授業内容の選択
ミリは王都の学院に手紙を送り、授業を手伝う場合の条件に付いて、学院長と取り決める為の準備を行った。学院長からは一度王都に来て欲しいと願われ、ミリは王太子夫妻の帰都に同行して学院を訪ねる事にする。
そしてミリはそれにタイミングを合わせて、サニン王子に拝謁する為の手続きも行った。こちらはサニン王子へ勉強を教える事をどの様に進めるのか、サニン王子と話し合う為だ。もしかしたらミリはそのまま王都に留まり、学院入学までサニン王子達に勉強を教える事になるかも知れない。
そしてまたレントとも、会って話をする約束を交わした。
まず学院の授業を手伝うかどうかを決めて、それを踏まえてサニン王子達に勉強を教えるスケジュールを立て、それらに基づいてレントと交際練習をどうするか話す積もりでミリはいた。
学院では学院長と共に、ミリに補佐に付いて貰う事を求めている礼儀作法の教師も話し合いに同席した。
ミリが前提の確認をする。
「授業の補佐を御希望との事ですが、それはわたくしが入学した場合でよろしいのですよね?」
学院長も教師も笑みを零した。
「コードナ殿が不合格になるなどあり得んだろう?」
「そうですよ。卒業試験を受けても、既に合格するのではないですか?」
学院長も教師も、ミリが入学試験で不合格になるなどとは思っていない。しかしミリは、学院に入学しない事を想定して質問をしていた。その違いには気付いていたけれど、説明したら話が長くなると考えて、ミリはそのまま話を流す。
「不慮のケースもありますし」
「あり得なくはないですけれど」
「まあ、その場合は確かに、補佐をして貰う訳にはいかんな」
「では御依頼を引き受けるとしたら、わたくしが学院に入学した場合に限らせて頂きます」
「ああ。それで構わんよ」
「それで、補佐と言うのは具体的には、何をすれば良いのですか?」
「所作の見本を演じて頂くのと、生徒達へのアドバイスをして頂きたいと思っています」
「補佐係は例年任命しているのですか?」
「生徒数が多い場合は副担当の教師を置く事はある」
「ですが来年度の生徒数でしたら、置かずに済ませていますね」
「それなら何故なのでしょうか?」
「来年度はサニン殿下も入学なさいます。王族の方が覚えるべき礼儀作法は、貴族とは異なります。どうしても教師の目も口も手も足りなくなりがちなので、コードナ殿にはその補佐をお願いしたいのです」
「なるほど。分かりました」
「おお。引き受けて貰えるか」
「報酬次第ですが」
「補佐係としては充分な報酬を約束しよう」
「報酬にはお金ではなく、平民クラスの授業を受講する権利を下さい」
「平民クラスを?」
「それは何故ですか?」
「貴族クラスより平民クラスの方が、授業内容が難しいと聞きました」
「いや、向上心があるのは良いが、それ程変わるものではないし、課目に拠っては貴族クラスの方が難しいぞ?」
「それを実際に受講して確かめて、自分に合った方の授業を受けさせて頂きたいのです」
「いや、それだと、平民クラスの定員を一人減らさなければならなくなる」
「それでしたら、机はなくても構いません。教室の後ろに立って受講させて頂きます」
「いや、侯爵令嬢に後ろに立たれたら、平民クラスの生徒達は授業に集中出来ないではないか。それなら定員を減らした方がましだ」
「逆でも良いです」
「逆?逆とは?」
「平民クラスに席を用意して頂いて、貴族クラスの授業を受ける時は、教室の後ろに立っているのでも」
「いや、確かにそうすれば、来年度の学生数は定員通りに出来るが」
「補佐をする時はどうせ席には付かないのですから、構わないのではないでしょうか?」
「それは詰まり、コードナ殿は普段は平民クラスに在籍すると言う事になるではないか」
「はい」
「いや、はいって、貴族令嬢としての交流はどうするのだ?」
「それは昼休みなり放課後なりを充てます」
教師はミリに補佐して貰えさえすれば、ミリがどこで授業を受けようとも構わなかった。それなので期待を込めて学院長を見詰めるけれど、その学院長はミリに向けて顔を蹙めた。
「平民クラスに在籍するなど、コードナ侯爵家の許可が下りるのだろうか?」
「はい。わたくしが決めて良いとの承諾は得ています。在籍自体は貴族クラスとして頂きたいのですが、わたくしの席は平民クラスの教室で構いません」
ミリはバルとラーラから、授業の補佐をする為の報酬を自分で決めて良いと言われていた。その話はコードナ侯爵夫妻にもしてあり、既に了承を貰っている。
それなので学院長の問いにも、強く肯く事が出来た。
そのミリの様子を見て、学院長は更に顔を蹙める。
「事務局とも相談したいので、持ち帰らせてくれ」
「分かりました」
もう一度ミリは学院長に向けて肯いた。
学院での補佐の仕事を請けるとしても、学院長が持ち帰った件ではそれ程予定が揺らがないと判断して、ミリはサニン王子との謁見に向かう。
ミリは王宮の応接室に案内をされ、そこでサニン王子と会った。
「両親からはミリ殿に勉強を教わる様に言われている。どうするのだろうか?」
小首を傾げるサニン王子の様子に、ミリも首を傾げそうになったが堪えた。
「どの様に進めるかに付いて、本日は相談させて頂きに参りました」
「決まっていないのだろうか?」
「はい」
「案もないのかな?」
「はい。先ずは殿下がどの様に授業を受けていらっしゃるかに付いて、教えて頂けないでしょうか?」
「どの様にって、普通にだけれど?」
手強いとミリは思う。確かに他の人のケースと比べた事がなければ、サニン王子に取っては普通にとしか言えないのだろうけれど。
「教師の方の説明を聞くのでしょうか?」
「それはそうだね」
「授業を受けた内容を確認する為のテストは行いますか?」
「どの様に?」
どの様にかを訊きたいのはミリの方だ。
「教師が口頭で質問をするですとか、テスト用紙が用意されてそれに答えるですとかの方法があります」
「ないな」
「教師の言葉をただ聞いているだけなのですか?」
「いや。分からないところは私から質問をするよ?」
「なるほど。教科書を読み上げたりはしますか?」
「語学はするね」
「国語もでしょうか?」
「国語はしないな。書くだけだね。ミリ殿も一緒に授業を受けてみるかい?理解して貰うのには、それが早いと私は思うけれど」
「ありがとう御座います。是非、そうさせて下さい」
ミリもそうしたいと思っていた所だった。
日を改めて、ミリはサニン王子の受けている授業の見学をした。
その結果、サニン王子の授業態度がソロン王太子の言っていた通りで、受動的だとミリも感じる。サニン王子は教師の言う内容で分からないところに付いては質問をするが、話を広げる様な質問をする事はなかった。
ミリはサニン王子に必要なのは、知識を得る事に付いては今の授業で足りるので、知識と知識を紐付けたり合成したりする訓練だと判断する。
そしてミリが行う事に決めたのは、授業と言うよりは雑談と言った感じの会話をする席を設ける事にして、基本的な話題は国王とソロン王太子の執務を取り上げる事にした。




