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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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コーカデス領へのお誘い

「ところで、それは良いけれどミリちゃん?」


 元王女チリン・コーハナルが眉尻を下げる。


「はい、チリン姉様」

「もしかしてもう、コーカデス子爵領に戻ってしまうの?」


 ミリは小さく肯いた。


「はい。乗って来た船が折り返しますので、それに乗ってコーカデス領に戻ります」

「そんなに急がなくても」

「これを逃すと日にちが空いてしまいますから」

「そう・・・お茶も出していなかったわね。お茶を飲む時間はある?」

「大丈夫です。船が出発するまでまだ時間がありますし、養伯父(おじ)様と養伯母(おば)様にもスディオ兄様にも挨拶をしてから帰る積もりです」

「コードナ侯爵家には?」

「こちらに来る前に顔を出して来ましたから、大丈夫です」

「そうだったのね。ではお茶にしましょうか。コーカデス子爵領の事や、ラーラさん達の様子を教えて欲しいわ」

「分かりました。ディリオも一緒で良いですか?」

「ふふ、もちろんよ」

「はい」


 チリンがミリを腕から解放すると、ミリはディリオを抱き上げる。

 ディリオを抱いたまま、ミリはチリンと共に居室に向かった。



 ミリ達が居室で待つと直ぐに、パノの両親のラーダ・コーハナル侯爵とナンテ・コーハナル侯爵夫人が入室し、それ程時間を開けずにパノの弟スディオ・コーハナルも姿を見せる。

 スディオがミリからディリオを預かろうとするが、ディリオがミリから離れたがらなかったので、そのままミリがディリオを抱いたままでお茶を飲む事になった。


「ディリオはミリにべったりだね」


 そう言うスディオにチリンが笑いを漏らす。


「ディリオもミリちゃんに会えなくて、寂しがっていたのよ」

「そうだろうけれど」

「忘れられていなくて良かったです」


 そのミリの言葉には皆が苦笑を零した。


「ディリオがミリちゃんを忘れる筈はないじゃない」

「そうだね。私の事は忘れても、ミリの事は忘れないと思うよ」

「スディオは日中いないから、仕方がないわ」

「忘れられて?いや、忘れてないよね?ディリオ?」


 まだ喋れないディリオにスディオがそう尋ねる。そのスディオの姿をラーダは真面目な表情で見ていた。


「普段はディリオが寝てから帰って来るから、忘れないのではなく、ディリオはスディオを覚えていないかも知れんな」


 ラーダの声がナンテには寂しそうに聞こえる。


「御自分はそうでしたものね」

「ああ。子供達が幼い頃もそうだし、その後は離れて暮らしていたからな」

「領地との往き来に日にちが掛かりますものね」

「ああ。あの頃はまだ人に任せ切りには出来なかったし、王都と領地を往き来する時間も惜しかったからな。ナンテには色々と任せっぱなしで申し訳なかったが」

「いいえ。王都にはお義父(とう)様もお義母(かあ)様もいらっしゃいましたし、パノもスディオも手が掛かりませんでしたから」

「そうか。しかし仕方がなかった部分もあるが、それを考えると幾日も掛けずに王都と往復できる様になったコーカデス子爵領は羨ましいな」

「そうですね」


 ラーダの言葉にナンテは肯き、二人はミリを見た。二人に釣られてチリンもスディオもミリを見る。


「コーカデス領も、港町から領都までは距離もありますし、船も毎日出ている訳ではないので、領都と王都の往き来は日にちに拠って馬の方が早い日もあります」

「え?そうなの?ミリちゃん?」

「はい、チリン姉様」

「けれどミリ?移動時間は船を使った方が短いよね?」

「ええ、スディオ兄様」


 チリンとスディオとミリの遣り取りに、ラーダは肯いた。


「なるほど。自分が移動するなら日にちを合わせて船一択だが、急ぎの連絡を送る時には船と馬の両方が良いのか」

「はい、養伯父様。移動は船酔いしなければになりますが」

「船酔いは大変なの?」


 心配そうなナンテにミリは肯いた。


「人に拠りますし、慣れもあります。コーカデス卿は最初からそれ程酔いませんでしたが、わたくしは最初、抱き抱えられて船から降りました」

「そうなの?それ程に?」

「はい。ですが今回はその様に酷い事はありませんでした。ただし慣れるか慣れないかも、人に拠るかも知れません」

「そうなのね」

「はい」


 肯くミリに、ナンテは心配そうな顔を向け、ラーダは少し難しそうな表情を見せる。そこへチリンが口を挟む。


「それなのですが、お義父様、お義母様、スディオ」

「ああ」

「ええ」

「なんだい?」

「私はミリちゃんに、コーカデス子爵領の港町の、ホテルの仕上がりのチェックを依頼されました」

「仕上がり?」


 ラーダの眉間に皺が寄り、ナンテもスディオも訝しげな表情した。


「ええ。王族が使うに価する場所になっているかの判断をして、不足があれば指摘をして欲しいそうです」

「チリン姉様とスディオ兄様に泊まって頂きたいのですが、お二人はこれから領地に向かうかと思います。その前にコーカデス領に来て頂きたいと思うのですが、いかがでしょうか?」

「ソウサ商会で新しい船を作っているそうで、それの完成後にその船で一回、完成前に別の船で一回行きたいのですけれど、いかがでしょうか?お義父様?お義母様?」

「領地の方は構わない。今は安定しているし、二人の領地への移動の準備もこれからだろう?」

「ええ」

「領地に行かせるのはスディオの領主になる勉強の為だから、領地に行くタイミングは二人に任せた積もりだ」

「ありがとうございます、お義父様」

「ありがとうございます、養伯父様」

「だがミリ?」

「はい、養伯父様」

「私とナンテは招待してくれないのか?」

「いいえ、養伯父様。チリン姉様に不足点を指摘頂き、それの対応が終わりましたら完成となります。養伯父様と養伯母様は是非、完成した港町に御招待させて頂きたいと思います」

「そうか、ありがとう。ならばスディオ、チリンさん」

「はい」

「ええ、お義父様」

「領地への移動は、私達がコーカデス子爵領への招待から帰ってからにしてくれ」

「そうですね。王都を空けない方が良いですね」

「分かりました、お義父様」

「ナンテもそれで良いかい?」

「ええ、ラーダ。船に乗るのも海を旅するのも、他の国の造りのホテルに泊まるのも楽しみだわ。よろしくね、ミリ」

「よろしくな」

「私達もよろしく、ミリ」

「よろしくね、ミリちゃん」

「はい、皆様」


 ミリはスディオを抱いたまま席から立ち上がる。


「こちらこそよろしくお願い致します」


 そう言ってミリは頭を下げ、続いてその頭を上げるとミリは皆に笑顔を向けた。そのミリに皆が笑顔を返す。

 そのミリの頬にディリオが手を当てると、皆から柔らかい笑い声が漏れた。

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