セラムが受けてレントが立つ
スーノ・シロントに向け、セラム・シンコクが低めに声を出す。
「確かにシンコク石そのものは、信仰の対象になったりはしていません」
セラムの言葉を敗北宣言の様に受け取ったスーノの顔が輝く。レントはスーノが肯いたり、肯定の言葉を口にしたりしないかとヒヤヒヤしていた。 勝ち誇った様な様子のスーノに向けて、セラムが言葉を続ける。
「ですが、信仰心の篤い人の中に、神殿と同じ様な邸を建てるのは畏れ多いとして、敢えてシンコク石を選ぶ人々がいました。その人々に支えられて、シンコク石は使われ続け、シンコク子爵領は栄えたのです。信仰心に支えられているのは、シロント子爵領だけではありません」
末尾の一言が多いです、とレントは思った。
「その信仰心も、シロント石が神殿に使われて広まったからこそです」
言い返さないで下さい、とレントは思う。
「それは分かります」
セラムの言葉にほっとしたレントが、体の力を抜いたけれどまだ早かった。
「しかし、その信徒達の暮らしを支えたのはシンコク石です」
「その信徒達の心を支えたのは他でもない、シロント石です」
「シロント子爵領でもシンコク石が使われているではないですか」
「それはシンコク子爵領でも同じでしょう?」
「シンコク子爵領ではシロント石なんか使っていません」
「その様な訳ないでしょう?神殿だってあるのですし」
「シンコク子爵領の神殿もシンコク石で作られています」
「その様な訳ありません」
シンコク石で出来た神殿を想像して、それはないでしょうね、とレントも小さく肯く。
「あります。スーノ殿はシンコク子爵領に来た事がないから知らないのです」
「行かなくても分かります。それに領民達だってみんな、シロント石で出来た神像を家に飾っている筈です」
「領民が飾る神像もシンコク石を使っています」
「その様な、シンコク石を使った神像なんて、飾る人なんている筈ありません」
「いますから。シンコク子爵領ではみんな飾っていますから」
「そんな悪魔の様な像を飾るのなんて、ミリ・コードナ様くらいしか」
「スーノ殿」
レントが低い声を出す。スーノは体から急速に熱を失った。スーノは慌てて立ち上がると、レントに向けて頭を下げる。
「申し訳御座いません!コーカデス閣下!」
「・・・わたくしが謝って頂く話ではありません」
レントにそう言われても、スーノはレントに頭を下げ続けた。
コーカデス子爵家がコードナ侯爵家の配下に入っている事を思い出し、ミリ・コードナの事をレントの前で悪くは言ってはいけない事はスーノも知っているのだ。
それなのに、セラムに釣られてスーノは口を滑らせてしまった。
振り返れば、セラムはこれを狙っていたのかもしれない。そうとしか思えない煽りっ振りだったし、言葉の選び方と話の持って行き方だった。年下のセラムに油断した。
スーノは頭を下げたまま無意識に、目を強く瞑って唇も強く結び、奥歯を強く噛み締めた。
そのスーノの様子を見て優越を態度に現すセラムに、レントは厳しい表情を向ける。
「シンコク殿も、嘘を口にする事は慎むべきです」
「嘘など、その」
「シンコク石を使ったアクセサリー等がある事は、わたくしも知っています。それとままごとと言う遊びで、それらしい形のシンコク石を人間扱いにもするそうですね?」
「ままごと?ですか?」
「ままごとと言うのは平民の遊びだそうです。主に女の子が行うそうですから、シンコク殿は知らないかも知れません」
「何故コーカデス閣下は、シンコク子爵領の平民の女の子の遊びを知っているのですか?」
「ままごとはシンコク子爵領に限った遊びではありませんし、石材加工に付いて調べていた時に耳にしただけです」
「そうなのですか?どの様な遊びなのですしょう?」
「興味があるのであれば自分で調べて下さい。それよりもセラム・シンコク殿」
「あっ・・・はい」
「セラム・シンコク殿はいずれ、シンコク子爵の爵位を継ぐのですよね?」
「はい。もちろんです」
「それならば、迂闊に嘘を口にしてはならないのではありませんか?」
「えっ?・・・」
「どうですか?違いますか?」
「・・・違いません」
「そうですよね」
レントは柔らかい声でそう返し、小さく肯いた。
「わたくしは、今のお二人の話を聞かなかった事にします」
レントはそう言うとセラムとスーノに交互に視線を送る。セラムは俯いているし、スーノは頭を下げたままなので、どちらとも目は合わない。
レントが席を立つ。
「聞かなかった事にする為には、まだまだ気持ちが落ち着かないので、申し訳ありませんが、わたくしはここで退席させて頂きます」
その言葉にスーノは体を起こし、セラムも顔を上げた。
「ではシンコク殿、シロント殿。本日はお二人とお話しさせて頂いて、とても楽しかったです」
レントは「楽しかった」の言葉に、変に力が籠もってしまわない様に意識した。先程の話を聞かなかったのだから、同年代の二人と話せて普通に楽しかったのだ。
「それではシンコク殿とはいずれまた」
「あの・・・はい。コーカデス閣下」
「シロント殿はまた明日、学院で」
「レント様・・・」
二人に礼を送り、レントは店の個室を後にした。
レントの姿が見えなくなると、セラムは仰向いて天井を見て、スーノは項垂れて目を瞑る。
二人には直ぐには、先程の事をなかった事には出来なかった。




