勉強会の言い訳
ミリは使う積もりのなかったカードを一枚、切る事にした。
「先日お伝えした通りに、わたくしはソロン王太子殿下より、サニン殿下の勉強への助言を頼まれました」
「はい」
レントは静かな声で肯いて返す。その様子にミリは、切ろうとしているカードがレントに読まれている事を予感した。
しかし他に切る事が出来るカードはない。
仕方がないのでミリは、そのまま言葉を続けてみる事にした。
「今日もそうだったのですが、学院への入学まで毎日、王宮に通う必要があります」
「毎日なのですか?」
「はい。それに今、学院で行われている生徒主導の勉強会も、入学後にはサニン殿下と共に行う予定になっています」
レントは小さく肯いたけれど、ミリを見詰めるだけで口を開かない。
ミリはレントに言わせたかったのだけれど、仕方がないので自分で言葉にする。
「それですのでわたくしは学院を卒業するまでは、コーカデス卿との交際練習に、それ程の時間を割く事は出来ないと考えています」
「ミリ様にはコーカデス領の事も見て頂いていますし」
「ええ」
「ミリ様は治療院や助産院のお仕事も続けるのでしょうか?」
「はい」
ミリはチリン・コーハナル元王女とラーラの出産も手助けする積もりだけれど、二人の妊娠がまだ公表されていないので、それにも時間を使う予定である事はレントにはまだ言えない。
ミリの肯く動作が僅かにぎこちなくなった。
「まだまだ学ぶ事はありますので、時間の許す限り治療院にも助産院にも通う積もりです」
「ミリ様に時間がないので、スーノ殿と交際練習をする事をわたくしに勧めたのですか?」
「ええ。それもあります」
「序でにスーノ殿との婚約も?」
「え?違います違います!スーノ・シロント殿と婚姻する事は、コーカデス家にもコーカデス領にも、シロント子爵家にも利益になると思ったからで、決して序でではありません。逆です。シロント子爵家との婚姻に利益があるからこそ、婚約して普通に交際をすれば良いと思ったのです」
レントは小さく肯く。
「ミリ様が忙しいのは分かりましたが、サニン殿下との入学前の勉強会には教師が付くのですよね?」
「え?ええ」
「ミリ様に取っては、教わる必要のない授業なのではありませんか?」
「いえ、ですが、わたくしにも復習にはなりますし」
「入学後に学院でも習うのですから、復習でしたらその時に出来ます」
「ですけれど、ソロン王太子殿下にはサニン殿下の知識に厚みを付ける様に求められています。その為には授業内容を聞いて、関連した話を紐付ける必要がありますから、やはり授業に参加する必要があるのです」
「王族を教える教師は優秀なのだろうと思っているのですが、違いますか?」
「え?いいえ、違いません。どの先生も優秀でいらっしゃいます」
「優秀なのでしたら、サニン殿下の知識に厚みを付ける事も、その教師に任せる事は出来るのではありませんか?」
「それは、もちろん、出来るとは思いますけれど・・・」
「もし今、ミリ様には出来て教師達には出来ていないのだとしたら、ミリ様が行うべきなのはサニン殿下へのフォローではなく、教師達へのアドバイスなのではありませんか?」
「ですが、王族への教育を任される方達ですので、まだ子供のわたくしがアドバイスをするのは、ちょっと・・・」
「プライドの問題になると?」
「・・・その可能性もあるかと」
「プライドがある所為でミリ様に教えを乞う事が出来ない様な方であれば、休憩時間に授業の補足をミリ様がサニン殿下にしている時点で既に、プライドが傷付いているのではありませんか?」
それはミリも思っていたし、教師達の態度から感じてもいた。その事がミリの表情に表れる。
それを見てレントは小さく肯いた。
「サニン殿下の勉強会には、わたくしも参加出来るでしょうか?」
「え?コーカデス卿がですか?」
「はい」
「学院の授業と時間が重なりますので」
「もちろん学院は休みます」
「え?休んでまで?学院の授業を受けないのですか?」
「一日くらい、問題ありません」
「あっ、ああ、なるほど。この先ずっとではないのですね」
「はい。サニン殿下の授業とミリ様のフォローの様子をこの目で確認したいだけですから」
「それは可能だと思いますけれど、何の為にでしょうか?」
「もちろんミリ様に、わたくしとの交際練習の時間を作って頂く為です」
「あの、ですが、わたくしはソロン王太子殿下より、サニン殿下の勉強の手助けを依頼されております」
「それは分かっています。ソロン王太子殿下にはわたくしから、サニン殿下の勉強会を見学させて頂くお願いをします。その時にミリ様を解放して頂ける様に要望を出させて頂きます」
「え?その様な事をしたら・・・ソロン王太子殿下の御要望で、わたくしはサニン殿下の勉強会に参加しているのですよ?」
「ソロン王太子殿下も、より効率的な手段があるのなら、そちらを採用して下さると思います。ソロン王太子殿下はそう言う方ではありませんか?」
「それは、わたくしもそう思いますけれど、どの様な手段を提案なさるのですか?」
「え?それは見学させて頂かない事には何とも」
「え?今は案をお持ちではないのですか?」
「はい。今のところは何も」
レントが案も持たずにソロン王太子に話を持ち込もうとしている事に、呆れた気持ちがミリの表情には出てしまっていた。




