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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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受け入れの用意

 パノの弟スディオ・コーハナルと元王女チリン・コーハナルの夫婦を迎える為の準備を進めているミリの(もと)に、セラム・シンコク子爵令息から連絡が届く。

 セラムはコーカデス領の領都に来ていて、再びコーカデス領の石切り場を訪れるのに当たり、ミリを誘って来たのだ。


 ミリはセラムを結構気に入っていた。

 セラムはミリとは違う思考をするので、話していると刺激を受ける。中々話が進まないと感じる時もあるのだけれど、そうではあってもセラムと話していて疲れない。それに気楽だ。

 それとミリは、平民になった後に自分がコードナ侯爵家の弱点にならない様にする為に、他の貴族家とは出来る限り友好的な関係を築いておこうとしていた。それの為にはセラムとも、積極的に関わっておいた方が良いとは考えている。


 しかし今はタイミングが悪い。

 スディオとチリンの受け入れ準備もあるけれど、それが完了した後には二人を招いて港町を評価して貰わなくてはならない。その際にセラムの相手をしている余裕があるかどうか分からない。そしてチリンからの指摘があれば、それに早急に対応する必要があり、そうなればかなり忙しくなるだろうから、セラムの相手など無理だろう。


 と言う事でミリは、誘いを断る返事を書いて、領都のセラムに送った。



 領都でセラムはコーカデス商会が経営するホテルに泊まっていた。


 もともと貴族が泊まるに価するホテルとして営業していたのだが、コーカデス領の衰退に合わせて廃業となった。そこをミリが買い取って改装し、再び貴族も泊まれるホテルとしてオープンさせたのだ。

 コーカデス領の再開発に伴って人の往き来が増え、この領都のホテルも利用客が増えて来ていた。


 セラムは街道を馬車で移動してコーカデス領都までは来ていて、港町の仮宿舎での宿泊に懲りていたので、今回は海まで行く気は全くなかった。

 それなので、セラムからの誘いへの断りの手紙がミリから届いたけれど、ミリに会う為に海に出向く決断はセラムには中々出来なかった。


 しかしミリに、石切り場は無理でも領都の近くまで来る事はないのかと尋ねても、しばらくはその余裕はないとの返事が返って来る。

 いつなら余裕が出来るのかの返事も貰ったけれど、それまで領都で待っているのも大変だ。

 そんなミリとの手紙での遣り取りをしている間も、セラムは領都を見て回ってはいた。確かに元は侯爵領だっただけあって、領都の規模は大きい。しかし領地衰退の影はあちらこちらに目立ち、領都の見所など直ぐに見終わってしまった。

 海に行く決心は付かず、さりとて王都やシンコク子爵領に戻る決断も出来なかったセラムは、取り敢えず自分だけでコーカデス邸を訪ねて石切り場の見学許可だけは貰い、その後は領都から日帰り出来るところを回りながら、時間を潰しているのだった。



 その間ミリは、コーカデス領全体の開発の指揮を執りながら、ラーラの補佐をして港町のホテルやレストランのブラッシュアップも行っていた。

 パノの祖母ピナ・コーハナルの教育を受けたスディオは、ミリやパノやラーラほどではないけれど、幾つかの国の言葉を喋る事が出来る。王女として育ったチリンも、数カ国なら多少の日常会話が出来た。

 一方で従業員達は、この港町に来てから貴族や王族への対応を学んだ者ばかりで、本物の貴族に接する経験が殆どない。バルとラーラとミリはいるけれど、それ以外ではレントとセラムと他国の貴族が短期間訪れていた時に対応した程度だ。

 今回のチリンとスディオの傍にはそれぞれの国から招いた教師も同行し、従業員にミスがあれば直ぐさま指摘をして貰う事にしている。不備や誤りを見付ける為なのだからそれで良いのだけれど、ラーラもミリも出来る限り従業員の接客を仕上げておいて、チリンとスディオの訪問を更なる磨き上げの為に利用したかった。



 ホテルに泊まる順番に付いて、チリンとスディオからの要望が届き、ミリはそれをラーラの執務室に運ぶ。

 執務室に入ると、ラーラの隣でバルも執務机に着いて、ラーラの手伝いを担っていた。


 バルは本来、ラーラの護衛としてこの港町に来ている。護衛なので本来なら、座っていたりしてはいけない筈だった。

 もちろん気を抜いている訳ではないのだけれど、襲撃の危険が少ない執務室の中にいる間は、ラーラの仕事を早く終わらせる為に、バルはラーラに並んでデスクワークを熟していた。

 ただしラーラの仕事が詰まっている訳ではない。ミリもだけれどラーラも、日中に仕事を終わらせられる程度の忙しさでしかなかった。二人とも事務量が多いと言うよりは、報告や連絡を受ける為に居場所をはっきりとさせておく事が仕事の様な感じではある。

 何しろバルがラーラを手伝うのも、ラーラの手を空けさせて二人でお茶やお菓子を楽しんだり、海岸沿いを並んで散歩したりする時間を作る為だったりしている。


 その目的の為に、バルが大きな体で窮屈そうにデスクワークをしている姿を見る度に、ミリは漏れそうになる笑いを堪えていた。

 そして今も、笑いを堪えながらバルから視線を外し、ミリはラーラに報告をする。


「お母様。チリン姉様から連絡が来ました。ホテルに泊まる順番に付いての要望です」


 ミリの声にラーラとバルが顔を上げた。


「チリン様はどの様な順番が良いと仰っているの?」

「大まかに言うと、間にこの国のホテルを挟みたいとの事です」


 ミリが差し出した手紙をラーラが受け取る。


「期間は延びる事になるけれど、それは大丈夫なのね」

「はい。他国の様式が続くより、一度この国の様式に戻る事で、判断がリフレッシュ出来るのではないかとの事ですね」

「確かにそうね。毎日毎日馴染みのない国の様式に切り替わったら、判断基準がぶれそうだわ」

「ええ」

「では、この要望通り、日程を組みましょう」

「はい。説明に配れる様に、日程表を作っておきます」

「お願い」

「はい」

「ところで、チリン様とスディオの船酔いはどうだったの?」

「それも連絡が来ています。こちらですね」


 ミリは別の紙をラーラに渡した。そこにはチリンとスディオが、ソウサ商会の船に試しに乗ってみた時の結果が書かれている。


「大丈夫そうってあるけれど、大丈夫かしら?」

「街道を馬車で来る事も出来ると分かっているのですから、船で来ると言う結論も無理な判断はしていないと思います」

「そうね」

「はい」

「・・・ミリは少しは慣れたのよね?」

大分(だいぶ)慣れました」

「・・・子供の方が慣れるのが早いかしら?」

「・・・どうでしょう?私の感覚では、大人の方が酔わない様に思えます」

「そう?」

「はい。とは言っても、セラム・シンコク殿はかなり酷い酔い方で例外かも知れませんし、コーカデス卿はそれ程酔っていませんでしたから、そうとは言い切れないかも知れませんけれど」

「海の上では逃げられないし、揺れを止める事も出来ないから、心配よね」

「ですがチリン姉様が船でと言っていますので、陸路を勧めるのも」

「そうなのよね」

「でも大丈夫ではないですか?スディオ兄様も一緒ですし、ワール伯父ちゃんも付いて来てくれますから」

「それ、根拠になる?」

「独りで不安を感じるよりは、良いと思います」

「そうね。まあ、何かあっても、二人に何とかして貰いましょう」

「はい」


 心配してもどうにもなりそうにもなかったので、ラーラもミリも心配しない事にした。それよりも心配しなければならない事は、他にもあるのだ。

 ラーラとミリの、開き直った様にも見える表情を見て、バルは苦笑いをしていた。

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