スーノが仕掛け
レントの顔を見て、スーノ・シロントははっとした。
そして自分はセラム・シンコクのする話に、興味を持って聞いている場合ではない事に気付く。
スーノの伯父のワイス・シンコクからスーノは、レントが他の貴族家の人間と親しくならない様にする様にと、命令を受けている。
学院ではそれが上手くいっているとスーノは思っていた。スーノは学院ではなるべく、レントと行動を共にする様にしているし、誰かがレントと話をしている事に気が付いたら、その話に加わる様にしていた。レントと放課後に会う約束が出来ているのもスーノだけだ。
だが目の前の、まだ学院に通っていないセラムが、レントとかなり親しげだ。何故だろう?
そこでスーノは、今日のセラムが何度かミリ・コードナの名を出している事に思い至った。
セラムはコーカデス領に行った事があると言う。今のコーカデス領にはミリがいる。そこで二人の間に何かがあり、ミリを介してレントと仲良くなったのではないか、とスーノは考えた。
ミリは頭が良いらしい。もしかしたら、レント様と私が親しくなるのを邪魔する為に、セラム・シンコク殿を送り込んで来たの?とスーノは思った。
もしかしてミリは、レント様を狙っている?妻の座は無理な筈だけれど、もしかしたら何か作戦があって、無理矢理レント様と結婚する積もりなのかも知れない。
それはどうなのだろう?コードナ侯爵家は既にレント様と仲が良いから、ミリとレント様が万が一結婚しても、伯父上様は構わないかしら?少なくとも、シロント子爵家所縁の令嬢をレント様の妻にする気は無さそうだし。
スーノは、それなら私が今やるべきなのは、これ以上レント様とシンコク殿が親しくならない様にする事ね、と考えて小さく肯いた。
その為には、私の方がシンコク殿と親しくなれば良いのね。
「シンコク殿?」
「ええ、何でしょう?シロント殿」
「わたくしの事はスーノと呼んで下さい」
「え?」
セラムはレントを見る。スーノが他の男の子に家名ではなくて名前呼びを許す事に付いて、レントが許さない事をセラムは思った。
しかしレントはスーノに微笑みを向けている。
微笑みに、本物と作られたものがある事はセラムも知っている。しかしその区別は苦手としていた。
レントの微笑みが本物にセラムには感じる。本当に?そこでセラムは一つ思い付く。自分にはレントの微笑みが見分けられないけれど、スーノなら分かる筈だ。
そう思ってスーノを見るけれど、そのスーノがセラムに向けている微笑みが、レントの作り物の微笑みを感じて綻びを見せているものなのか、それとも本当の微笑みなのか、セラムには分からなかった。
分からないなら仕方ない。
「はい、スーノ殿。私の事もセラムと呼んで下さい」
「はい。ありがとうございます、セラム殿」
「こちらこそ、ありがとうございます」
微笑みを向け合うスーノとセラムを見て、もしかしたらスーノ殿はやはりシンコク殿に好意を感じているのでは?などと思って、レントは少しドキドキしていた。
「それでですね、セラム殿?」
「ええ」
「話が戻りますけれど、シンコク子爵領とシロント子爵領は、どこがどう似ているのですか?」
「え?」
セラムの眉根が寄る。確かに似ているとセラムは思っている。しかし具体的に、比べてみた訳ではない。
「どこがどうと言うか・・・」
「ええ」
セラムに向けて肯きながら、スーノは次の話題を考えていた。実際にはスーノは、シロント子爵領とシンコク子爵領のどこが似ているかには、殆ど興味がない。そこからセラムとの共通の話題が引き出せたら良いとは思っているけれど。
「どこもかしこも全体的に、と言うか、雰囲気が、と言うか」
「領地の大きさも地勢も似ていますし、領民の数や領地収入もそれほど違いがありませんよね?」
「え?」
「そうなのですか?」
首を捻りながらのセラムが困っている様に見えたので、レントは助ける積もりで口を挟んだ。その事にセラムが驚いている事が、レントには可笑しく思えた。レントが口にした理由が原因にあればこそ二領が似ているとセラムが言っているのかと思っていたからだ。
そしてスーノは、セラムとレントを会話させない積もりで出した話題なのに、レントの口にした内容に驚いてしまって、次の話題探しを忘れてしまう。
驚いた様子の二人にレントは、笑いを微笑みに留めて二人に肯いた。
「ええ」
「しかし、レント様?シロント子爵領とシンコク子爵領とでは、成り立ちが違った筈です」
「成り立ち?そうなのですか?スーノ殿?コーカデス卿?」
成り立ちが何を指すのか、セラムにはボンヤリとしか意識出来ない。そのセラムの問いにどう答えようかとレントは考えたが、スーノは間を開けずに肯いた。
「ええ、セラム殿。シロント石は神殿建築に使われます。国内への神殿の普及と共に、シロント子爵領は栄えて来たのです」
「それは知っていますが」
セラムの眉根が寄るけれど、スーノはそれに気付かない。
「そして厳かな神殿のあり方に感動を覚えた敬虔な神殿信徒達が、祈りを向ける対象として、シロント石で神像を作る事を望みました。シロント石は人々の信仰心を以て広まり、シロント子爵領は信仰心を以て栄えたのです」
セラムの様子に気付かぬままそう語るスーノに、レントの眉尻と口角が僅かに下がる。スーノがセラムに好意があるのなら、今の話は言い回しに気を付けた方が良かったのではないかとレントは感じていた。




