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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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転売クレーム対策

「転売へのクレーム?」

「はい」


 コーカデス商会の従業員の話に、レントは小首を傾げた。


「コーカデス商会は転売など、してはいませんよね?」

「はい。担当のこの王都ではありません」


 従業員の言葉がレントの気に障る。


「コーカデス領ではあるのですか?」

「いえ。担当外なので私には分かりません」

「そう言う意味ですか。それでは転売で何故、クレームが発生するのですか?」

「コーカデス石を手に入れようとして、コーカデス商会より高い値段を提示されて、嫌なら買わなくて良いと言われたそうです」

「コーカデス石はコーカデス商会しか生産していません。コーカデス商会から仕入れて他に売るのでしたら、そこに自分達の利益を乗せるのは当然だと思いますが、それを抗議していると言う事ですか?」

「その利鞘が高過ぎて、平たく言いますとぼったくりだと言う事です」

「ぼったくりですか」

「はい」


 ぼったくりと言う言葉はレントも、平民を装って王都の街を頻繁に出歩く様になってから覚えていた。


「しかしそれをコーカデス商会に向けて言われても、仕方がありませんよね」

「そうなのですがその方は、コーカデス商会が待たせずにもっとコーカデス石を売れば、転売など起こらないと言いたいのです」

「その人はコーカデス商会からも買っているのですか?」

「予約は入っておりますけれど、引き渡しはまだ先です」

「それを遅いと言っているのですか」

「それに付いてもそうなのですが、その方は一度、予約をキャンセルしていまして、そのキャンセルをなかった事にしろとも言って来ています」

「うん?どう言う事でしょう?」

「これは私の憶測なのですが、最初の予約より早くコーカデス石が手に入るからと、他からコーカデス石を買い取る約束をしたのではないでしょうか?」

「ああ、なるほど。それで最初の予約をキャンセルしたら、そちらの石は割高だったと」

「はい。話が違ったか、あるいは他の転売先が見付かって、値を釣り上げられたか」

「そう言う事ですか」

「あくまで憶測ですが」


 そこでレントはまた小首を傾げる。


「しかし普通なら、現物を手に入れてから予約をキャンセルするなり、予約は予約で買って、他に転売するなりすれば良いのではありませんか?」

「仰る通りではありますが、転売を勧める様な案は口になさらない方がよろしいかと存じます」

「そうか。そうでしたね」

「はい」

「それでそのクレームは、どの様な状態なのですか?」

「どの様なと仰いますと、対応を考えるのでしょうか?」

「コーカデス石を買ってくれるのには違いありませんから、放置はしない方が良いのではありませんか?」

「しかし、予約を前倒しにする事はなりません」

「ええ。他の予約者に迷惑になりますよね」

「はい。それにクレームを入れれば得をすると思われてはなりません」

「それもそうですね。しかし下手に騒がれて、騒ぎが大きくなるのも困ります。それならわたくしが前に立った方が良いのではありませんか?」

「確かに閣下に応対して頂ければ結果として早いかも知れませんが、その方も後ろに貴族様がいる事をちらつかせています。閣下一人が前に出ては、更に話が拗れるかも知れません」

「・・・それはつまり、コードナ侯爵家の名を借りろと言う事ですか?」

「え?いえいえ、違います。コーカデス石を予約頂いている方達は、いずれも貴族の方のお邸の建設に使用なさりますよね?」

「ええ、そうですね。そしてそのクレームの人もそうなのではないですか?」

「はい。それですのでその方が、後に付いていると匂わせている貴族の方も、お邸を建てようとしている方だと思います」

「普通に考えるのなら、そうですね」

「はい。それですので、その方の予約を早めると、抜かされた貴族の方々に恨みを買うと言う事を理解して貰えば、諦めて貰えるのではないかと考えます」

「それは普通、その恨みはコーカデス商会に来るのではないですか?」

「そのままでしたらその通りですが、そこで閣下のお名前をお借りしたいのです」

「わたくしの名前を使うのは構いませんけれど、どの様に?わたくしが恨まれれば良いと言う訳でもありませんよね?」

「いえいえ違います。予約を抜かされる貴族家の方々に、閣下が理由を連絡すると言っているので、後に付いていると言う貴族の方の名前を教えて下さいと、その方に尋ねるのです」

「ふっ、なるほど。抜かされる貴族家を盾にするのですか」

「はい」

「ふふっ、良いですね。良く考え付きましたね」

「私が考え付いた訳ではなく、閣下の前で口にするのも何ですが、貴族の方を相手にする場合に良く取る手段の一つではあります」

「なるほど。ノウハウなのですね」

「はい」


 真面目な顔で肯く従業員の様子に、レントは苦笑を漏らした。そしてレントも真面目な表情に戻す。


「その件はそれでお願いします」

「畏まりました」

「しかしそれはそれとして、転売対策は行った方が良いのでしょうね」

「しかし、転売を防ぐのは難しいと思いますが」

「そうですね。コーカデス商会が売った後の取り引きですから、我々は絡めませんし」

「はい」

「ですが例えば、在庫が潤沢でいつでも買えるのであれば、転売は起こりませんよね?」

「それはもちろんですが、輸送するにも限りがありますし」

「そうですね。在庫場所も限られます」

「はい」


 肯く従業員に小さく肯き返し、レントは視線を下げた。


「予約では、引き渡し日も指定されますよね?」

「はい」


 レントは顔を上げる。


「つまり、引き渡しが遅くなるのは迷惑になりますけれど、早く受け取っても工事のタイミングと合わずに、現場では邪魔になる」

「そうですね」

「キャンセルされた分はどうしたのですか?」

「他の方の予約に回しました」

「転売で、どれだけの値段が付いているか、分かりますか?」

「聞き取りは出来ると思います」

「シロント石とシンコク石でも、転売はあると思いますか?」

「ない事はないかも知れませんが、それらは注文を受けたサイズで生産するとの事ですので、あっても稀かも知れません」

「サイズが規格化されているコーカデス石だから、転売が起き易いのですよね」

「はい」

「では特別ルートを作りましょうか」


 肯きながらそう言うレントの言葉に、従業員の眉根が寄った。


「特別ルート?ですか?」

「ええ」

「あの、どの様な?」

「キャンセルや返品などで宙に浮いた石材をオークションに掛け、定価より高い値段が付けば売って、その利益を予約で待っている人達に還元します」

「え?その様な事をしたら・・・いや、コーカデス商会としての売り上げは変わらないのか」

「ええ。商会長には相談しますけれど、許可は貰える筈です」

「そうですね」

「それとソウサ商会以外の船で運ばれて来る石材は、不定期なので扱いに困っていましたけれど、それも積極的にオークションに掛けます。そうすれば転売で得られる利益は減るでしょうし、転売目的の買取も減り、結果として、必要とする顧客にスムーズに石材が渡る事になりませんか?」

「そうですね、確かに」


 従業員が真剣な表情で肯く。


「予約して定価で買っている方達も、不利益を蒙っている訳ではありませんが、転売で利益を上げている人達を良くは思っておりません。閣下の案はその方達へのフォローにもなりますし、オークションで買って頂ける方には感謝をされますし、それでいてコーカデス商会の利益も減らない。う~ん。こう考えると、素晴らしいアイデアですね?閣下」


 真面目な表情で従業員にそう言われ、レントは少し照れた。

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