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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ミリからチリンへの依頼

 王位継承権を持つ女性が王都を離れられる様になった事の連絡を受けて、ミリは船でコーカデス領から王都に戻って来た。王都の港町からコードナ侯爵邸に寄り、そして直ぐにコーハナル侯爵邸に向かう。それは元王女チリン・コーハナルに会う為だ。


 コーハナル侯爵邸に着いて、ミリが先ずディリオを愛でているところに、チリンが姿を現した。


「お帰りなさい、ミリちゃん」

「チリン姉様。約束もせずに来てしまい、申し訳ありません」


 ディリオに指先を握られたままそう言うと、ミリは体をチリンに向けて軽く頭を下げる。チリンはミリに向けて近付きながら、小さく首を左右に振った。


「良いのよ。久し振りに会えて嬉しいわ」


 そう言ってチリンは両腕でミリを包む。


「わたくしもです、チリン姉様」


 ミリもディリオに握られていない方の手をチリンの背中に回した。チリンは腕の力を少し強める。


「パノ義姉(ねえ)様も留学してしまったし、ラーラさんもミリちゃんもコーカデス子爵領に行ったまま帰って来ないし、少し寂しかったわ」

「ごめんなさい、チリン姉様」

「いいえ。コーカデス子爵領の領地開発は、延いては国の為ですもの。ミリちゃんが謝る必要はないし、大切な仕事なのだとは分かっているの。それでも寂しく思ってしまうのは仕方がないし、お義母(かあ)様もディリオもいるから我慢すると言う程の事ではないわ」


 チリンは腕を緩めて体を離し、ミリの顔を見た。


「でも、船を使えば何日も掛からなくなったのでしょう?もっとこまめに帰って来てくれても良いのではない?」

「ごめんなさい、チリン姉様」

「謝って欲しい訳ではないの。ただ、ミリちゃん達に会いたいだけなのよ」

「それなのですけれど、チリン姉様?」

「ええ、何かしら?」


 小首を傾げたチリンに、ミリは笑顔を向ける。


「チリン姉様はコーカデス領の港町に興味はありませんか?」

「もちろんあるわ。ラーラさんが指揮を執って開発しているのでしょう?」

「はい」

「様々な国の様式のホテルやレストランを集めているのよね?」

「はい、そうです」

「とても興味を惹かれているわ」

「それでしたらチリン姉様?コーカデス領にいらっしゃいませんか?」

「え?良いの?」

「はい。スディオ兄様と一緒に、是非」

「もしかして、もう完成したの?」

「優先すべき建物は出来ていますし、ホテルもレストランも従業員の教育が満足出来るレベルに達しました。本格的なオープン前ですが、王族の方々を持て成す事が出来るのかどうか、チリン姉様に判断して頂けないかと思いまして」

「行くわ、行きます」


 肯きながらそう返すチリンに、ミリは笑顔を向けた。


「ありがとうございます」

「こちらこそ、その様な大切な役目を任せてくれて、ありがとう、ミリちゃん」

「いいえ。ただしソウサ商会の船が完成するのにもう少し時間が掛かりますから、チリン姉様とスディオ兄様がコーハナル侯爵領に向かう日にちに猶予を頂ける様に、養伯父(おじ)様に許可が頂けたらになりますが」

「お義父(とう)様の許可は大丈夫だと思うけれど、ソウサ商会の船?」

「はい」

「ミリちゃんが乗って来た船は?ソウサ商会のものではなかったの?」

「それとは別に、貴族が乗る事を想定した船を作っているところなのです」

「港町の方はもう、準備が出来ているのよね?」

「はい。概ねは出来ていて、チリン姉様からの指摘があれば、それを直せば完成として良いでしょう」

「それなら新しい船の完成を待たずに、ミリちゃんと同じ船で行くわ」

「あ、ですが、それは」

「あら?何かあるの?」

「今の船は小さくて、船室も狭いですし船も揺れます。作っている船は貴族向けの船室も設けますし、船体が大きいので揺れも少なく、速度も速い筈なので乗っている時間も短くなります」

「構わないわ」

「ですが、チリン姉様には港町だけではなく、その新しい船も王族に使って頂く為の助言を頂きたいと思っているのです」

「構いません。お義父様には領地入りを遅らせる許可を頂くけれど、先ずは今の状況を現地で確かめて、新しい船が出来たらもう一度行けば良いでしょう?」

「こちらは助かりますけれど、チリン姉様?今の船にはわたくしも酔いますし、シンコク子爵家のセラム・シンコク殿はかなり辛い目に遭っていました」

「そうなの?」

「はい。コーカデス領の港に着いた途端、船から病院に運び込まれて入院する程でしたので」

「それ程の、セラム・シンコク殿程の状態になる人は多いの?」

「いいえ。セラム・シンコク殿は極端な例ですけれど、馬車に酔わない人でも船には酔ったりしますし、わたくしもそうです」

「・・・馬車に酔わない?」

「はい」

「船に酔うは聞いた事があるけれど、馬車に酔う人なんていないでしょう?いるの?」

「それは、わたくしの知り合いに一人、いますけれど」

「そうなの?」

「はい」

「ミリちゃんには色々な知り合いがいるのね。顔が広いからなのかしら?」

「どうでしょう?」


 セラムの名前は出してしまったけれど、レントの名前を勝手に出すのは気が引けていたので、ミリは馬車の話題からは離れたかった。


「とにかく、チリン姉様が入院する可能性は下げたいですし、スディオ兄様の都合もあると思います。スディオ兄様にも一緒に来て頂きたいので」

「スディオは大丈夫だと思うけれど、スディオが良いって言ったら、新しい船の完成前にもコーカデス子爵領に行っても良い?ちゃんと二回とも料金は支払うから」

「あ、いいえ」

「え?」


 チリンの眉尻と口角が下がる。


「ダメ?」

「あ、いいえ。コーカデス商会からチリン姉様に、指導料として料金を支払います。そして滞在に掛かる費用は二回とも全て、コーカデス商会に持たせて下さい。それにチリン姉様に二回来て頂ける方がありがたいのですけれど、問題はチリン姉様もスディオ兄様も、どの程度船酔いするかです」

「では、今の船を一日貸しきる事は出来ない?それで試して大丈夫そうなら、先ずその船を使ってコーカデス子爵領に行って、駄目そうなら馬車で行くから」

「そうか、陸路か」

「え?」

「街道を使っても良いのでしたね」

「え?ええ。どうかしら?」

「大丈夫です。ではこの後に手配をしておきます。ソウサ商会から連絡をさせますので、日にちはスディオ兄様と相談して下さい」

「分かったわ」


 チリンは王都から出られる事はもちろん、港町も楽しみだし、船に乗る事自体も海を行く事も楽しみで、それを素直に顔に出してミリに向けた。

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