授業の報酬
サニン王子を含めた子供達に対して、入学前にミリが勉強を教える事に付いては、バルもラーラも反対はしなかった。
ラーラとしては反対する理由がないからであったが、ミリの友人作りの足掛かりになると考えたバルとしては積極的な賛成だった。
ただし、引き受けるかどうかはミリが決めて良いとされて、バルもラーラも賛否をミリには示さない。報酬に付いてもミリが決めれば良いとなった。
ミリは報酬次第で、サニン王子に勉強を教える事を引き受ける事にする。
その回答を持ってミリは、ソロン王太子とニッキ王太子妃の下を訪ねた。
「王太子殿下より御依頼頂いた件ですが、先ず、報酬の話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
そのミリの言葉にニッキ王太子妃は眉を顰めたけれど、ソロン王太子は微笑んで肯いた。
「そうだね。いくら支払えば良いのかな?」
「報酬はお金ではなくてもよろしいでしょうか?」
ミリの言葉にニッキ王太子妃は目を細めたけれど、ソロン王太子は微笑みを変えない。
「物でも構わないよ。何が欲しいのかな?」
「物でもなく、王太子殿下と王太子妃殿下にお願いしたい事が御座います」
ニッキ王太子妃の眉根が寄った。ソロン王太子は眉を上げる。
「出来る事なら構わないよ。どの様な事かな?」
「コーカデス商会の従業員には、王族の方への対応を学ばせているのですが、その者達に両殿下の滞在中のアテンダントをさせて頂けないでしょうか?」
「その人達の研修相手になれと言う事かい?」
「はい」
「私は構わないけれど、ニッキはどう?」
「ええ。私も構いませんが、ミリ殿?」
ニッキ王太子妃はソロン王太子に向けて肯いてから、ミリを見た。
「はい、王太子妃殿下」
「それで報酬になるのですか?」
訝しげなニッキ王太子妃に、ミリは肯く。
「もちろんで御座います」
「その人達に私達が教えると言う事なのかしら?」
サニン王子にミリが教える代わりに、従業員に教育をする事を求められているのかと、ニッキ王太子妃は受け取った。
ミリは僅かに肯く。
「両殿下から学ばせて頂く事が目的では御座いますし、お教えを頂く事もあるかとは思いますが、わたくしかラーラのどちらかは常に同行致しますので、それ程両殿下のお手数や御不便はお掛けしない積もりでおります」
「二人がいるのなら不便などないでしょうけれど、それで報酬になるのかしら?」
ニッキ王太子妃には報酬の価値が低すぎる様に感じた。しかしミリはそうは思ってはいない。
「王族の方と接する機会は、求めても簡単に得られるものでは御座いません。その者達に取っては、得難い経験となるでしょう」
「それは理解出来ますけれど、それってコーカデス商会には利益になっても、ミリ殿の利益にはならないでしょう?それともサニンの勉強を見てくれるのは、コーカデス商会の業務としてなの?」
「サニン殿下にお教えするのはわたくし個人としてですが、コーカデス商会はわたくしの商会ですので、商会の利益を上げる事は商会長であるわたくしの務めで御座います」
「・・・逆の様な気がするのだけれど?」
「逆?で御座いますか?」
「商会が上げた利益がミリ殿の利益になるかと思っていたから」
「王太子妃殿下の仰る通りで御座います。商会の利益は結局はわたくしの利益になりますので、わたくしは商会の利益を上げる為の行為を自分の為に行うので御座います」
「そう。そうなのね」
「はい」
ニッキ王太子妃と肯くミリの様子に、ソロン王太子も肯いた。
「ではニッキも良いのだね?」
「ええ」
ニッキ王太子妃が小さく肯き、それにソロン王太子はまた肯いて返す。
「うん。それならミリ殿。その報酬でお願いするよ」
「ありがとう御座います。それで授業の時間はどう致しましょうか?毎日学院と同じ時間だけ授業を行えばよろしいですか?」
「え?そんなになの?」
「それ程必要かな?」
ニッキ王太子妃もソロン王太子も驚くが、ミリは半日通して授業を行う事を覚悟していた。そもそも今の教師の代わりにサニン王子に勉強を教える事をソロン王太子が求めたのだ。
「今はサニン殿下はどれくらいの時間、勉強をなさっているのでしょうか?」
「今は確かに学院の授業と同じくらいではあるけれど、教師は分担して教えているからね。ミリ殿一人では大変だろう?」
「教科書に基づいての授業でしたら、事前の準備も特に必要はありませんので、問題はないかと思いますが、いかがでしょう?」
「それでも、他の子供達にも声を掛けるから、それ程長くは無理ではないかな?」
「サニン殿下への授業に、他の人は参加したいだけ参加するものとして、出退席を自由とすれば、他の人の予定は気にせずに済みます」
「う~ん、そうだけれど」
「その辺りはサニンと相談して貰うのはいかがかしら?」
ニッキ王太子妃の言葉にソロン王太子は肯いた。
「そうか。そうだね」
「今お願いしている先生方に、引き続き授業をして貰っても良いのだし」
「ミリ殿への報酬が従業員への研修だけなら、まあそうかもね」
「ミリ殿から何を習うのかも、ミリ殿とサニンが相談して決めても良いのではない?」
「確かにね。ミリ殿?それでも良いかな?」
「はい。わたくしは構いません」
サニン王子との相談次第では、ミリは授業しない事もあり得る。さすがにそれは許されないだろうけれど、そうなったら今の教師の授業はそのまま続けられるだろうと考えて、ミリはかなり気楽になった。




