休憩時間に
サニン王子の勉強会で、一つ目の授業が終わり休憩時間となる。
サニン王子、ミリ、レントは席を立ち、お互いに顔を見合わせた。
「ではコーカデス卿」
サニン王子の言葉に、令嬢達が響めく。
サニン王子はそちらをちらりと見て微笑みを向けたけれど、視線をレントに戻して言葉を続けた。
「一緒に行こう。ミリ殿も」
顔だけミリに向けたサニン王子の言葉に、令嬢達を中心にまた響めく。
すると一人の少女が席を立った。
「あの、サニン殿下」
王子の行動を妨げる事など、普通ならその少女には許されないし、普段ならその少女も行わなかったかも知れない。しかしこの日の勉強会の浮ついた雰囲気に飲まれたのか、その少女はサニン王子を引き留めてしまった。
その少女の行動に驚いて固まっていた隣の席の少女が、我に返って慌ててその少女を咎めようとするが、それより早くサニン王子が少女を振り返る。
「なにかな?コージョ男爵令嬢」
「どちらにいらっしゃるのですか?」
王子にこの場で家名と家の爵位を口にされる事は、礼儀を逸脱した少女への抑制になる筈だったのだけれど、少女は謝罪ではなく疑問を口にしていた。
「いつも休憩時間にサニン殿下とコードナ様の姿が見えなくなりますけれど、もしかしてお二人はいつも一緒なのですか?」
参加者達が響めいた。
少女の発言に、一部の令嬢は興味に駆られた喜色を顔に浮かべていたけれど、多くは眉根を寄せている。そしてその表情は、サニン王子に問い掛けた少女に向けられた不快感から来ていた場合もある。しかしその殆どは、ミリへの反感から来ていた。
勉強会の参加者達からはミリが、自分達と交流を持つ気がない様に見えていた。
勉強会が始まる直前に現れて、休憩時間には姿を消し、勉強会が終わった直後に退室するミリには、参加者達からは話し掛けにくい。そしてミリからも話し掛けて来る事がない。
自分より小さい子に対してならば、ミリももう少し気を配ったのだけれど、同い年の子や、サニン王子と学院に通う為に入学年をずらした年上の子供達に対しては、必要最小限の注意しか向けていなかった。
爵位が上で、自分達をいないかの様に扱っているミリが、休憩時間の都度サニン王子と一緒に過ごしているのであれば、サニン王子に下心がない子息令嬢でも反発を感じるのは仕方がない。
そしてその反発は、ミリの出自を蔑む気持ちに拠って、簡単に加速されていた。
周囲の大人から親愛を籠めて接されながら育ったサニン王子には、その辺りの機微は良く分からない。ただ、その少女に引き留められた事は不快に感じていた。
「それが何か?」
サニン王子の声に冷たさを感じた子供達は息を飲む。しかし少女は怯まなかった。
「わたくしも御一緒させて下さい」
少女の言葉に子供達は目を瞠る。そして視線を移してサニン王子の反応を窺った。
少女の意図が分からないサニン王子は小首を傾げる。
「何の為にかな?」
「わたくしもサニン殿下と御一緒したいからです」
その言葉に釣られる令嬢達もいた。そして自分達も言い出すタイミングを計る為に、サニン王子を見詰める。
しかし他の子供達は、王子と侯爵令嬢が何をしているのか不明だし、そこに子爵も参加をする状況に危険を感じ、トラブルに巻き込まれない様にと警戒をした。
そしてサニン王子は今度は小首を反対側に傾げる。
「私はコードナ殿に、授業の補足をして貰っているだけだけれど、それを一緒に聞きたいと言う事かな?」
「補足ってどう言う事ですか?」
「どう言うって、授業の沿革を付け足して貰って、知識の補填をして貰うのだよ」
「え?サニン殿下がコードナ様に教わるのですか?」
「そうだよ」
「え?逆ではなく?」
「逆?逆だなどとは、もしかしてコージョ殿は、コードナ殿の事を知らないのかい?」
ミリを知らないのかとサニン王子が言った事で、殆どの子がミリの出自や悪魔の子と呼ばれている事をまず思い浮かべた。そして次に思い付くのは、侯爵六家とそれに与する貴族家にやたらチヤホヤされて、良い気になっているとの評判だ。
サニン王子と話している少女も、怪訝な表情を浮かべていた。それを見たサニン王子は、少女がミリの事を知らないと思い、ミリを振り向く。
「ミリ殿」
「はい、サニン殿下」
「時間ももったいないし、不明な子にミリ殿の事を理解させる為にも、この場で授業の補足を行ってもらっても良いかな?」
「他の方からの質問などを受け付けなくとも良いのであれば」
侯爵令嬢が王子に要望を出した事に、今度も子供達が響めいた。
しかしサニン王子はそれを無視して、ミリに向けて肯く。
「構わないよ。コーカデス卿も見ているだけの約束で参加しているのだから、他の者の質問も受け付けなくて良い」
「畏まりました」
ミリが頭を下げるのを見て、サニン王子はまた肯いた。少女もサニン王子に頭を下げる。
「ありがとうございます、サニン殿下」
それを見て数人がサニン王子に頭を下げて礼を述べた。
「「「ありがとうございます、サニン殿下」」」
そしてそれに遅れて残りの子供達もサニン王子に頭を下げる。
その遅れた子供達は頭を下げたものの、何だか分からない状況に巻き込まれてしまった事に、とても不安を感じているのだった。




