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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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移動制限の改訂法案

 貴族議会が開催され、議題として提示されたのは王族法の改定案だった。


「それではコウバ公爵代理。説明をお願いします」

「・・・ああ」


 議長に指名され、不機嫌そうな表情をした人物が登壇する。


「皆も知っての通りこの国では、王位継承権を持つ女性は王都を離れられない。見て分かる通り、これを緩和しようと言う法案だ」


 それだけ言うとコウバ公爵代理は壇から下りようとした。それを議長が止める。


「コウバ公爵代理。まだ質疑応答があります。そのまま壇上で待つ様に」

「質疑応答など不要だ。王家に近い者達で出した案だ。直ぐに決を取るべきだろう?」

「いいえ」

「ふん。反対の者はいるか?」


 コウバ公爵代理は参加している貴族達に向け、睨む様に見回した。そこにレントが手を挙げる。


「貴様、調子に乗るなよ?」


 コウバ公爵代理の言葉に議長は小さく息を吐いた。


「コーカデス子爵、どうぞ」


 レントの発言を許した議長をコウバ公爵代理は振り向いて睨む。そしてコウバ公爵代理が口を開く前に、レントが発言をした。


「わたくしは、この法案を通す事に反対です」

「なんだと?」


 言葉を続ける積もりで口を開けていたレントは、コウバ公爵代理が発言をしたので一旦口を閉じる。しかしコウバ公爵代理はレントを睨むだけで、レントが待っても何も続けなかった。

 それなのでレントは、もう一度発言の許可を求める。


「議長」

「コーカデス子爵、どうぞ」

「何故こいつに発言を許すのだ?」


 コウバ公爵代理に睨まれて、議長はまた小さく息を吐いた。


「コウバ公爵代理。貴族議会の議事進行に付いて御存知ではないのか?」

「何を?私を誰だと思っている?」

「御存知であるのなら、それに則って頂きたい」


 睨んで来るコウバ公爵代理に平坦な声でそう返すと、議長はレントに顔を向ける。


「コーカデス子爵」

「だから何故、こいつに発言を許すのだ?」

「コウバ公爵代理。これ以上進行を妨げるのなら、退場を命じる」

「何?本来なら俺がこの場の議長を務めている筈なのだ。その俺を邪魔扱いにして、本来の議長を追い出すと言うのか?」

「追い出されたくないのであれば、議事進行を妨げず、先ずは発言者の意見を聞く様に。コーカデス子爵、どうぞ」

「はい。わたくしはこの法案に反対です」

「何を言っている」

「コウバ公爵代理。コーカデス子爵の話を遮らない様に。コーカデス子爵。コウバ公爵代理の独り言は無視して構わないから」

「独り言だと?」

「発言を続けて下さい」


 コウバ公爵代理が議長に向かって言った言葉を無視した議長に、レントは笑いそうになった事を誤魔化す為に肯いた。


「はい」

「はいだと?」

「わたくしが反対しますのは」

「お前はチリン様が哀れに思わないのか?」

「コウバ公爵代理」

「この法案では却って、時代にそぐわない現行法を生き延びさせる事になると考えるからです」

「時代にそぐわないだと?」

「現行法が成立した当時の国内は、とても不安定でした」


 レントがコウバ公爵代理の独り言に構わず話を続けるので、議長もコウバ公爵代理の発言を放置する事にした。


「お前!当時の国王陛下の治世を批判するのか?!」

「当時は軍が叛乱を起こしたり、貴族が玉座を狙ったりする事件が立て続けに起こりました」

「それは、だが、一部に不心得者がいただけだ」

「そして王族、特に王位継承権を持つ女性達が狙われ、何かと理由を付けて王都から連れ出し、危害を加えたり、自分の利益にしようとする不心得者が一部にいたのです」


 レントに言葉を流用され、コウバ公爵代理の独り言が閊える。


「それらを防ぐ為に成立させたのが、今回の焦点になっている法です」

「だからそれを緩めようと言うのではないか」

「当時は街道も今ほど整備されてはおらず、石畳になっている様な場所も稀でした。国内の移動にもかなりの時間を要したそうです」

「それがどうした」

「そして治安も悪く、盗賊なども多かった為、王族の移動には多くの護衛が必要でした」

「王族や高位貴族を守るのであれば当然だ」

「更に当時は女性の衣装もかなり豪華で、その上馬車での移動中もその豪華な服装でなくてはならず、今の旅装の様な疲れにくい服装は用いられませんでした」

「それがなんだ」

「休憩するのにも着替えにかなりの時間が掛かる為、移動途中の休憩は取りません」

「着替え?」

「休憩に使えそうな街道上の建物も、女性が休むのには適さず、豪華な衣装のままでは用も足せなかったそうです」

「お前、用って」

「それなので休憩せずに済む距離が、王族や高位貴族の女性が一日で移動できる距離でした」

「だからなんだ?」

「つまり王家直轄領でさえ、王都と往き来をするのに今の何倍もの時間が掛かったのです。それなので元々、王族として生まれた女性達は、王都を離れる事が稀であった為に、移動を制限するこの法が施行されても、殆ど生活に影響がありませんでした」

「それは今も同じだ」

「そして当時は王族女性は降嫁をすると共に、王位継承権を手放さなければならなかったのです」

「何?」

「今、チリン・コーハナル様が王位継承権を持っているのは、その後に王位継承権に関する法が改訂された為です」

「なんだと?」

「王位継承権の法が改訂された時に、移動制限の法が見直されなかった為に、今の様な状況が生まれているのです」

「そんな」

「それなので今回の法案の様に、三日で王都に帰る事が出来る場所ならば移動を許可するなどではなく、移動制限の法を廃止するか王位継承権の法を元に戻さなければ、問題の根本的な解決には繋がりません」

「いや、だが、それは」

「なお、王位継承権を持つ方達を一箇所に留める事は、危機管理の点から考えるに問題があります」

「何だと?」

「先代国王は流行病で亡くなりました。王位継承権を持つ方を王都に集めておいては、同時に同じ病に罹るかも知れません」

「いや、あれは、若い者達は軽症で済んでいた」

「確かに前回流行った病は、致死率が高かったのは高齢者、特に男性でしたので、同じ病が流行っても、チリン・コーハナル様は無事かも知れません」

「そうだ。その通りだ」

「しかし、次に流行る病も同じだとは限りません」

「違うとも限らない」

「各家では、火事に備えて資産を分散させたり、不作に備えて作る農作物を分散させたりしている筈です」

「なに?王族を野菜扱いにするつもりか?」

「何かあってからでは遅いのです」

「王族の不幸を口にするなど不敬ではないか!」

「移動制限の法を今改訂してしまうと、根本的な解決をする機会を失う事になります」

「何だと?」

「わたくしはこの移動制限の法を改訂するのではなく、現状の王族法全体の見直しをする為にも、この法案は差し戻しとするべきだと信じます」


 レントの発言に拍手が起こり、コウバ公爵代理が何を言い返したのかは聞こえなかった。


 議長が手を挙げて場を静め、決を採ると法案差し戻しが多数を占めた。

 こうして、時流に合わせての王族法全体の見直しか移動制限の法案の廃止を貴族議会からの提言として、法案は差し戻しとなる。

 それが決まった時に傍聴席にいたソロン王太子は、座ったままではあるが議場に向けて頭を下げた。

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