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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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セラムとスーノとレント

 レントは学院の車寄せから馬車に乗り、学院の目の前の小さな邸まで移動する。その後をセラム・シンコクの乗る馬車が付いていった。


「付いていくと言う程の距離ではありませんね。本当に目の前だ」

「ええ。馬車に乗る程の距離ではないのですけれど、仕方なく」

「コーカデス閣下は、今はこちらに住んでいるのですか?」

「いいえ。こちらはコーカデス商会の事務所として使っていまして、わたくしはコードナ侯爵邸の離れをお借りして暮らしています」

「そうなのですね。コーカデス子爵邸は、石材置き場になっていますものね」

「ええ」


 レントはセラムの言葉に苦笑しながら、スーノ・シロントへの遣いを出す指示を使用人にする。

 レントはスーノにセラムの同席の許可が欲しい事と、貴族らしい服装で向かう事を伝えさせる。いつもは平民衣装でスーノと会っているのだけれど、今日はセラムの格好に合わせなければならない。

 レントはセラムを待たせて乗馬服に着替えた。


「え?コーカデス閣下はその格好で行くのですか?」

「ええ。わたくしは馬に乗って行きます」

「馬車ではなく?」

「ええ」

「それでしたら私の馬車に同乗なさいませんか?」

「ありがとうございます。しかし都合がありますので」

「・・・そうですか」


 不思議そうな顔をするセラムに、レントは微笑みを向けて押し切る事にする。馬車が苦手な事を隠している訳ではないけれど、わざわざ口にする必要はないとレントは思っていた。


「では参りましょうか」


 スーノからの返事はまだだけれど、レントはセラムと一緒にシロント子爵邸に向かう事にする。セラムの同席をスーノが断って来たら、レントはそのままセラムと二人でお茶を飲む事にした。貴族の格好で(はい)られる店も既にスーノに連れて行って貰った事があり、レントはそこを使わせてもらう積もりだ。


 シロント子爵邸に向かう途中で、レントがスーノに遣わした使用人と行き会う。

 スーノからはセラムの同席に賛成する事と、訪れる店を変える手配をした事が伝えられた。新たに手配された店はレントが、スーノが来なければセラムを連れて行こうとしていた店だ。

 レントは行き先をシロント子爵邸から変更し、セラムの馬車を先導しながらスーノが伝えて来た店に向かった。



 レントとセラムが店に着くと、セラムが馬車から降りて直ぐに別の馬車が店先に着いた。レントはその馬車に近付き、降車して来るスーノをエスコートする。レントは馬車がシロント子爵家の物だと気付いていた。

 学院の登下校でも馬車を使っているけれど、スーノは乗り降りをエスコートされた事がなかった。その馬車には従兄弟のマッシ・シロントも同乗していたりするにも関わらずだ。

 それなのでスーノは慣れない事自体に戸惑い照れながらレントに指先を預けるが、それを見るセラムは生温かい目をしていた。

 レントはセラムの表情の意味を察したけれど、それを無視して言葉を掛ける。


「お二人は面識があるのですよね?」

「はい」

「何度か」

「お久しぶりです、シロント殿」

「ええ。御無沙汰しています、シンコク殿。挨拶は店の中に入ってからに致しましょうか」

「そうですね」


 肯くセラムに肯き返し、スーノはレントに顔を向けた。学院での様子より気取って見えるスーノにレントは微笑みを向ける。


「では参りましょう」


 レントはセラムに向けてそう言うと顔をスーノに戻し、預かったスーノの手を引いた。



 個室に案内をされて店員が下がると、レントは少しニヤニヤしているセラムに顔を向ける。


「お二人とは石材の規格決めの時に始めてお会いしましたね」

「はい」

「・・・そうですね」


 スーノはレントからの連絡で、多少の事情を察していた。しかしレントにエスコートされて照れてしまったので、今もセラムに見られて気恥ずかしい。

 言い訳がしたいのだけれど、スーノは何と言えば良いか分からない。そして言い訳を考えれば考えるほど、何故か更に恥ずかしい気持ちが強くはなっていた。

 そのスーノのいつもと違う様子を見て、レントはスーノの気持ちを勘違いする。気を利かせた積もりのエスコートは、余計なお世話でしかなかったのかも知れない。


「お二人は以前から親しかったのですか?」

「え?いいえ」


 セラムが否定するので、レントは自分の質問が失敗だったと感じた。ここまでのセラムの様子から、セラムはスーノの事を意識していない事は分かる。それなのでセラムが否定する事は想像出来た筈だ。

 一方でセラムは、レントに勘違いをさせてはいけないと思って、否定の返事に力を込めた。


「親しくはありません。知ってはいましたけれど。ねえ?シロント殿?」

「ええ。家同士の繋がりがありますので、シンコク子爵家とは往き来がありますけれど、セラム・シンコク殿はあまりお見掛けした事はありません」

「私は領地にいる事が多いですから」

「そうなのですか?」

「はい。シロント殿は?」

「わたくしは王都で生まれ育ちましたので」

「そうだったのですか?」

「はい」


 二人の会話の様子から、自分が想像したスーノの気持ちがどうやら間違いだったとレントは気付く。もしかしたらスーノ殿は単に恥ずかしがり屋なのかも知れませんね、とまた正解とはならない事をレントは思った。

 一方でセラムの興味は、レントとスーノの間柄から王都に移っている。


「もしかしてシロント殿は、王都に詳しいですか?」

「え?ええ。それなりには」

「そうなのですか。羨ましい」

「え?そうですか?」

「そうですよ。私はコーカデス閣下を訪ねて、たどり着きませんでしたから。ミリ・コードナ様に地図まで頂いたのに」

「え?そうなのですか?」

「ええ。丁寧な説明までして頂いたのですが、王都の道はどこも同じで分かりません」

「その様な事もないのですけれど」

「いやそれは、知っているからこそ言えるのです」

「確かに生まれた時から王都におりますから多少は知っておりますけれど、それで言えばシンコク殿もシンコク子爵領にはお詳しいのでしょう?」

「領都と採石場なら、確かに迷う事はありませんが」

「わたくしは逆にシロント子爵領に行ったら、道に迷うと思います」

「それはそうですね」


 レントはスーノが謙遜して言っていると思ったので、それをセラムが肯定した事に驚いた。

 だがセラムは言葉を続ける。


「もしかしたら私の方がシロント殿より、シロント子爵領の領都や採石場には詳しいかも知れません」

「え?シンコク殿はシロント子爵領に行った事があるのですか?」

「ええ、一度だけ」


 それで詳しいと言えるのかと思い、レントはセラムの言葉に苦笑を滲ませた。


「シロント子爵領の領都の作りは、シンコク子爵領と似ていました」

「そうなのですか?」

「ええ。今回、コーカデス子爵領も訪ねましたが」

「え?そうなのですか?」

「ええ。ですがコーカデス子爵領や他の領地と、シンコク子爵領とシロント子爵領は違います。もしかしたらシンコク子爵領もシロント子爵領も古くから石材を特産品にしていますので、その事が街の作りに影響しているのかも知れませんね」


 レントもスーノも、セラムの意見に感心をする。


「なるほど」

「そう言う事もあるのですね」

「はい。採石場もそっくりでしたし」

「それは、採石場が似るのは当然なのではありませんか?」

「いや、コーカデス子爵領の採石場は違いますよね?」

「え?そうなのですか?レント様?」


 同意を求めるセラムと問いを掛けるスーノに見詰められて、シンコク子爵領にもシロント子爵領にも行った事のないレントは苦笑を漏らした。

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