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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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コーカデス領の価値

「先程申しました通り、わたくしは領地開発には興味がありました。コードナ侯爵領も縁深いコーハナル侯爵領に付いても、領政に関しては色々と知る事が出来ますが、しかし、口を出せる立場ではありません」


 ミリの言葉にセラム・シンコクは眉根を寄せる。その様子に気付いたミリは、セラムが口を挟む前に言葉を続けた。


「そもそも両領地とも良い施政が続いていて、口を出す必要もありません。意見を尋ねられる事はありましたが、領主や跡継ぎ達が既に持っている答えに補足を加える程度のものです」

「それは、私が聞いていた話とはかなり違います」


 セラムの顔に困惑が現れる。ミリは苦笑を堪えた。


「わたくしはそれなりの教育を受けて参りましたけれど、実務の経験はありません。それですのでわたくしに意見を尋ねるのも、実務に関しての勘所などをわたくしに教える為だろうと考えています」

「それって、実際に起こっている状況を教材にして学ばせると言う事ですか?」

「ええ」

「・・・なるほど」


 小さく肯くセラムに、ミリは微笑みを向ける。


 ミリはセラムとの会話が楽しく感じられて来ていた。

 話をしていても中々話が合わずに擦れ違うが、それはセラムとの視点が合っていないからだ。ミリの言葉に対して、セラムはミリの想定とは異なる受け取り方をする。自分もセラムの発言をセラムの想定とは違う受け取り方をしていそうだ。けれど次の一言、その次の一言と、言葉を遣り取りする程に二人の視線が合って行き、自分の言いたい事も相手が言いたい事も徐々に伝わって行く。

 セラムとの会話ではクイズを解く様な面白さと、理解して貰える喜びをミリは感じていた。


 これがレント相手ではこうは行かない。

 レントとの間では、言葉は通じていても理解できない事がお互いに多い様にミリは感じる。レントの言葉には裏がある様にしか思えないし実際にある場合が多いし、レントと話す時は足を掬われない様に注意しなければならないので、気は抜けないし疲労が溜まる。

 一方でセラムとの会話では、言っている事が通じた時の達成感や爽快感が感じられる。その一つ一つは大したものではないとしても、会話を楽しむのには充分だった。


 微笑みながらミリは話を続ける。


「一方でコーカデス卿は、領地の開発をわたくしに実際に任せて下さっています」

「え?コーカデス閣下はコードナ様に開発を丸投げしているのですか?」

「その様な事はありません。水路にしろ港にしろコーカデス卿のアイデアを元にしていますし、わたくしが実務を行うにしても、前以て計画はコーカデス卿から承認を得ています」

「そうなのですか?」

「ええ」

「コーカデス閣下が領地を離れて王都にいると聞いてから、何もかもコードナ様に任せているのかと思いました」

「任せて頂いている部分もありますが、こまめに連絡は取っていますし、領都には領主代理や当主代理の方もいらっしゃったりしますので、何もかもなどと言う事はありません。王都にいるのは学院に入学したからですし」

「そうなのですね」

「ええ。わたくしでは全ての責任を負いきれませんし、わたくしが負えない所はしっかりとコーカデス卿達が抑えていらっしゃいます」

「・・・それは、つまり、コードナ様が万が一、コーカデス子爵領の息の根を止めようとしても、簡単には行かないと言う事ですね?」


 再び物騒な事を真面目な表情で小声で囁くセラムに、ミリは「ふふっ」と小さく笑いを漏らした。


「ええ、出来ません」

「そう、ですか」

「ちなみに、その様な積もりもありませんので、念の為にお伝えしておきますね?」

「そうなのですか?」

「ええ」

「それなら良かった」


 ほっと息を吐きながら微笑み返すセラムに、少し意地悪な気持ちを感じながらミリは小首を傾げる。


「良かった、ですか?」

「え?あ、はい」

「それは、どう言う意味なのでしょう?」

「え?あの、大した意味では」

「シンコク子爵領の事を考えると、これまで気にもしなかったコーカデス領が石材の提供を始めた事は、邪魔に思うのではありませんか?」

「・・・正直なところ、そう思わなくもありませんが」

「それなのでわたくしがコーカデス領の息の根を止めるのか、確認したのではないのですか?」

「え?・・・いえいえ違います!」

「本当に?」

「本当です!」

「では、何が良かったのですか?」

「あっ、いや・・・」

「・・・いや?」

「あっ、いや・・・もし、コードナ様がコーカデス子爵領の息の根を止めようとしているのなら、それを知ったシンコク子爵家も騒ぎに巻き込まれるかと思って」

「巻き込まれなさそうなので良かったと?」

「その・・・はい」

「大丈夫です。そもそもその様な騒ぎは起こりません」

「分かりました。安心しました」


 そう言ってセラムは軽く頭を下げた。そのセラムにミリは微笑みを向ける。


「それにシンコク子爵家の利益になるように、わたくしを利用しようとしても駄目ですよ?」

「え?コードナ様を利用ですか?」

「ええ。わたくしはコーカデス領にかなりの投資をしています」

「え?はい。ですがそれは、利益目的ではないのですよね?」

「ええ。ですがそうは言っても、わざわざ損失を出す気はありません」

「え?ええ。コードナ様はそうだとは思っていますが?」

「コーカデス領に損失が発生すれば、それはわたくしの損失になります。ですのでわたくしは、コーカデス領に損失を与えそうな事柄があればそれに対処しますし、気付いた時点で芽を摘みに動きます」

「・・・もしかしてそれは、ちょっかいを出すなと言う、私への警告ですか?」

「そう言う積もりではありませんけれど、もしちょっかいを出す事を考えるのであれば、その時は覚悟をしておいて下さいね?」

「・・・はい、あっ?!いえ!出しませんので!」


 慌てるセラムに、ミリはまた笑いを漏らした。

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