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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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開発投資の理由

 ミリが笑いを漏らす様子に、揶揄われているのかと感じながらも、セラム・シンコクは嫌な気はしていなかった。


「しかしコードナ様?」

「ええ。何でしょうか?」

「コードナ様は領地開発に興味があった。しかし利益目当てではない。けれど損は望まない。となるとコーカデス子爵領の開発は、コードナ様に取っては、単なるヒマ潰しと言う事でしょうか?」

「え?」


 セラムの言葉にミリは目を見開く。セラムの側仕えも驚きを仕草に表していた。


「・・・シンコク殿にはわたくしの様子が、暇を持て余しているかの様に映っているのですね?」

「はい」


 セラムに肯かれ、ミリは今度は目を細める。


「わたくしの為す事は、シンコク殿の目には(つたな)く映るかも知れませんが、これでも知恵を絞りながら、事に当たっている積もりなのです」

「ですが、コードナ様は机上で学ぶものはもう無いのですよね?」

「えっ?」

「それなので、ヒマを持て余していたのは、やる事がなかったからなのではありませんか?」


 小首を傾げるセラムに、ミリは眉根を寄せて眉尻を僅かに下げた。


「暇を持て余している訳ではありませんが」

「そうなのですか?」

「ええ」

「しかし、コードナ侯爵領の領政にもコーハナル侯爵領のにも、深くは関わっていないと仰いましたよね?そうではないのですか?」

「それはその通りなのですが、学ぶ事に関しても、まだまだありますし」

「えっ?・・・本当に?」


 セラムが目を細めて眉根を寄せる。しかし何故その様な顔を向けられるのか、ミリには分からなかった。

 学ぶ事がないとはどう言う状況なのだろうか?ミリには想像が付かない。


「・・・本当に、とは?」

「本当にとは、コードナ様は既に学院で習う事を修め終わっていて、領主達を前に税制の説明をする程法律にも詳しいと聞いています」

「それなりの教育は受けましたけれど、学ぶ事がない訳ではありません」

「それに資産も有り余っていて、一生遊んで暮らせるのですよね?」

「それは、確かに、(つま)しく暮らすのであれば働かなくても済むかも知れませんが、遊んで暮らすのであれば、お金はいくらあっても余る事はないのではありませんか?」


 そう口にしてミリは、自分の返しが少しズレている様に感じた。そのズレてしまっていそうな言葉の先をセラムが返す。


「それはこの様に、利益を求めずに資金を際限なく注ぎ込めば、底を突くかも知れませんが」

「待って下さい」

「え?どうなさいました?」

「コーカデス領への投資は利益が目的ではないと言いましたけれど、利益を求めないと言っているのではありません」

「え?そうでしたか?損失をわざわざ出さないとは仰っていましたけれど」

「そうです。利益も計算しながら資金を投入しています。資金が底を突いたりはしませんし、投資の回収もしっかりと計画を立てています。それはわたくしだけではなく、コーカデス商会に投資をして下さっている方達にもちゃんと報告していますし、その方達にもこの投資事業が現実的だと認めて頂けています」

「私も最初はそうだと思っていたのですが、こうやって見学をさせて頂いて、コードナ様の話を聞かせて頂いていると、私が想像していた以上の投資が行われている事に気付いたのです」


 いくらくらいだとセラムが思っていたのかミリには分からなかったけれど、セラムが見ておらずミリも話していない水路建設の方が、この港町建設よりは資金が投じられていた。

 しかしその事をセラムに伝えても、話題が散漫になるだけの様にミリには思える。それなのでミリはセラムの言葉を受けるだけにして返した。


「そうですか」

「はい。私はシンコク家が助力すると言いましたけれど、焼け石に水です」


 セラムの言葉に、それは手遅れの時の表現だと思ってミリは苦笑を漏らす。


「御助力頂かなくても大丈夫です。御心配いりません」

「コードナ様」

「ええ。何でしょう?」


 笑みを浮かべながら応えるミリに、セラムは真剣な表情を向けていた。


「事故で不意に亡くなる者もおります」


 唐突な話題にミリの笑みは消える。


「え?何の事ですか?」

「歴史の長いシンコク子爵領でも採石場での事故は起きますし、数年に一度は死者も出ます。採石場に限らず、寿命以外で死ぬ者も多い」


 セラムが何故急に話題を変えたのかは分からないまま、ミリは治療院での経験を思い浮かべながら小さく肯く。


「ええ。事故なり急病なりで命を落とす人はいますね」

「その者達も事故に遭う寸前まで、あるいは病に罹る直前まで、自分が死ぬとは思っていないのです」

「・・・ええ。わたくしもそう思います」

「コードナ様?」

「ええ」

「コーカデス子爵領への投資は、本当に大丈夫なのですか?」


 話題を戻されてミリは、セラムが言いたい事がやっと分かった。


「わたくしの思惑を外れて投資が失敗し、わたくしが損害を受けるのではないかとシンコク殿は心配をして下さっていたのですね」

「私は投資に付いてはまだまだ勉強中ですが、それでもこの規模の開発にかなり多額の費用が掛かっている事は分かります。それこそ一生遊べるどころではない金額ですよね?」

「確かに規模相当の費用は使っています」

「投資とは、投じた資金に利益を上乗せして回収する事を目指すものですよね?」

「え?ええ」

「これ程の規模の投資を回収するとしても、建てたホテルやレストランはコードナ侯爵領に持ち帰れないではありませんか」


 ミリはふっと笑いを漏らす。


「その通りですね。解体して材料を運ぶのでも大変そうです」

「そうでしょう?」

「ですが、わたくしにはその積もりはありません」

「他の利益と相殺するのですか?例えば採石場の開発と抱き合わせるとか?」

「コーカデス商会の収支としてはそうなりますけれど、わたくしはこの港町は港町でしっかりと、投資に見合った利益を上げられると考えています」

「ですからコードナ様?死ぬ直前まで本人は気付いていない事もあるのですよ?」


 ミリがまた笑いを漏らすと、セラムは顔を蹙めた。


「コードナ様。笑い事ではなく」

「ごめんなさい。心配して頂き、ありがとうございます」


 ミリはセラムに頭を下げる。そして顔を上げると微笑みをセラムに向けた。


「シンコク殿が心配して下さるのは、わたくしがまだこの港町を作る目的を伝えていないからの様です」

「目的?利益でもヒマ潰しでもないのでしたね?」

「ええ」

「どの様な目的があるのですか?」


 そう尋ねるセラムに向けて、ミリは真剣な表情で片手の指を二本立てて見せる。


「目的は二つ。一つはコーカデス領の為のもの。もう一つは夫婦の為のものです」


 そう言うとミリはまた、微笑みを浮かべた。

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