矛盾する要望
広場で皆が仲良く楽しめる様にと考えて子供達と接していたけれど、自分が何か影響を与えた様には思えないのは自分の正体などを偽っていたからで、それだから影響を受けた実感もなかったのかも知れない、とミリは思った。バルが貴族クラスに行く様に言うのも、身分や立場を偽らずに友人を作る為なのかも知れない、とミリは思い至る。
納得して小さく肯くミリに、バルも肯いて返した。
「そしてミリにはもう一つ、やって貰いたい事が出来た」
「はい」
「これはあくまで要望だからね?ここまでの私の話と同様に、ミリはミリでどうしたいか考えて欲しい」
「はい。それはどの様な御要望ですか?」
「ミリ」
「はい」
「自分の結婚相手を見付けなさい」
「え?バル?」
ラーラが目を見開く。
「良いの?」
「ああ。要望としてね」
ラーラは眉根を寄せ、バルはそんなラーラに迷いのない微笑みを向けた。
ミリは表情を変えていない。先程バルが結婚相手を探す様に命じたらどうするかと、例え話で言った時から実際に言われる事もミリは想定していた。
「条件は先程のものでしょうか?」
「いや。条件はなしにしようか」
「え?誰でも良いのですか?」
「・・・いや、それはないかな。私がその相手に納得したら、ミリにはその相手と結婚して貰う。私だけではなくお母様もコードナ侯爵家も賛成しなければならないけれど、私が納得したらお母様達を説得するのは手伝おう。だからミリは自分が結婚したい相手を見付ける必要があるね」
「それは、そうですが、お父様が納得する条件は、私がその人と結婚を望むだけで良いのですか?」
「いいや。ミリが結婚を望んでも納得はしないと思う」
「え?・・・ではどの様な条件なのでしょう」
「特にない、と言うか決められないな」
「え?でもそれでは・・・一体どの様な人を選べば良いのか・・・」
「バル?」
ミリの困っている様子を受けて、ラーラは口を挟む。
「それだとミリは、バルの気に入る人を探す事になるのではない?」
「そうなるかい?」
「そうなるわよ。と言うか、その話からだと、そうにしかならないのではない?」
「どうしてだい?俺はミリが誰を連れて来ても、気に入らない自信があるよ?」
「え?どう言う事?」
「どう言う事もなにも、言葉のままなのだけれど」
バルは視線をミリに向けた。
「ミリ」
「はい、お父様」
「私がミリを嫁に出したくないのは本心だし、それが変わった訳ではない。ミリとずっと一緒に暮らしたいけれど、だからと言って婿を迎え入れるのも嫌だ」
「え?ですが・・・」
「その我が儘は変わらないけれど、結婚で得られる幸せがあるのも事実で、それをミリにも手に入れて欲しいと思う様にもなったんだ」
「・・・それは、お母様との結婚が幸せだから、と言う事ですか?」
「そうだね。私はお母様と結婚できて幸せだし、お母様も私と結婚して幸せを感じてくれていると思う」
「はい」
「そして私はミリの幸せを祈っている。ミリには私とお母様みたいに幸せになって欲しい。その為には愛し合える相手との結婚での幸せも手に入れて欲しい。けれどミリは結婚させたくない。それが私の正直な気持ちなんだ」
「それは、つまり・・・私にどうしろと?」
「だからミリには結婚相手を自分で見付けて欲しい。私には見付けられない、と言うか、見付ける気にはなれないからね」
「ですがお父様?私を結婚させたくもないのですよね?」
「そうだよ」
「それは書類上は結婚していないけれど、実際には夫婦の関係である事を意味しているのではありませんよね?」
「ああ、違うよ。事実婚でもミリが幸せなら良いけれど、事実婚もミリにはさせたくないからね」
「それって・・・私にどうしろと?」
「誰を連れて来ても反対だけれど、その私にミリの結婚を納得させる相手を連れて来れば良いんだよ」
「・・・お父様を納得させられなかったら、どうなるのですか?」
「どうもならないよ?結婚させないだけだから」
「・・・そんなの、どうしたら良いのか・・・」
「まあ、今言われたばかりで直ぐに方針を決められないだろうし、決めなくても良いよ。ミリは賢いのだから、きっと答えは見付けられる筈だ」
バルとミリの遣り取りを聞いていたラーラが小さく息を吐く。
「バル?」
「うん?なんだい?」
「その答えってバルの中にはあるの?」
「いいや。もちろんないよ」
「つまり、バルの望みをミリが汲み取って叶える事はない、と言う事ね?」
「そうだね」
「それで結局、ミリが結婚しなくても良いと言う事ね?」
「いいや。俺は結婚でこそ感じられる幸せも、ミリには手に入れて欲しいと本当に思っているよ?」
「それ、どうやって?私もミリの幸せをもちろん願っているし、ミリに味方したいし、私に取ってのバルみたいな人がミリにも現れて欲しいけれど、どうやったらミリを手助け出来るのか、全然分からないのだけれど?その条件はおかしくない?」
「おかしくはないよ。ラーラも俺がミリの結婚を反対する事は、ミリと相手の男が乗り越える壁だって言っていたろう?」
「壁じゃなくて、これでは行き止まりじゃないかと言っているのよ」
「まあ、俺に取っては行き止まりだから、ラーラにもそう思えるかもな」
「誰に取ってもそうよ」
「いや。娘を嫁にはやらんと言うのは、父親からしたらそもそも行き止まりだよ。しかし娘とその相手には乗り越えるべき壁なんだ。乗り越えられてしまうと思いながら、娘は嫁にやらないって言っている父親はいないだろうからね?これで正しい筈さ」
「それにしたって」
「大丈夫だよ。俺達の娘は賢いから。きっと一緒に乗り越えられる相手を探して連れて来るさ」
ラーラは大きく溜め息を吐いた。
「ミリ?」
「はい、お母様」
「この件に付いては私は完全にミリの味方をするからね?」
「あの・・・ありがとうございます」
「お父様に付いて私が知っている事がミリへのヒントになるかも知れないし、コードナのお祖母様も味方になって下さる筈だから。後、ヒデリ伯母様にも」
「え?姉上に?」
バルが目を見開く。その様子にラーラはふっと笑いを小さく漏らした。
「ね?お父様も動揺するくらいだから、きっとヒデリ伯母様も助けて下さるわ」
「いや、姉上は壁を乗り越えずに穴を開けようとしそうで、ちょっと」
「良いんじゃない?ミリ?乗り越えようが潜り抜けようが構わないからね?」
「いや、ちょっと待ってくれ、ラーラ?ミリ?ここまでが私の我が儘と言うか要望だから、話し合いをしたいから、次はミリの要望を聞かせておくれ。ね?」
「・・・はい、お父様」
「いきなりはあれだから、ゆっくりと考えて良いからね?」
「はい」
ミリは肯いたけれど、何をどう考えれば良いかと言う所から思い付かない。目の前に作られた壁には、手掛かりも足掛かりもない様にミリには思えた。
バルはミリに与えた時間で、姉のヒデリ・コークル侯爵家夫人対策を行わなければと考える。
そしてラーラはそのバルの様子を見て、それをミリの手掛かりにしてあげようと考えていた。




