レントの意見とサニン王子の認識
サニン王子の勉強会を見学したレントは、ソロン王太子との謁見を申請した。ミリにもそれに同席する様にレントから頼んである。
そしてソロン王太子の要望で、その謁見にはサニン王子も加わった。
お茶が用意されると使用人は下がり、応接室には四人とソロン王太子の側仕えと護衛が残る。
ソロン王太子はレントを向いた。
「サニンも同席するけれど、他言しない様に誓約書を書くかい?」
「いえ。わたくしの話には必要御座いません」
「そう。では一旦はなしで始めようか」
「はい」
「それで?」
「はい。サニン殿下の授業へのミリ・コードナ様の補完には、無駄があると感じました」
レントの言葉にミリは目を僅かに細め、サニン王子は眉根を寄せる。ソロン王太子は小さく肯いた。
「どの様なところが無駄なのかな?」
「はい。ミリ様が補完しそうなポイントが、授業前に予め分かっていれば、授業中に充分に質問が出来ますので、授業後に補完をする必要はないと感じました」
「う~ん?授業を受けてみなければ、ポイントは分からないのではないかな?」
「各教科とも教科書を基に授業を進められていました。予習をしておけばポイントは掴めると思います」
「いや~、どうだろう?サニンはどう思う?」
「そうですね・・・ミリ殿の補足は教科書に書かれていない部分ですので、予習をしても分からないかと思います」
「と言う事だけれど、コーカデス卿はそうは思わないのだね?」
「はい。サニン殿下?」
「うん?なんだい?」
「授業の予習はなさっているのですか?」
「次にやる辺りは教科書を読んでいるよ?」
「その時に疑問に思ったり、その、納得出来なかったりする部分はありませんか?」
「ある事もあるけれど?」
「それは御自分で調べたりなさらないのですか?」
「何故?」
「何故と言いますか、なさらないのですね?」
「次の授業で説明を聞けるし、自分で調べる必要はないよね?」
「そうなのですね」
「他にやる事もあるし」
サニン王子に言葉を返さずに、レントは視線を下げる。それを受けて、サニン王子の眉根がまた寄った。
「私には無駄な事に時間は掛けている暇はないからね」
サニン王子の言葉にレントは視線を上げた。
「疑問を感じると言う事は、その事に関して理由や意図が分からないと言う事ですよね?」
「うん?それはそうだよ?」
「自分で調べた事は強く記憶に残ります。疑問を調べる事で、意図や理由や隠れた原因や関連を把握する考えが身に付くのではないかと、わたくしは思います」
サニン王子は眉根を更に寄せたけれど、ソロン王太子は肯いた。
「それはあるかもね。コーカデス卿はそう教わったのかな?」
「わたくしも・・・いえ、どうでしょう?自分で調べたものは強く印象に残っていますけれど、その様に学ぶ様には習ってはいません。わたくしの受けた授業も、サニン殿下の授業と同じ様な感じでした。ただ、質問をしても答えに納得が出来ずに、その後も考え続けたりはしていました」
サニン王子は目を細める。
「それで納得のいく答えを考え付いたとしても、それは正しいかどうか分からないだろう?」
「そうですね。サニン殿下の仰る通り、正しい保証はありません」
「それなら時間の無駄ではないか」
「ですがサニン殿下?もし教師が間違った事を教えていたら、それに気付けるかも知れません」
「教師が間違えるなど滅多にない筈だ」
「教師が間違える、と言うか、教師自身が間違った事を学んでいて、正しいと信じている場合が問題です」
「間違った事を覚えていたら、教師になれる筈がない」
「いいえ。この世の全ての人間が間違えていたら、教科書も間違えていますので、教師も間違えには気付かないでしょう」
「この世の全員が間違えているなど、あり得ない事を危惧して、私に対応しろと言っているのか?」
「この世の全員が間違えている事は滅多にないでしょうが、サニン殿下の周りの方達皆が間違える事であれば、起こる確率は高くなると思います」
「私の側に付く者を馬鹿にするのか?」
「その様な意図ではありませんが、今、サニン殿下はわたくしの意図を取り違えましたよね?」
「それはコーカデス卿の伝え方が悪いのではないか」
「仰る通りですが、この様に、相手に落ち度があっても、サニン殿下に間違って認識される事はあるのです。より正しい情報を得る為には、見聞きした事を記憶するだけでは足りないと言う事で、その為には教科書に書かれている事も教師の言葉も、自分なりに咀嚼する事が必要だとわたくしは思います。その咀嚼の切っ掛けになるのが疑問を持つ事であり、それを自分なりに調べて納得する事が、わたくしの言う咀嚼に当たります」
「それだとミリ殿の補完も疑えと言う事になるぞ?」
「ミリ様に対しては、サニン殿下自身が理解した内容を口にしていらっしゃいましたし、それがミリ様の認識に合っていない場合はミリ様が訂正していました。そしてミリ様は、ミリ様の考えの根拠となる資料などに付いても言及していましたから、サニン殿下がミリ様の言葉に納得が出来なければ、御自分で疑問を追求する事も出来ます」
「その資料が間違えていたらどうするのだ?」
「この世の全てが解明されてはいませんので、どこかには間違えがあるかも知れません。しかしわたくしが言いたいのは絶対的な真理を探すと言う話ではなく、大切なのは見聞きした事を記憶する事ではなく、それを自分が納得できるまで考えたりする事、と言うところです」
サニン王子はレントを息を止めて見詰め、そして小さく息を吐く。
「つまりコーカデス卿が言う無駄とは、教師に教わる事は無駄なので、直接ミリ殿に教われと言う事だな?」
「違います」
レントに首を左右に振って返され、サニン王子は顔を蹙めた。




