隠し事を感じるレントと隠し事に躓くミリ
バルから結婚したい相手を探す様に言われた事は、ミリはレントには伝えたくなかった。
レントとは交際練習の約束をしているし、レントがプロポーズをしている振りをする事も許している。
この状況で結婚相手を探す話を持ち出せば、レントに結婚を迫っている様に受け取られてしまいそうな事が、ミリは嫌だったのだ。
ミリが隠し事をしていると確信したレントは、ミリが言葉に詰まっている間に攻め方の道筋を決めた。
「ここまでのミリ様の話を聞いて、スーノ殿から縁談に繋げる様な依頼がミリ様にあったのかとも考えました。わたくしは男女間の愛情をバル様とラーラ様の間にしか目にした事はありませんが、少なくともラーラ様がバル様に向ける眼差しをスーノ殿から向けられた事がわたくしにはありません。スーノ殿のわたくしに接する様子を思い出しても、わたくしに一目惚れしているとは思えないのです」
「しかしそれではスーノ・シロント殿が、コーカデス卿に親切にする理由の説明が付かなくなります」
「ミリ様はスーノ殿に、何かを頼まれたりはなさっていないのですね?」
「え?ええ」
「説明が付かないと仰いますが、わたくし達には分からないだけではないでしょうか?わたくしに王都のお店を案内する事に対しての、スーノ殿に取ってのメリット、あるいは案内しない事に対してのデメリットは他にあるのだとわたくしは考えます。例えばわたくしを連れて行く事で、お店から紹介料やバックマージンを受け取っているとか」
「お二人が訪ねた中にはわたくしの知っているお店もありますが、そう言う事を行うとは思えないお店も含まれています」
「そうなのですね。紹介料は単なる思い付きですので、他の理由があるのかも知れません。ですがわたくしには、スーノ殿がわたくしに一目惚れをしたと言うよりは、スーノ殿がお店から紹介料を受け取っていると言う事の方が、まだ可能性が高いと思えるのです。恋愛感情などは良く分からなくてもです」
「ですが、スーノ・シロント殿がコーカデス卿の配偶者として相応しい事には変わりませんよね?」
何とか自分の思う様に話を進めたいミリの問いに、レントは小さく息を吐く。
「ミリ様」
「え?・・・はい」
「わたくしがミリ様に一目惚れらしいものを感じたのは、席を譲って頂いた時ではなくてその前の、ミリ様が小さい子達の面倒を見てあげていた時です」
「・・・え?」
「席を譲って頂いた時点では、ミリ様がコードナ侯爵家の方なのかも知れないと考えて、確かに警戒もしていました。しかしそれはそれまでに何度も、ミリ様の言動に目を惹かれたからなのです。そしてその所作や立ち回りからミリ・コードナ侯爵令嬢ではないかと推測し、それなので警戒をしたのです」
「そんな・・・」
「ですからあの日、わたくしはまず、ミリ様に好意を抱きました。確かに言葉を交わす前ですから友情としての好意ではあり得ませんので、これは一目惚れと考えてよろしいですよね?」
レントの微笑みに、ミリは唇を強く結んだ。
ミリの固い表情に、レントの眉尻が下がる。
「こうしてミリ様と会って話す事は、わたくしがミリ様に好意を持っているからだと、先程ミリ様は仰いましたよね?」
「・・・友情としての好意としてですけれど」
「同様に、わたくしと会って話をして下さるミリ様も、わたくしに好意を持って下さっていると考えてもよろしいのですよね?」
「・・・持っているとしても、友情としてのものです」
「はい。それで結構です。ですがミリ様は、わたくしが友情としての好意をスーノ殿に持っていて、スーノ殿はわたくしに恋情としての好意を持っている事が、わたくしとスーノ殿の婚姻を良好に進める為の条件になると考えていらっしゃいましたよね?」
「いいえ、違います。その様には口にしていません」
「ええ。明言はなさっていませんが、その様に話を組み立てていらっしゃいました。それはつまりミリ様は、そう考えていらっしゃったと言う事ですよね?」
「それは、確かにそうですけれど、でも、男性と女性では違います」
「違う?何がどう違うのでしょうか?」
「この国の貴族の婚姻では、男性は配偶者を選べる事があります。しかし女性が婚家に嫁ぐ形式を取る場合、女性が配偶者を選べる事はありません」
「なるほど。そうなのかも知れません」
「ええ、そうなのです。つまり、女性が恋情を感じている男性と結ばれると言う事は、暗黙の前提として男性もその女性を選んでいる可能性が高く、相思相愛となって、良好な結婚生活を送る可能性が高くなるのです」
レントは小首を傾げた。
久し振りに会った今日のミリは、少し強引にレントには思える。それがミリが隠している何かが原因なのか、あるいは違うのかレントには分からなかったけれど、それは今はどうでも良い。これまでのミリより隙がある事の方が、今のレントには重要だった。
「お互いに好意を持っていれば貴族の婚姻には充分と、ミリ様は考えていたのではありませんか?」
「充分とまでは言っていません」
「好意がないよりは良い、程度ですか?」
「・・・そう、ですね」
「ミリ様はわたくしに好意を持って頂いている。これはよろしいですよね?」
「それは・・・」
「違いますか?」
「好意とまでは言っていません」
「こうして、会って話して下さっているのに?」
「これは、用事があったからです」
「用事が無ければ、わたくしには会いたくはなかったと言う事ですか?」
「そうと迄は、言いませんけれど」
「正直に仰って頂いた方が、時間の節約になります。ミリ様?わたくしには会いたくなかったと思っていらっしゃいましたか?」
「・・・今は、会わなければ・・・」
そこまで言ってミリは口を噤む。
会わなければ良かったと今は思っているのであれば、もうこの場での負けを認めた様なものだ。
「ミリ様?」
「・・・何でしょうか?」
「たとえプロポーズの振りだとしても、コードナ侯爵家に認められたら、わたくしはミリ様と結婚をする事になります」
「それはあり得ません」
「例えばです。わたくしが振りだと思っていても、コードナ侯爵がミリ様との婚姻を認めたのなら、わたくしとミリ様は結婚をする事になりますよね?」
「ガダが認めてもバルが認めなければ、わたくしは結婚できません」
「もちろんそうですが、わたくしの言いたいのはそこではない事は、ミリ様?お分かりですよね?」
ミリは肯定も否定も口にしないけれど、それはレントに取っては肯定をした事と同じだった。
「ミリ様にプロポーズの振りをさせて頂くお願いをした時に、わたくしはもちろん、その様な場合の事も考えておりました」
レントはミリに微笑みを向ける。
「ミリ様とわたくしの交際練習の時間やプロポーズの振りをする事に付いて、時間も労力も経費も無駄にしない結論に、ミリ様にも心当たりがあると思います」
そう言われてミリはまた、唇を強くて結んだ。




