久し振りの対面
サニン王子の授業には希望者を募って参加をさせ、そこにミリも同席をする。そして授業の合間の休憩時間にミリとサニン王子は、国王とソロン王太子の執務を話題の中心にして雑談を行う。その中で直前の授業の内容に言及したり、授業内容や今の情勢と執務を紐付けたりしながら、サニン王子の知識と知識を結び付ける事をミリは試みる。
つまりミリは毎日サニン王子の下を訪ねて、半日は傍に付き添う事になった。ただしミリに用事がある場合には、そちらを優先出来る。
サニン王子の勉強へのミリの関与をこの様にする事に当たり、ソロン王太子はミリに改めて条件の確認を行った。
「これはかなり、ミリ殿の負担が大きくなるのではないかな?」
ミリは首を左右に振る。
「いいえ、王太子殿下。わたくしがサニン殿下や他の生徒達に授業をするよりも、わたくしの負担は少なくなっております」
「いや、でも、毎日でしょう?」
「わたくしの用事を優先させて頂きますので、必ずしも毎日では御座いませんし、途中での参加や退出もさせて頂けますので、問題は御座いません」
「それでもそれへの報酬が、私と王太子妃がコーカデス商会の従業員の研修に付き合った事だけだなんて、バランスが取れていないよ」
「あの場でも申しましたが、従業員達に取っては得難い貴重な体験となりましたので、その様な事は御座いません」
「ミリ殿がそう言うのであればそうなのだろうけれど・・・そうだね。今後のサニンの様子を見て、報酬に付いては追加をする事も考えようか」
「ありがとう御座います。従業員達もラーラも喜ぶかと思います」
「いや、あの、報酬は他の事でも他のものでも良いからね?」
取り敢えず、王族にまた研修を手伝って貰える可能性もある事になって、ミリはサニン王子への教育の手助けに力を注ぐ事に決めた。
しかしそうなると問題は、レントとの交際練習だ。サニン王子に力を注ぐのなら、レントには力を入れる事は出来ない。
もっともレントとは、このまま交際練習を行わない可能性が高い。
そう考えながらミリはレントとの話し合いに臨んだ。
ミリはレントとの話し合いの場に、コーカデス商会で借りている学院前の邸を選んだ。序でに石材販売などに付いても、レントと話す為だ。
サニン王子の勉強会が終わってから、ミリは王宮から直接に学院前の邸に向かう。
馬車が邸に着くと、中からレントが姿を現して、ミリを出迎えた。
馬車のドアを開けて、レントがミリに手を差し出す。
「お久し振りです、ミリ様」
そう言って微笑むレントに、ミリは違和感を覚えた。しかしミリはその違和感の原因を探るより、先ずは微笑みを返す。
「お久し振りです、コーカデス卿。ありがとう御座います」
レントに指先を預けて支えて貰いながら、ミリは馬車から降りた。
そしてミリは視線を上げ、レントは視線を下げ、合わせた目を二人とも見開く。
ミリは反射的にレントの足下に視線を移した。そして慌てて顔を上げてレントの目を見て、もう一度微笑みを作る。しかしその表情は少しぎこちない。
一方でレントは心からの笑みを浮かべた。
「しばらくお目に掛からない内に、ミリ様は更に素敵になられましたね」
「・・・ありがとう御座います。コーカデス卿は逞しくなられました」
「ありがとう御座います。周囲と比べると、まだ逞しいの入口に入る手前ではありますが」
「でも、身長も随分と伸びましたよね?わたくしより高くなって」
ミリは王宮の帰りなので、ドレスに合わせて踵が少し高い靴を履いている。レントの靴も多少踵があるが、ミリの程ではない。それなのにミリはレントを見上げていた。
「コードナ侯爵家で出して頂く食事と、受けさせて頂いている鍛錬のお陰だと思います。成長を考慮したメニューにして頂いていますし、食べられる量もかなり増えました」
細身だったレントには、筋肉が付き始めている。
「ミリ様もスラリとなさって、背が伸びたのではありませんか?」
「ええ。そうなのですが、コーカデス卿に追い抜かれているとは思いませんでした」
「わたくしも男ですので、身長くらいはミリ様に勝たせて頂きたいと思います」
性別を口にした時にはレントは無意識だった。ミリより身長が低い事はレントのコンプレックスだったから、それが覆っていた事で、昂揚した気持ちから思わず言葉に出ただけだ。
しかしその一言で二人の思考が一瞬止まった。
性別が違う事はお互いに知っていたけれど、これまでは相手の事も自分の事も子供だと思っている。
しかし相手の身体的成長を認め、それを本人に向けて口にした事で、目の前にいるのは大人になり掛けている異性と言う、これまでに識別した事がなかったカテゴリーの存在になってしまった。
馬車の傍から二人が動かないので、待たされている馬が前脚を掻く。
その音で二人とも我に返った。
「では、中に参りましょうか?」
「そうですね。ここでは何ですし、積もる話は中で致しましょう」
「はい。それでは」
「はい」
ミリの指先を掴んだままレントが先導する。
玄関を潜り廊下を進み執務室に入り、レントがミリをソファの前まで案内をした。
そこでふと、二人とも動きを止める。
レントがミリの手をパーティー会場への入場エスコートの様にずっと握っている必要はなく、ミリが馬車を降りたところで放して良かった事に気付いて、二人とも顔を少し赤らめた。




