今日のところの結論
ミリはバルに結婚したい相手を探す様に言われたが、バルはその相手との結婚に反対するとも言っている。
つまりミリがしなければならないのは、ミリが結婚したいと思い、万が一結婚をする事になっても構わない相手を見付けて、その人をバルに会わせるだけだ。そこでバルに反対されて終わるだろうから、具体的な将来の展望などは描けなくてもいい。
その上もし万が一バルが賛成をしたとしても、結婚しなければならない訳ではない。つまりミリが探した相手が、ミリと結婚したいと思わなくても良いのだ。
その様な人を探してバルに会わせても、何の意味もない様に思えるけれど、条件的にはそれでも問題ない事に気付いた事で、ミリは気楽になっていた。
しかしミリは、結婚したい相手を探さなければならなくなった事に付いては、レントに知られたくない。
プロポーズの振りをする事になっていただけでも、話がややこしくなりそうだったのに、ミリと結婚したいと言い出した今のレントに伝えたら、レントが乗り気のその気になるに違いない。
レントならバルを説得してしまい、結婚の許可を得てしまいそうに思える事も、ミリがレントに伝えてはならないと感じる理由になっていた。
ミリはレントが嫌いな訳ではない。
急に責任ある立場に立たされたのにも関わらず、レントは確りと現実に向き合っている。その姿勢にミリは好感を覚えていた。
しかしレントと結婚してはダメだとミリは思っている。自分がコーカデス領の領主夫人になってしまえば、コーカデス領の領民の心が離れて行ってしまうとミリは考えていた。
今は領民達の目には、自分やラーラを領主であるレントが利用している様に映っているとミリは感じている。だからこそコーカデス商会も受け入れられているのだ。それなのにミリがレントと結婚したりすれば、領民にはコーカデス商会が領地を乗っ取った様にしか見えないだろうとミリは思っていた。
しかしその事をレントに言えば、レントが過激な行動を起こすかも知れない。何しろ以前レントは、ミリを悪魔の子と呼ぶ領民は、領地から追い出すと言っていたのだ。
その様な事はないとは思うけれど、もし万が一レントがその気になったりすれば、ミリには止める権限がない。レントを説得して止めさせるのは、とても苦労しそうにミリには思えた。
その様な事で領地が混乱する事を望まない程に、開発事業を通して既に、ミリはコーカデス領に愛着を感じていた。
「コーカデス卿が恋情を感じていようと、コーカデス卿が恋愛に詳しかろうと、わたくしがコーカデス卿と結婚する事はあり得ません」
ミリは決意を口にする。しかしレントの心には、響いていなかった。
「ミリ様はわたくしに好意を感じていらっしゃるのですから、わたくしの事が嫌いな訳ではありませんよね?」
「ですから、コーカデス卿がどうのではなく、わたくしの出自が問題だと言っているのです」
「ミリ様はバル様とラーラ様の娘です。わたくしに取ってはミリ様の出自は関係ありません。バル様もラーラ様もミリ様の出自を問題とは思っていらっしゃらないでしょう。つまりミリ様の出自が問題なのは、ミリ様自身に取ってと言う事ですよね?」
「もうそれで結構です」
「分かりました。それでしたらミリ様自身に、ミリ様の出自が問題ないと理解して頂く事にします」
「・・・どうやってですか?」
「それはこれから考えます」
「また、そんな・・・」
「その為にはやはり、わたくしはミリ様の事をもっと知らなければなりませんし、その為にもやはり、ミリ様にはわたくしと交際練習をして頂きたいと思います」
「・・・交際練習は以前からの約束ですし、構いませんけれど、先程も言いました様に、わたくしが学院を卒業する迄は、交際練習にはそれ程時間を使えないと思っていて下さい」
「サニン殿下の勉強会をどうにかすれば、時間を頂けますか?」
「・・・多少は増やせると思いますが、それが実現したとしても、助産院の手伝いなどは優先させて頂きたいと思います」
「ええ。分かりました」
レントは小さく肯く。ミリは溜め息を吐いた。結局今日の話し合いでは、何も変わっていない事になる。
「ですがミリ様?」
「ええ。何でしょうか?」
「ミリ様は学院卒業後に、助産院か治療院で働く予定なのですか?」
「それは、まだ、決めてはいませんけれど」
「もしかして、医者を目指しているパノ・コーハナル様が帰国なさったら、一緒に病院を作るかも知れないのでしょうか?」
「その可能性もあります」
「なるほど。そうすると、ミリ様に取ってそれらよりも魅力が無ければ、わたくしとは結婚して頂けないと言う事ですね?」
「そう言う事にはなりますね。コーカデス卿とは結婚しませんけれど」
「それでも、コーカデス領の開発は継続して頂けると?」
「もちろんです。わたくしが直接携わり続けるかは分かりませんが、コーカデス商会でコーカデス領の開発事業を続ける事はお約束します」
真剣な表情で肯くミリに、レントは微笑んで肯き返した。
「ありがとう御座います、ミリ様。ミリ様の学院卒業後にも、ミリ様との縁が切れる事がないと言うのは嬉しいです」
ミリは疲労を感じながら、小さく息を吐く。
「そうですか」
「はい」
レントは笑みを強めながらまた肯いたが、内心は少し焦りを感じていた。
ミリはレントとは結婚しないと言う。
これまでミリは結婚しない、出来ないと言っていたが、今日はレントとは結婚しないと言っていた。
一年近く会っていない内に何か、事情が変わった部分があってもおかしくはない。
取り敢えず、ミリと過ごす時間を少しでも作る為に、サニン王子の勉強会を何とかしようと決意して、レントは微笑みを浮かべたまま、もう一度強く肯いた。




