表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
805/812

セラムの帰領

 シンコク子爵領に入ったセラム・シンコクは、領都のシンコク子爵邸にまず寄るか真っ直ぐ石切り場に向かうかぎりぎりまで悩んでいたが、結局は邸に戻る事にした。


「ただいま戻りました」

「ああ、お帰り、セラム」


 邸に戻ってまず執務室に顔を出すと、祖父のマクロ・シンコク子爵がセラムを迎える。


「あれ?お祖父様だけですか?」

「うん?」

「父上は出掛けているのですか?」


 セラムの父ターム・シンコクが普段使用している机の上が片付いているのを見て、セラムはマクロにそう尋ねた。


「タームは議会に出る為に王都に行っているが、会わなかったのか?」

「え?いいえ。そうなのですか?」

「・・・どこかを視察しながら行ったのかも知れん。セラムとは行き違ったのだろうな」

「そうなのですね。でも、父上が出る議会って、貴族議会ですよね?」

「ああ、そうだ」

「この間もありませんでしたか?」

「ある時は毎月ある」

「そうなのですね。王都と行ったり来たりしなければならないのは、大変ですね」

「特に議題がなければそうはならない。今回続いたのは、まあ、たまたまだろう」

「なるほど」

「他の家は誰か一人を王都に残していたりするが、我が領は今、石材の生産と出荷で忙しいからな」

「でも、行ったり来たりするのは、却って時間の無駄ですよね」

「まあ、今回だけだろう。国内が落ち着いている今時に、そんなに何度も続くほど案件はないさ」

「もっと近ければ良いですよね」

「こればかりは、な」

「コーカデス子爵領は、船で行くのは早かったですよ?」

「船か・・・シンコク子爵領だと、川を行くしかないな」

「遡る向きには大変ですけれど」

「そうだな。やはり海路ではないと難しい。ところでその船旅、大変だったのではないのか?」

「ええ。早く着くのは良いのですが、船に酔ってしまって大変でした」

「コードナ侯爵家の者達に世話になったのだろう?」

「ええ」

「礼は送っておいたが、それ程酷かったのか?」

「ええ。船から降りた時の記憶があまりありません。気付いたら病室でした」

「いくら日にちが掛からないとは言っても、病気になるのでは使えんな」

「そうですよね。ミリ・コードナ様は慣れると言っていましたけれど、あっ!忘れていた」

「どうした?」

「王都でコーカデス閣下に会ったのですが、船に酔わないのは本当なのか聞き忘れました」

「うん?コーカデス卿は酔わないのか?」

「ミリ・コードナ様の話ではそうらしいです。何でも船に慣れたとか」

「確かに船乗り達は、いちいち酔ったりはしないのだろうが」

「でも平民ですからね。育ちが違っていたら参考になりません」

「そうだな。そうすると船旅はなしか」

「ミリ・コードナ様は船で儲けようとしているみたいですけれど」

「うん?どうやって金を稼ぐのだ?」

「石材は船で運んでいる様なのでそれに付いては分かるのですが、利用客を見込んだ町作りをしていて、それはどうやって客を集める積もりなのか分かりません」

「そうしたら、普通に陸路で客が来るのではないのか?」

「やはりそうですよね。でもそれだとわざわざ領地の端っこに町を作る理由が分かりません」

「港や海が近い必要はないのか?」

「ないように思えました。確かに海の景色は良かったですけれど、水が波打つだけで海には何もないですから、直ぐに飽きると思います。人を呼ぶ町を作るのなら、採石場の周りの方が余程向いていると思いました」

「・・・コーカデス子爵領に損害を与える為に、わざと無駄な開発をしていると言う事か?」

「う~ん?ミリ・コードナ様にはその積もりはなさそうでしたけれど」

「そうなのか?」

「ええ。その港町の開発にかなり投資をしているらしいですから、自分が損をする様な事はしないと思いますし、ミリ・コードナ様と話した印象では、その様な事をやる人には思えませんでした」


 セラムの話を聞いて、マクロは僅かに眉間に皺を寄せる。ミリにその積もりはなくても、周りの大人はどうだか分からないとマクロは考えていた。

 しかしマクロの表情に気付かずに、セラムは話を続ける。


「それにやはり、ミリ・コードナ様は頭が良さそうです。話していると面白いですし、色々な事を知れました」

「色々な事?」

「ええ。採石場の傍にも、職人達が暮らせる場所をわざわざ作ったり」

「それは我が領でも同じだろう?」

「いいえお祖父様。もっと近いのです。直ぐ傍なのです」

「そうなのか?」

「はい」

「しかし、それが何だと言うのだ?」

「採石場に通うのに山を上り下りしなくて済むから、石工以外でも働く人をそれ程選ばないのです。年寄りや子供も採石場の傍で働いていました」

「子供も?」

「ええ。お遣いしたり、少し大きい子は石運びもしたり、家族全員で働いている者達も多いそうです」

「それは我が領でも同じではないか」

「いや、あの、なんと言うか、我がシンコク子爵領の採石場は、いわば職人の聖域ではありませんか。でもコーカデス子爵領では違うのです」

「それは、石工達は採石場を神聖な場所だとしているが、コーカデス子爵領ではそうではないと言う事か?」

「採石場自体の扱いは同じ様な感じですが、その、何と言うか、採石場を中心に町全体が家みたいと言うか、集落みたいと言うか」

「町全体が集落みたい?」

「そうなのです。こう、一つになっている感じがあって、そう!祭り!祭りみたいな賑やかさと一体感があるのです」

「・・・ほう」

「そう、祭りだ。今思い返すと、港町にもそう言う雰囲気がありました」

「・・・報告だと、様々な国の者達が集まって来ているのだったな?」

「ええ。この国の人間は港町には半分もいない感じですね」

「それなのに一体感があるのか?」

「そうなのです!ですからそれがもしかしたら、ミリ・コードナ様が港町で利益を出す方法と関係があるのかも知れません」

「・・・それはどうやってだ?」

「分かりません。でもミリ・コードナ様は頭が良いと思ったので、分からない何かをやっている気はします」

「・・・セラムの説明だけでは、良く分からんぞ?」

「ええ。私も良く分からないのでお祖父様?我が領の採石場でもやってみませんか?」

「・・・何をだ?」

「採石場の周りを一体感のある祭りの様な町にするのです!」

「ほう・・・だが今は駄目だ」

「え?何故ですか?」

「今は生産が忙しいではないか。採石場の周りで何かをするのは邪魔になる。やるのなら王都の建設ラッシュが下火になって、生産が例年並みに落ち着いてからだな」

「そんな。もしかしたら生産力が上がるかも知れないのに」

「そうなのか?」

「はい。コーカデス子爵領の採石場やその周辺では、皆生き生きと楽しそうに働いていました。我が領の石工達にもあの様に楽しそうに働いて欲しいです」

「・・・セラムの気持ちは分かるが、やはり今は駄目だ。職人達は、自分達で環境を変えるのは良いが、周りに変えさせられるのは嫌がる」

「そうなのですか?」

「ああ。忙しいところに用事を増やして、臍を曲げられたら生産がストップするかも知れない。その様な可能性がある事は、領主として許可出来ない」

「・・・そうですね。分かりました」


 気を落としたセラムの様子を見て、マクロは眉尻を下げた。


「セラム」

「はい、お祖父様」


 セラムは声にも元気がなくなっている。


「お前に頼みがある」

「頼み?・・・何でしょうか?」


 セラムはマクロが話を変えたのかと思い、訝しそうな表情を浮かべた。


「需要が落ち着くまでの間に、セラムがやりたい事をもう少し具体的にして欲しい。何をどうすればどうなるのか、説明出来る資料を作るのだ」

「資料ですか?」


 少し嫌そうな様子のセラムに、マクロは苦笑を漏らす。


「ああ。資料を作ってお前の考えを纏めて、私を納得させて御覧。納得出来たら領主として、その提案に予算を付けてやる」

「え?予算を?」

「ああ。その予算を使って、セラム主導でやりたい事をやってみるが良い。どうだ?やってみないか?」

「やりますお祖父様!私にやらせて下さい!」

「ああ、やってみろ。先ずは調査費を出してやるから、またコーカデス子爵領に行くなり王都に行くなりしても良い。ただし」

「ただし?」

「自分が領主になった時の為に、我が領の採石場や石工達の今の様子も、確りと見ておくのだぞ?」

「もちろんですお祖父様!」

「うむ」


 明るい表情に戻ったセラムを見て、マクロは笑みを浮かべて強く肯いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ