。
ソロン王太子は大丈夫でも、サニン王子は少し不貞腐れた表情を見せていた。
「では私にどうしろと言うのだ?」
「サニン殿下にはそれを考えて欲しいと思うのです」
「なに?」
サニン王子の眉間に皺が出来る程、眉根が寄った。しかしレントはそれには構わず、顔をソロン王太子に向ける。
「わたくしはサニン殿下に取って重要なのは、知識を広げたり深めたりする事ではないと考えます。そうではなく、先程も申し上げました通り、原因から正しい結果を辿れる事であり、それは原因から望む結果に導く為の練習になるからです。その過程で、知識が広がったり深まったりするとは思いますが、それ自体を目的とするのは誤りだと考えます」
「それはつまり、私がミリ殿へ依頼した内容が、誤っていると言う指摘かな?」
目を細めたソロン王太子に見詰められ、レントは確りと肯いた。
「はい」
ソロン王太子はふっと息を吐き、体の力を抜く。
「そうだね。コーカデス卿の言う通りだけれど、その為にはコーカデス卿はどうしたら良いと思う?やはりどうしたら良いのかは、サニンに考えさせるのかな?」
「サニン殿下には是非とも考えて頂きたいと思いますが、わたくしなりの提案も御座います」
「ほう?それは?」
「失政を学ぶ事です」
ソロン王太子は小首を傾げた。
「失政?」
「それはミリ殿が言っていた話か?」
サニン王子の問いに、レントは肯く。
「はい。サニン殿下への授業では出て来ないとのミリ様の話でしたが、学院の授業でも失政にはあまり触れられません。少なくとも初年度はそうです」
「確かに、全学年を通してもそうだったね」
肯いたソロン王太子に、レントは小さく肯き返した。




