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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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侯爵領で起きている問題への子爵領での対処

 セラム・シンコクには、ミリからの情報は驚きだった。


「コードナ侯爵領でもコーハナル侯爵領でも、解決は出来ないのですか?」

「ええ」

「本当に?」

「領民の不満を完全になくす事は、どの領地でも無理ではないでしょうか?」

「いえ、でも、コードナ侯爵領もコーハナル侯爵領も、平民からの評価は高かったのではありませんか?」

「暮らす場所としては選ばれているでしょう。しかし、だからと言って不満がない訳ではありません」

「しかし」

「他の人でも出来る仕事であれば、その人に仕事を奪われるかも知れません。それはストレスになります。そして仕事を奪われない為に、安い賃金で我慢しなければならないかも知れません。雇う側にしても、ライバル業者が安く人を雇って安く仕事を請け負うのであれば、それに対抗して行く必要があります」

「でも、仕事自体はたくさんあるのではありませんか?」

「他領から来て直ぐに就ける仕事の種類は限られます。そしてその仕事にそれまで就いている人ももちろんいるのです。仕事を奪われる不安から、新参者を追いやろうとする事はありますし、古参の人には他の領民との繋がりもありますから、仕事を奪われる心配のない人も友人や知人を擁護して、新参の人と対立する立場に立つ事もあります」

「それは我が領も同じですけれど、そもそも仕事があるのですから、他の仕事に就く事も出来る筈です」

「仕事を失っても直ぐに次の仕事が見付かる場合も多いのですが、それでも新参の人達に追い出された、負けたと受け取ってしまうのです」

「それは、でも、考え方ではないでしょうか?」

「実際に前職より所得が下がるケースが多く、本人もそうですが、家族もそう思ってしまいますし、周囲もそう感じてしまうものです」

「・・・シンコク子爵領では、そこまでの話を聞いた事がありません」

「コードナ侯爵領もコーハナル侯爵領も新しく領民になる人数は多いですし、トラブルの数は人数の比率にではなく、人数そのものに比例します。そしてトラブルが一つ起これば、それが対立の種になります。対立が次々に発生すれば、トラブルがない場所でも対立自体がトラブルを生みます」

「・・・それには、どの様に対処をしているのですか?」

「警備兵を増やしていますので、暴動などは起こらないと思います。ですが根本的な解決は出来てはいません」

「・・・根本的な解決策はないのでしょうか?」

「他領から人が入って来なくても、職や居場所が奪われたと感じる事はあります。それを新参者と言う括り易い相手の所為にしているだけなのですから、根本的な解決をする為には、領民に一切の不満を抱かせない様にするしかないでしょう」

「・・・それは、可能なのでしょうか?」

「・・・不可能かも知れません。少なくともわたくしには不可能に思えます」

「・・・それはこのコーカデス子爵領でも起きているのですか?」

「・・・起きてはいると思います」

「・・・解決策は、ないのですね」

「解決は出来ませんが、対策は打てます」

「え?それはどの様なものですか?」

「コーカデス子爵領の開発は、コーカデス商会が全面的に(おこな)っています。そしてコーカデス商会では従業員を随時募集しています」

「え?え~と?それが対策なのですか?」

「従業員になれば、職務に応じた賃金が支払われます。同じ仕事をしているのなら、同じ給与です」

「なるほど?」

「コーカデス領に元からいた人でも新しく来た人でも、雇用条件は同じですし、不採用にする事は滅多にありません」

「でもそれなら不採用にされた者達は、かなりの不満を抱くのではありませんか?なぜ私だけ、などと考えたなら、不満は大きくなりそうです」

「その不満の多くはコーカデス商会に対してです。領民同士の対立には繋がりません」

「コーカデス商会に採用された人と不採用になった人との間では、対立が生まれるのではありませんか?」

「採用された方には対立をする理由がありません。新旧領民が対立した場合には、お互いが職や居場所や将来に関して不安を感じているから厄介なのです。同じ物を求め合うから対立になるのです」

「コーカデス商会の従業員は、不採用になった者達を相手にしないと?」

「コーカデス商会は正当な理由もなしに従業員を解雇しません。従業員とその家族の将来を守る事を採用時に約束しています。コーカデス商会を最初から敵視していたり、コーカデス商会に不採用になって恨みを抱く人もいますけれど、従業員達の安全を守れている限りは、コーカデス商会の従業員達がそれらの敵対者の存在を意識する事はないのです」

「その者達に悪役にされたままで良いと言うのですか?」

「不満や不安は中々なくせないものです。誰かを悪役にする事で、自分自身を悪役にしなくて済むのであれば、それで心は多少は安定します」

「安定するのですか?」

「します。コーカデス商会の悪口を言えば、少しは気が晴れるでしょうし」

「・・・それが王都での様に、暴動に繋がる事はありませんか?」

「信仰と結び付けば分かりませんけれど、コーカデス商会の従業員の中には神殿の信徒もいますので」

「・・・信徒もいるから大丈夫だと?」

「少なくとも、信仰を理由には出来ないでしょう。宗派が分かれたりすれば分かりませんけれど」


 セラムは今一つ納得は出来ていなかった。ミリの言葉が、神殿の信徒さえどうにかすれば暴動は起きないと言っている様に受け取れて、そこに反発も感じる。しかし、ミリに言い返す言葉が、セラムには思い付かなかった。


 ミリはセラムが意見を返すかと待っていたけれど、中々その様子を見せないので、話を戻す事にする。

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