ミニチュアセット
ラーラとミリも同行はするけれど、ラーラが自分の代理として教育をしている従業員達に交替で、ソロン王太子とニッキ王太子妃の夫妻の案内を行わせる。
とは言え、ニッキ王太子妃はチリン・コーハナル元王女と同じである事を望んだので、チリンが妊娠したと思われる時期に泊まったホテルと食べた料理を提供する事になり、相談らしい相談は行われなかった。
しかしミリとラーラの一番の狙いは、従業員達に王族に慣れて貰う事だったので、遣り取りがスムーズに進んだ事は従業員達の自信に繋がる事になり、却って良かったと二人は思っている。
「そう言えばこの部屋には、この部屋のミニチュアがありますね?」
ニッキ王太子妃は部屋の隅を振り向きながら、従業員に尋ねた。
「はい」
「他のホテルの部屋にもあるのですか?」
「はい。それぞれのホテルの最上級の部屋には御座います」
「あら?ホテルの各部屋にあるのではなくて、このホテルならこの部屋だけと言う事なのかしら?」
「はい。ホテル毎に異なった様式で統一されておりますが、それは最上級の部屋を基準に設えております。その代表となる部屋を設計するのに当たり、図面だけではなくサンプルとして、ミニチュアを作成して詳細を決めました」
「そうなのね」
「はい」
「可愛らしいと思ったけれど、実用的なものだったのね」
「実用目的ですが、設計者達はかなり楽しんで設計したと聞いております」
「そうなのね。調度品の配置とか、確かに楽しそうよね」
「お気に召して頂けましたなら、お土産にお持ち帰り頂く事も可能で御座います」
「そうなの?」
表情を輝かせたニッキ王太子妃に、従業員は肯いてみせる。
「はい。最上級の部屋にお泊まり頂いたお客様には、御希望頂きましたら記念としてお渡しする事になっております」
「全部のホテルでなの?」
「はい」
更に表情を輝かせて席を立つと、ニッキ王太子妃はミニチュアに歩み寄った。しかし、ミニチュアを見ると眉尻を下げる。
「でも、頂いて帰っても、飾りようがないわね」
そう言うニッキ王太子妃を見て、ソロン王太子は少しほっとした。
「それならティーセットだけを分けて貰うのはどうだい?本物も一緒に購入して」
「それは素敵ね。ここでの思い出になるわ。本物を使ってお茶を飲みながら、思い出話も出来るでしょうし、ミニチュアのティーセットだけなら、全てのホテルの物を並べて飾って置けるわよね?」
「それ用のカップボードを作らせても良いのではないかな?」
「それも素敵ね。そうしたいわ」
ニッキ王太子妃は従業員を振り返る。
「ティーセットだけを頂く事は出来るのかしら?」
「はい。それは大丈夫なのですが」
従業員は少し困り顔でラーラを振り向いた。ラーラが微笑みを浮かべながら口を挟む。
「王太子妃殿下。こちらで使用しておりますティーセットは、このコーカデス領で作られた物で御座います」
「そうなのね。それが何か?」
「この国の様式を説明する為に、様式を平均化した物でして、作りましたのは名のある工房でも職人でも御座いません。王族の方がお客様に対して使うには、格が足りないかと存じます」
「そうかしら?良く出来ていると思うのですけれど」
「ありがとう御座います。王太子妃殿下にその様に評価して頂いて、職人達も喜ぶかと存じます」
会釈をするラーラから、ニッキ王太子妃はソロン王太子に視線を移した。
「私は充分かと思うのですけれど、王太子殿下はいかがですか?」
「私も充分だと思うよ。ラーラ殿?」
「はい、王太子殿下」
「ラーラ殿が足りないと思うのは知名度だよね?」
「はい」
「そうか。目利きの出来るラーラ殿とミリ殿が私達に出したのだから、王族が使うに値する品質はあると考えているのだよね?」
「はい。失礼がない物に仕上がってはおります」
「それなら構わないよ。何よりニッキも気に入ったのだろう?」
「ええ。これはラーラ殿とミリ殿が監修していたのですね?」
「あ、いえ。ティーセットなどの磁器については、リリ・コーカデス殿が主導しております」
懐かしい名前に、ニッキ王太子妃とソロン王太子の眉が上がる。
「リリ殿がですか?」
「そうなのかい?」
「はい。リリ・コーカデス殿がミニチュアを色々と試行錯誤で作成させていたのですが、その中で磁器の材料に向く石がコーカデス領内で発見されまして、それですので折角ですから、ホテルやレストランで使用する食器などもコーカデス領産で揃えようと言う事に致しました」
「なるほど。良い案だね」
ソロン王太子は肯き、ニッキ王太子妃は小首を傾げた。
「リリ殿はお元気なのですか?」
「はい。食器の他に家具などの木工製品も監督していますので、忙しくしているそうですが、元気に過ごしています」
「茶器のデザインなどもリリ殿がなさったの?」
「この国の物は主にそうです。他の国の物はそれぞれの国の人達に基本デザインを任せましたが、品質管理はリリ・コーカデス殿です」
「そうなのね」
「はい」
ニッキ王太子妃は席に戻り、ティーカップを持ち上げる。
「そう」
呟く様にそう言うと、ニッキ王太子妃はカップに口を付けた。




