膨らむ要望
コーカデス領の港町の事業方針に付いて、自信を持って肯くミリに、ソロン王太子は何度か小さく肯いて返した。
「確かにそうだね。でもそうしたら知識と知識の繋がりは、どの様にサニンに教えたら良いのかな?」
小首を傾げたソロン王太子に、ミリも小首を傾げる。
「王太子殿下はどの様に学ばれたのですか?」
「やはり友人からかな?それぞれ違う場所で生まれ育って、違う価値観を持っていたりしたからね」
「サニン殿下の御友人は、サニン殿下と同じ様な価値観を持っているのですね?」
「私にはそう思えるね」
「来年度からサニン殿下も学院に通われるのですから、その中で違う価値観を持つ御友人を得られるのではないでしょうか?」
そのミリの言葉をソロン王太子は待っていた。
「そう言う事ならミリ殿が、サニンの友人になって貰えるかな?」
ミリは声に感情を乗せない様に気を付けながら返す。
「わたくしがですか?」
「ああ、そうだよ。サニンとはかなり価値観が違いそうだしね」
「とても光栄では御座いますが、わたくしでは価値観が違い過ぎ、サニン殿下のお役に立てないのではないかと存じます」
「友人と言うのは、自分の役に立つとか立たないとかだけではないだろう?それにミリ殿は貴族家に育っているのだから、拠って立つ場所はサニンとそれ程違わないよ」
「わたくしの価値観は平民寄りですし、他の貴族の御令嬢とも立ち位置は違うと存じます」
「正直なところ、ミリ殿はサニンの友人にはなりたくない?」
ソロン王太子の質問は正直だろうけれど、それにミリが正直に答えられるとしたら、サニン王子の友人になりたい時しかない。
「・・・わたくしがサニン殿下に何らかの影響を与える事があれば、それはこの国の未来の為にはならないと考えますし、何も影響を与えないのであれば、わたくしと接する事はサニン殿下に無為な時間を過ごさせてしまう事になるかと考えます」
「それなら友人や師匠ではなくて、お願いするのはやはり教師かな?ミリ殿から知識を学ぶ事で時間の無駄にはならないし、ミリ殿の見解を通して知識の繋がりを持てそうだよね?」
「・・・そうまで仰って頂けて、光栄で御座います」
「やはり、サニンに関わるのが嫌なのかな?」
「・・・王太子殿下はわたくしの出自を御存知ですよね?」
「・・・まあ、様々な出来事があったのは知っているよ」
「ですがわたくしは表向きは侯爵家の娘です。サニン殿下の傍におりますと、ただそこに立っているだけで、未来の王妃の席を狙っていると目されかねません」
「ああ、なるほど。ミリ殿はそれを危惧しているのか」
「はい。ですのでサニン殿下とは学院で同級生となりますが、近付かない事をお許し頂きたいと思っております」
「・・・ミリ殿は王妃の座を狙わないのかな?」
「わたくしには貴族の血が流れておらず、代わりに犯罪者の血が流れております」
「いや、分からないでしょう?ってあれ?え~と?ミリ殿はどこまで知っているのかな?」
「どこまでと仰いますと?」
「その、犯罪者の血が流れていない可能性もあるのでしょう?」
「・・・なくは御座いませんが、世間からは犯罪者の血を引く娘と見られております。そのわたくしがサニン殿下の隣に立つ様な事があれば、サニン殿下に御迷惑を掛ける事になります」
「・・・そう考えているのか」
「ですので、サニン殿下の為にもわたくしの為にも、サニン殿下の近くには寄らない様にしたいのです」
「今学院では勉強会が流行っているんだ」
ソロン王太子の急な話題変更に、ミリは眉を上げる。
「え?はい」
「コーカデス卿から聞いているかな?」
「はい。手紙で教えて貰いました」
「それを先取りして、ミリ殿がサニンの特別だと勘違いされない様にする為に、ミリ殿には他の子も含めて教えて貰うのはどうかな?」
「え?」
ミリの眉が更に上がったのを見てながら、ソロン王太子は微笑んだ。
「来年度に入学する子供達に声を掛けるから、集まった子供達に対して入学前に、ミリ殿に勉強を教えて貰えないかな?」
「え?何人にもですか?」
「そう。サニンを含めてね?」
「あの、他の方が集まらずに、結局サニン殿下お一人になった場合はどうなりますか?」
「声を掛けたのに集まらないのなら、ミリ殿とサニンの事をとやかく言わせないよ。まあ、でも、サニンと勉強をしたいと言う子が、一人もいないとは思えないけれどね?何せ王子だし」
「いえ、サニン殿下ではなく、わたくしに教わりたいと思う方が一人もいないかも知れませんので」
「派閥絡みで多少はあるかも知れないけれど、ゼロはあり得ないよ。まあ、ゼロだったらそれはそれで考えるとして、ミリ殿?どうだろうか?引き受けて貰えないかな?」
「あの・・・両親と相談をしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん構わないけれど、嫌なら断ってくれて構わないよ?ミリ殿はサニンとは面識があるものね?」
「・・・はい」
面識があった事を確認された上で断ったら、ミリがサニン王子を嫌っている様に取られかねない。
「もちろん報酬は出す。それに付いてもいくらが妥当か、御両親と相談しておいてね?」
「・・・はい」
ソロン王太子の様子に、どうにも断れそうにない事をミリは覚った。




