結婚の位置
情けない顔をするバルに、ラーラも同じ様な表情を向ける。
「だってそうでしょう?侯爵家の御子息との結婚なんて、普通は出来るとは思わないじゃない。バルには身分の吊り合う思い人がいたのだし」
ラーラはさらりと言う積もりだったのだけれど、自分が思っていたより気持ちが揺れて、「思い人」の言葉を強めに口にしてしまった。
その事がバルの動揺を誘う。
「そう言う事ではなくて、俺の気持ちとか、信じてくれていたよね?」
「結婚する決断をした時にはね」
「そうだよね?俺はそれを言いたいんだよ」
バルの表情は柔らかくなったけれど、ラーラの表情は変わらなかった。
「でもそれは結婚する時よ?バルと交際練習を始めた時は、バルとの結婚を企んでいたりしていた訳ではないし」
バルの眉根が僅かに寄る。
「それはそうだろう?それは分かっているよ」
「それが分かっているなら、バル?ミリはその頃の私と同じって事よ?」
バルの眉根がもう少し寄った。
「同じって、何が?」
「だから、結婚したいと思う相手がいる訳ではないし、実際にミリはバルに結婚をさせないって言われているのだから」
バルの眉根が更に寄る。
「いや、だから、結婚をしても良いとしたらって条件を付けただろう?」
「だから、その条件を付けても、それに答えるミリは、バルに結婚はさせないって言われているミリじゃないの。そのミリに条件を与えて答えさせても、バルに結婚はさせないって言われているミリが考えるのだから、それは結婚をしないって答えになるわよ」
ラーラの言いたい事が理解は出来たが、今のミリがそう言う状態だと信じられないバルは情けない顔に戻った。
「え?え~とミリ?そうなのかい?」
「あっ、いえ」
どう答えて良いか分からないミリの困惑が顔に出る。
「バル?だからこの質問は、ミリに結婚したい相手が出来てからではないと意味がないわ。この人と結婚したい、と思って始めて考えるのだから」
「いや、だから、結婚しても良いと言っているじゃないか」
「・・・伝わらないみたいね。ミリは私の言う事は分かる?」
ミリは表情を戻して肯いた。
「はい。分かりますが、それでも私は結婚をしない事を選びます」
「それはお父様がミリの結婚を望んでいないと思うからでしょう?」
「え?そうなのかい?ミリ?」
ミリの顔にはまた困惑が浮かんでいる。
「そればかりではありませんが・・・」
「ね?バル。そればかりではなくても、それもあるのよ」
「ミリ?正直に答えて良いんだよ?」
「あの、お父様?私は正直に答えていますけれど?」
「ね?バル。バルがミリを結婚させたいって思わない限り、ミリは結婚したいとは言わないわ。たとえそう思っていてもね」
ラーラの言う事に頭では納得出来ないけれど、目の前のミリの様子を見たらラーラの言う通りに感じられて、バルの気持ちは不安になった。
自分の言う事をきいてくれるのは嬉しい。しかしこのままの状態を続ける事は、何よりもミリの為にはならない様にバルには思えてきていた。
「ミリ?」
「はい、お父様」
「私が結婚しろと言ったら、結婚するのだね?」
「はい」
「結婚相手を探して来る様に言えば、探して来るかい?」
「え?自分でですか?」
「もちろんだよ」
「あの?お父様?条件は?」
「条件?」
「どの様な相手を探せば良いのですか?」
「それは当然、ミリを幸せにする人間で、私が納得する相手だね」
「・・・なるほど」
「探せそうかい?」
「お父様の御命令なら」
「そうか・・・」
バルはミリに向けていた視線を下げる。
バルが何を言うのか心配をしていたラーラは、体に入っていた力を抜いた。
「随分と話が逸れたけれど、バル?私かミリがここに残る話はどうするの?」
「え?・・・ああ、そうか」
言い出したバルが忘れている事に、ラーラは小さく息を吐く。
「四人で王都に戻ったらここを見るのは結局はミリになって、ミリが一番長く時間を過ごす場所が往き来する船の上になりかねないわよ?」
「いいや、手紙で指示も出来るだろう?石材関連はそうしているのだし」
「石材は扱うのが石だからではないの。それも規格化しているからそれ程指示が要らないのよ。バルだって護衛事業を任せられる人がいるから、私に付きっ切りでいられるのでしょう?」
「それは、そうだけれど」
バルは肯定しながらも少し困った顔をした。その顔を見てラーラは小さく肯く。
「私がここを任せられるのはミリだけだし、ミリがここを任せられるのも私だけなの。まさかバル?私とミリにここの事業を放り出せなんて言わないわよね?」
バルは更に困った顔をした。
「いや、だが、家族は一緒に暮らすべきで・・・」
バルの言葉が途切れた事に、ラーラはまた小さく肯く。
「だからミリも嫁にやらないし、このお腹の子も女の子なら嫁には出さないって言うの?」
「・・・いや・・・」
授かったばかりの性別も分からない胎児の行く末など持ち出されては、バルは考えを纏められなかった。
バルが言葉を詰まらせる様子に、ラーラはもう一度小さく肯く。
「ミリが言っていた様に、ミリは学院に入学したら通わないで試験だけ受けて、ここで家族四人で暮らす事が妥協点かと思うけれど?」
「それではミリの将来が狭まってしまうじゃないか」
「狭まるって言うけれど、結婚をさせないのならミリの将来は平民でしょう?それともどこかの貴族家に養女に出す?」
バルは眉根を寄せた。
「いや、養女に出したりなんて、する筈がないだろう?」
ラーラは小首を傾げる。
「そう?私には養女に出した方が、ミリの将来が広がると思えるわ」
「え?ラーラ?」
「これはバルを悪く言っている訳ではないからね?もちろんミリが悪いとも思っていない。でもミリはバルの命令を聞き過ぎる。ミリの将来を広げるには、養女になるのは良い案だと思っているわ」
真剣な表情を浮かべるラーラは、ミリがこうなったのは自分の所為だと感じていた。




