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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ソロン王太子からレントへの依頼

「コーカデス卿に頼みがある」


 ソロン王太子にそう言われたら、レントには嫌な予感しかない。それもソロン王太子がレントを喚び出すのに当たり、レントの都合を優先させたりまでしていたので、これは危機感と言っても良かった。


「わたくしに出来る事はそれほど御座いませんが、どの様な御依頼でしょうか?」


 望みではなく依頼と表現した事が、ソロン王太子を前にしてのレントの精一杯だった。


「いや、大した事ではないのだ」


 王太子に喚び出されるだけでも大した事なのだ。コーカデス子爵位を引き嗣ぐ前後にソロン王太子に色々と相談した経緯がなければ、レントは話を聞かずに断りたかった。もちろん断れないのは分かっているけれど。


「先日の貴族議会でのコーカデス卿の意見に、私は賛成なのだ。大賛成なのだけれど、王族は王族法に公的には意見を出せない。法案提出の手段もない。公爵家の者達が立案し、それを貴族議会が承認するしかない」

「はい」

「しかし議会に提出前に、内容を確認する機会はある」

「そうなのですか?」

「ああ。王族法も議会で決議された後に国王の承認が必要だ。その時に否認されたら、公爵家の面子が潰れるからね」


 なるほど、と口にして良いかレントは迷った。面子を気にするなど器が小さいと思え、それを肯定してしまう事になるかも知れないと思ったからだ。

 取り敢えずレントは、僅かにだけ肯いて返す。


「だが、このまま法案が廃案になるのは困る」

「え?廃案にですか?」

「ああ」

「それはないのではありませんか?」

「うん?何故そう思うのかい?」

「チリン・コーハナル様が気の毒だとの発言がありました。それを理由に法案を提出したのであれば、このまま取り下げる事はないのではありませんか?」

「そうだね。そうなのだけれど、もし次にまた議会で否決されたりしたら、などと考えれば、やはり面子の問題になってしまうからね」

「・・・わたくしが否定の意見を出した事が、失敗だったと言う事なのでしょうか?」

「いいや、違うよ。あれでは不足だし、根本解決が遠離ると私も感じていた。コーカデス卿の意見は正しい。問題があるとすれば、王族法は公爵家しか提案できない今の仕組みだ。その様な事を今ここで言っても仕方がないけれどね」


 僅かに首を左右に揺らしながら、ソロン王太子は視線を下げた。しかし直ぐにレントと目を合わせる。


「そこでコーカデス卿に、移動制限の撤廃に繋がる材料を提供して欲しいのだよ」

「わたくしが知っております事は、王宮から取り寄せた資料に基づいたものになりますが」

「ああ。命じれば同じ様な資料が手に入るだろう。でもそれを法案の材料として纏めさせるのに、指針を上手く伝えるのは大変だ」

「そうなのでしょうか?王宮の文官の方々は優秀だとの評判を聞きますし、接してみてもその通りだと感じました。指示をすれば普通に対応して貰えるのではないでしょうか?」

「それは、そう言う文官も確かに多いのだけれど、公爵家が絡むと・・・ね?」


 レントが接するのは、コーハナル侯爵家に与する貴族家所縁の文官達だった。その多くは王都で暴動が起こった時の人手不足を補う為に、王宮に入った者達だ。

 その前から勤めていた文官達は王都から避難していたり、王都に残って混乱に拍車を掛ける様な事を(おこな)ってしまっていたりした。そして公爵家が指示をする相手は、この昔からいる文官達だ。

 レントはそちらの文官の事を知らないので、ソロン王太子の言葉は今一つピンと来ない。そのレントの様子を察して、ソロン王太子の表情に苦笑が滲む。


「もしコーカデス卿と同じ様に考えられる文官が公爵家の相手を出来るのなら、法案はあの内容ではなく、議会でもすんなりと決議されていた筈だ。違うかい?」

「・・・仰る通りかも知れません」


 レントは貴族議会で、自分が特別な事を言った積もりはない。少し調べれば分かる事を述べただけで、それに対して何らかの反論も用意されている想定だった。しかし議論とはならないレベルの言葉しか返されず、正直なところレントも引っ込みが付かなくなっていたのだ。


「コーカデス卿の考えを纏めて貰ったところで、それが採用されるかは分からない。けれど考え直すチャンスにはなるだろう。どうだろう?移動制限を撤廃する為の根拠にする事が出来る資料を作って貰えないだろうか?」

「・・・それをわたくしが書いたと知られれば、見ずに終わる可能性も御座いませんか?」

「そこまで馬鹿ではないと思いたいけれど、そうだね。挑戦状の様な扱いにすれば良いかな?」

「挑戦状ですか?」

「ああ。コーカデス卿ならここまで確りと法案を組み立てられるが、公爵家の皆はどうだ、みたいな?」

「なるほど。それでわたくしの案より良いものを出して頂くのですね」

「・・・無理かな」

「え?」

「そっくりそのまま、真似てくれれば良いかとも思ったけれど、それだとコーカデス卿の手柄を奪う事になるね」

「それはわたくしは構いませんが」

「いや、()めておこう。移動制限を撤廃するにはこうすれば良いと思ったけれど、また中途半端な法案が出て来るかも知れないし、そうでなければコーカデス卿の手柄を奪うだけの結果になりそうだ」

「それでしたら、資料を作成したのが誰だか隠したらいかがでしょう?」

「どう言う意味かな?コーカデス卿とは言わないと言う事かい?」

「もう一歩進めて、わたくしもその資料を元に発言しただけだと言う事にすれば、相手の方の面子も潰さないでしょうし、資料も使って頂けるのではないかと」

「それでは全く、コーカデス卿の手柄にならない」

「あの、わたくしはこの件で、手柄を立てる積もりは全くありませんでしたので、一向に構いません」

「そう言う訳にはいかないよ」

「いいえ、王太子殿下。移動制限を撤廃するチャンスは潰すべきではないかと考えます。撤廃出来なければ、手柄も何も御座いませんし」

「・・・いいのかい?」

「構いません」


 強く肯くレントをソロン王太子は見詰める。


「分かった。その案を含めて使わせて貰おう」

「はい」


 ソロン王太子はレントに笑顔を向けた。


「手柄を挙げて王族に感謝されたり貴族達に評価されたりより、王太子である私に恩を売る方を選ぶと言うのは、なかなかやるね」

「え?あっ!いえ!そう言う積もりでは!」

「分かってるよ、冗談さ。レント殿がそうは考えていない事は理解しているから」

「あの、はい」

「しかし王太子の私に恩を売っておいて、私が国王になってから恩返しをさせると言う事も出来る。なかなかの切り札になるのではないかな?」


 それは考えていなかったレントは肯定する事を躊躇ったけれど、確かにソロン王太子の言う通りなので否定も出来なかった。


「わたくしは授爵の前後に王太子殿下に多くの助言を頂きました。王太子殿下のお役に立てるのであれば、多少は御恩をお返し出来た事になるかと感じます」


 そう言って頭を下げるレントに、ソロン王太子は苦笑を漏らす。


「あれは国にとって不利益にならない様にしただけだし、コーカデス領に付いてだけ(おこな)った訳でもない。でも今のコーカデス卿も、あの頃の私と同じ様な気持ちなのかも知れないな。それでも何かあれば、私はコーカデス卿に恩を返そう」


 レントは頭を上げて、真剣な表情をソロン王太子に向けた。


「それはとてもありがたいお言葉ですので、全力で、王位継承権を持つ女性の移動制限の撤廃が実現出来ます様な資料を作成したいと存じます」

「ああ、そうだよね。撤廃出来てこその恩だ。期待しているから、よろしく」

「はい」


 レントは肯くとまた、ソロン王太子に視線を向ける。


「それで、撤廃するのは移動制限に付いてだけでよろしいのですね?」

「うん?ああ、降嫁した者の王位継承権の事か」

「はい」

「そちらは法が成立した当時より、今の方が王族の数が少ないからね。そこもいずれ何とかしたいのだけれど、取り敢えず今回はターゲットにしなくて良いよ。下手に絡めると状況が悪化するかも知れないし」

「分かりました。では近日中に資料を纏めてお届けします」

「いや、慌てなくても良いよ?コーカデス卿は領地の事も学院の事もあるのだから」

「あ、いえ。領地は順調ですし、学院もそれほどではありませんので」

「・・・それもそうか。リリ・コーカデス殿が後見だし、リート・コーカデス殿もいる。ミリ・コードナ殿達もだ」

「はい」


 叔母のリリや祖父のリートの事を言われて謙遜に当たる言葉を思い浮かべていたのだけれど、ミリの名を出されてレントは思わず素直に肯いてた。


「学院の授業も確かに、コーカデス卿に取ってはそれほどのものではないのだろうな」

「あ、いえ」


 ミリで肯いてしまった事で少し慌てていたレントは、続くソロン王太子の言葉への返しに言葉を詰まらせてしまう。

 その様子を見せるレントを年相応に感じ、ソロン王太子は微笑みを浮かべた。

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