我が儘の伝え方
「そんな、ラーラ。ミリを養女にだなんて」
「私はコーハナル家の養女になったわよ?」
その事を忘れていたバルが目を見開くのを見て、ラーラは苦笑を漏らす。
「もっとも養女になる前から、ソウサ家の両親や祖父母の言う事をあまり聞く方ではなかったけれどね?我が儘も色々と言っていたし」
ラーラは小さく息を吐くと、真面目な表情を浮かべた。
「でも養家になってくれたコーハナル家の事を自分なりに懸命に考えたわ。バルの奥さんでコードナ家の嫁だけれど、私が何か失敗をすれば笑われるのはコーハナル家だし、コーハナル家の娘としての意識は常に持っているもの。バルの命令を何でも聞くミリも、養女になればその家の娘になる為に、自分で自分の事を考える筈よ」
「いいや。単に養親の言う事を聞くだけになるのではないのか?」
「いいえ。ミリの気持ちの根底には、バルへの申し訳なさと言うか感謝と言うかがある筈。ねえ?ミリ?」
「あの、はい。お父様には感謝していますけれど、それは当然なのではありませんか?」
「ミリとしては当然なのだろうし、それはとても良い事で私も嬉しいわ。でもそれが理由でミリは結婚なんて考えないのでしょう?」
「え?・・・理由と言うか・・・」
「例えばね?ミリに好きな人が出来て、結婚はしないけれどその人の赤ちゃんを産む事、ミリは自分がすると思う?」
「ラーラ、なんて言う事を言うんだ?」
「バルは少し黙っていて。どう?ミリ?」
「その様な事はしません」
「好きな人の赤ちゃんよ?」
「しません」
「それは何故?」
「何故?何故も何もその様な事は、してはならないに決まっているではありませんか?」
「してはならないって思うのは、お父様が悲しむからでしょう?」
「それは・・・もちろん、それはあります」
「私がその恋を応援しても、きっとミリはお父様の気持ちを優先するわよね?」
ラーラのその問いにはミリは肯定も否定も返さない。
答えられない事はミリ本人にもショックだったし、バルにもショックだった。
「何度でも言うけれど、ミリがお父様を大切に思ってくれている事は、私はとても嬉しいわ。でもね?ミリ?ミリにはもう少し自分自身の将来の事を自分で考えて欲しい。結婚するとかしないとかだけではなくて、ね?将来とか人生とかを考えて、その結果、やっぱり結婚は不要だとか、した方が自分の為になるとか、どちらでも良いとか、直ぐに決めなくても良いし、答えがいつ変わっても良いけれど、しっかりと考えて欲しいの」
「私は考えている積もりですけれど」
「でももしお父様が結婚をしろって言ったら、結婚をするのでしょう?」
「ですがそれは、確かに言われて決めている様に思われるかも知れませんが、それを決断するのは私です」
「ミリの判断材料にお父様の意志が大きな比重を占めていると言う事よね?」
「そうとも言えるかも知れません」
「私にはその比重が固定になっている様に見えるけれど、違う?」
「比重が固定と言うか、優先順位は確かに高いですけれど」
「それがミリのお父様への信頼度から来ているのかも知れないけれど、でもね?ミリ?あなた自身の事なのよ?お父様に言われたからと受け入れていたら、お父様の意見にミリの気持ちが沿わなくなった時に、苦しむのはミリだし、そしてそれを見ているお父様もなの」
「そんな、私は・・・」
「あなたが苦しめばお父様も苦しむのは分かるわよね?」
「・・・はい」
「気持ちを隠せと言っている訳ではないわ。お父様が先ほど、結婚相手を探せと言ったらどうするかをミリに訊いた事は、私には既にお父様が苦しんでいる様に感じる」
「え?」
「違う?ミリにはそう感じられない?」
「ですが、しかし・・・」
「父親が娘を嫁にやらないと言うのは、娘とそのお相手に取っては行き止まりではなくて、乗り越えるべき壁なのよ。今はお父様の言う通りに判断をしても良いけれど、もしミリに好きな人が出来たら、苦しまなくて良い。お父様の意見に逆らって構わないから。ミリに逆らわれるよりミリに苦しまれる方が、お父様も苦しいのだから」
「ですが、結婚は家同士の関係ですから、私が好きになるとかは関係がないと思います」
「お父様はミリを結婚させないって言っているのだから、家の都合でミリを結婚させる事はないでしょう?つまりミリが結婚する相手は、ミリの好きな人しかあり得ない」
「・・・その好きな人と言うのが現れなければ、結婚をしなくて良いのですか?」
「良いわよ。だってお父様はそう言っているでしょう?」
「ですが、それは余りにも自分勝手ではありませんか?」
「結婚する事が?それともしない事が?」
「・・・そのどちらも選べる立場に立つ事です」
「ミリはお父様の事は、血が繋がらなくても本当の父親だと思っているわよね?」
「私の父親はお父様だけです」
「お父様がミリの事を本当の娘だと思っている事も、ミリは心から信じているわよね?」
「もちろんです」
「でもミリのお父様への接し方には、ミリの気遣いが強く出ている。それは我が儘を言ったらお父様がミリを見捨てると、ミリが心配している様に私の目には映るわ」
「見捨てられるなんて、その様な心配をしてはいません」
「そうよね?それなら周囲にそうは見えない様に、もう少しお父様に我が儘を言うべきよ。何より今のままではお父様を不安にさせるわ」
「そんな・・・ですが・・・」
「大丈夫よ?ミリ。父親って娘に我が儘を言われるのは嬉しいのだから。父を持つ娘の私が言うのだから、間違いないわ」
そう言うとラーラはバルを見る。ミリも釣られてバルを見た。ラーラは視線をミリに戻す。
「本当の娘なら本当の父親に、娘に我が儘を言われる幸せを味わわせる義務があるわよ?」
ミリはバルから視線を外して目を伏せた。ラーラは再びバルに視線を向ける。
「バル?私はここで出産をしたい。それはこの町の事業の為だけれど、それは私の為でもあるの。お願い。ここに残らせて」
「ラーラ」
「バルが家族で一緒に暮らすと言った意味は理解出来ているけれど、それでも私はここに残らせて。それでバルも一緒に残って」
「俺はここでも王都でも、ラーラと一緒にいるよ。でもミリは?」
「それはミリ次第ね。ミリが王都に行きたいのならそうすれば良いし、ここに残りたいならそれでも良い。私はミリが決めれば良いと思っているわ」
「・・・そうか」
「私はここに残って良いでしょう?」
「・・・分かったよ」
「ありがとう、バル」
ラーラはバルに笑みを向けて、その表情のまま顔をミリに向けた。
「ね?ミリ。お父様への我が儘って、こうすれば良いの。簡単でしょう?」
そう言われたミリも、そう言われているバルも、ラーラに何と返せば良いのか分からなかった。




