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決着の時

「なあ勇者よ、我ら魔物と人間の違いは何だと思う?」


 勇者は我のことを深く知らないため、今なら深みのある知的な魔王ムーブが出来ると考え、それっぽいことを言ってみる。


「同じ言語を操り、文明も築く。魔王軍のように集団で国家のようなものを運営することも可能だ」

「何が言いたい」


 我の発言にツッコむ奴がおらんのはいいな、好き放題言える。だって、これ全部レイスの奴が持論として語ってたやつだし。


「つまりだ。人間と魔物は何も変わらない。であれば、我ら魔物が人間に取って代わり、世界を統べても問題ないだろう?」

「ふざけるな! お前たち魔物は人間を襲う! 醜くて凶暴なただの獣だ! 人間と同じにするな!」


 勇者が我の言葉に激昂する。今すぐにでも襲いかかってきそうな剣幕だ。


「それは人間も同じだろう。人間だって魔物を襲う。どちらが先だなんて言いはしないが、人間と魔物は同じだ。ならば、魔物にとって理想の世界を作るため、滅ぼされても文句は言えまい」

「ふざけるな! お前らみたいな野蛮な獣に理想の世界は作れない!」


 知的な魔王ムーブはこれぐらいにしておくか。この勇者反応は良いんだが、言うことがちょっとなぁ……。我でもそれはどうなんだって思うような事しか言わないし、あんまり会話が噛み合ってる感じがしないんだよなぁ。


「と、いうのは建前だ。本音は……」


 勇者に語りかけながら、全力で殴りかかる。勇者はこの突然の攻撃に対して、咄嗟に大剣の腹で防御をした。受け止められても気にすることなく、そのまま勢いに任せて拳を振り抜く。拳にビリビリとした感触が残り、勇者は数メートル後ろへ押し飛ばされる。


「我が世界の頂点に君臨したいからだ! 世界の全てを我の思うがままに!」


 まあ、実際世界征服が完了したとしても、世界の全てを思うがままに出来るとは思ってないがな。というか、絶対レイスの奴がさせてくれない。それは目に見えておるわ。


「そんなことさせはしない! お前は僕が倒す!」


 さて、良い感じに戦闘のムードも高まってきたな。さっき殴った感じ、大剣は相当硬かった。鎧も同等の硬度を有していると考えていいだろう。万全の状態ならともかく、二度も浄化されて退魔効果で弱体化させられた今の我に破壊は難しいだろうな。なら、まずは小手調べだな。


「メテオ」


 我が魔法を発動させると、上空から凄まじい音が聞こえてくる。玉座の間の天井を突き破って現れたそれは、巨大な隕石だ。


「今イクリプスの力を使う訳にはいかないぜ! 覚悟決めろよツルギ!」

「分かっているさ! ヴァルキリー!」


 勇者は自身の鎧と言葉を交わすと、落ちてくる隕石の正面に立つ。そして衝突するタイミングで、大上段から全力の振り下ろしを隕石に叩き込む。我の魔法で生み出した隕石だ、そう簡単に斬れる物ではない。それでも、勇者は隕石を二つに斬り、直撃を免れた。隕石が床に落ちると、爆音と共に激しい震動が起こる。

 メテオを防いだのはさすがといったところか。だが、息をつく暇は与えない。


「ディメンションスラッシュ」


 我が手を振るうと、その軌道をなぞるように不可視の斬撃が飛ぶ。この魔法は空間すらも切り裂く斬撃魔法。今までこれを食らって生き残れた者はいない。

 斬撃の直撃を受けた鎧から、金属の削れる甲高い音が響く。魔法が命中した箇所は形が歪み、削れた金属片がキラキラと輝きながら宙を舞う。


「俺に傷をつけるなんてやばい魔法だな」


 鎧がそんなことを言っているが、生きているだけで奇跡の様なものだ。我が全快だったならば、鎧ごと体を両断されていただろう。

 魔法を撃った感じ、出力が一割程度にまで落ちているな。あの鎧の硬度を考えると、魔法で致命傷を与えるのは難しいか。それにこの感じだと、回復魔法の効力もあまり期待できそうにないな。なるべく傷は作らないように動くか。


「次は接近戦だな」


 我はそう言うと、自身の陰から二本の大剣を取り出す。勇者の持つ純白の大剣とは真反対の黒く禍々しい大剣だ。ちなみに、陰から取り出す時に使ったのはただの空間魔法である。別に、陰からじゃないと取り出せないみたいな制約は無く、中空だろうと好きな場所から取り出せる。陰から取り出したように見せたのは、そっちの方がカッコいいからだ。


「斬り合いなら、負けはしない!」


 相変わらず威勢はいいな。我相手にどこまでやれるか見せて貰おうか。

 お互いの大剣で打ち合い、剣と剣が衝突した場所では金属音が鳴り火花が散る。腕力・手数・技量・剣の性能、全てにおいて勇者よりも我の方が上回っている。事実、勇者の剣は一度も我に届くことがなく、我の剣は何度も鎧に命中している。

 だが、手傷を負わせることが出来ない。あの鎧、あまりにも硬すぎる。それに、我の身体能力も二割ほどにまで低下しているようだ。今の我は純粋な身体能力だけなら、レイスやモートンの奴に劣るかも知れない。唯一無防備に露出している頭を狙いたいが、そこへの攻撃だけはなんとしても防がれるため、結局ダメージを通すことが出来ないでいる。

 まいったな、どの攻撃も決定打に欠ける。思ってたより苦戦するかもな。まあいい、次の手を試すか。

 剣と剣がぶつかり合った瞬間、我は全力の力を込めて剣を弾く。勇者の剣を弾くことに成功するが、無理矢理弾いたために我の剣も弾き飛ばされる。だが、それでいい。我は自身の剣から手を離し、体勢が崩れている勇者の腕を掴む。そのまま勢いをつけて、勇者を地面に叩きつける。その際に反撃を受け、肩を少し斬られたがこの程度何の問題もない。


「ぐうっ!」


 床に叩きつけられた勇者が、苦しそうな声をあげる。やはり激しい衝撃は吸収しきれないようだな。


「まだ終わらんぞ!」


 今度は勇者を空中に投げ飛ばす。そして、それ以上の速度で動き先回りをする。両の拳を合わせて握りしめ、上から下へと思い切り振り抜く。腹部に拳が命中した勇者はそのままの勢いで吹き飛び、再び床に叩きつけられる。

 我が着地した時には、すでに立ち上がり剣を構えていた。だが、呼吸は荒く肩で息をしているし、頭部からは少なくない量の血が流れている。かなりのダメージを与えることに成功したようだ。


「やばいぜ、ツルギ。どうするよ」

「確実に当てられる状況で使いたかったけど、仕方ない。イクリプスの力を使って、次の一撃で決める」


 ほう、次が本気の一撃ということか。いいだろう。それすらもねじ伏せ、我が勝つ。


「はあっ!」


 勇者が叫ぶと純白の大剣が淡い光を放つ。とてつもないエネルギーを秘めていることが、一目見ただけで分かる。

 確かにあれの直撃を食らったら、さすがの我も危ないかもな。

 一度手放した大剣を手元に引き寄せ、勇者の一撃に備える。勇者は剣を横に薙ぎ払うようにして、我の体に斬りかかる。我はそれを二本の大剣で受け止める。

 先程打ち合っていた際には我の方が優勢だったが、力を解放した大剣の力は凄まじく、我の剣が押され始める。このまま受け止めるのは危険と判断し、剣を捨て後ろに下がる。勇者は我に追い打ちをかけるように距離を詰めてくる。

 その時、足元に巨大な魔方陣が浮かび上がる。

 なんだこれは? あ、あれか、魔力の無い空間を作るとかいう魔道具が発動したのか。なら我の勝ちだな。鎧が自立して動きをサポート出来なくなるなら、さっきまでようにキレのある動きは出来なくなるはずだ。

 我に接近した勇者は、上段から剣を振り下ろす。

 ただまあ、この状態の剣は危険だしな。鎧としてた会話からして長続きはしないみたいだし、効果切れるまで距離を取っておくか。とりあえず転移魔法を発動させて……やべ、今魔法使えないんだった。手癖で魔法を使おうとしておったわ。

 我がそんなことをしているうちに、剣は眼前まで迫っていた。いくらなんでも直撃は死にかねないため、苦し紛れに両手で刃を掴む。だが、さすがに止めきれず、大剣は我の手を裂きながら頭部に迫ってくる。

 やばい、やばい、やばい! こうなったら仕方ない、第二形態を使う!

 我は魔王のお約束の例に漏れず、第二形態を有している。第二形態になった我は、体が今よりも一回り大きくなり肩から更に二本の腕が生える。あとついでに第三の目が開眼したり、角が豪華になったり、口からなんかカッコいいビームが撃てるようになったりする。

 とにかく急いで第二形態に移ろうとするが、なぜか形態変化が起こらない。

 なぜだ!? もう長いこと形態変化してなかったから出来なくなっちゃったのか!?

 様々な可能性に思考を巡らせ、一つの単純な答えに辿り着く。

 我の形態変化、魔力使うわ。


「勇者よ! ちょっとタンマ! まじで!」


 我は必死に叫ぶが、当然聞き入れて貰える訳がなく、勇者はそのまま剣を振り下ろし、我の体を斬り裂いた。



 ======================



「ぐわああぁぁ!!」


 僕の剣が魔王の体を両断し、魔王は断末魔をあげながら倒れる。


「やったか!?」


 そんな僕の声に反応したかのように、魔王の体に異変が起こる。魔王の体から黒い光が溢れ出し、その身を包み込む。光が収まった時、そこに魔王の体はなく、水晶玉ほどの大きさの紫色の球体が転がっていた。


「ヴァルキリー、これ何だと思う?」


 僕は自身の相棒とも呼べる鎧に、いつものように話しかけるが返事が返ってこない。今までこんなことは一度もなかったのだが、激しい戦闘の影響で休息でも取っているのだろうか。


「まあ、壊しておくのが無難か」


 そう思い、やたらと重く感じられる体を動かし、剣を振り上げる。背後の扉の開く音が聞こえたのは、その時だった。ケインさんたちがあの二人を倒して、援護に駆けつけてくれたのだろう。だが、後ろを振り返ったときそこにいたのは、スーツを着た一人の男だった。


「魔王様? まさか負けたのですか……?」


 全身が危険信号を発する。この男は危険だと警鐘を鳴らす。行動を間違えれば、数秒後には命を落とすことになると。

 相手の行動を認識してからでは間に合わないと思い、咄嗟に防御行動を取る。だが、それよりも早く後頭部に強い衝撃が走り、前のめりに倒されてしまう。この男速すぎる。動きを視認することがまったく出来なかった。下手をすれば、さっき戦った魔王よりも速い。

 なんとか起き上がって反撃をしようとするも、立ち上がるよりも早く顔を蹴り上げられる。さらに、追い打ちをかけるように剣の腹で殴打される。

 ヴァルキリーの守りを破れないからだろうが、剥き出しの頭部を集中的に攻撃される。魔王との戦いでの負傷も相まって、意識が朦朧(もうろう)としてきた。さっきからなぜかヴァルキリーも動いてくれない。


「魔王様があなたごときに後れを取るとは思えません。なにかイレギュラーな事態があったのでしょう」


 ぼーっとする頭で、かろうじて男の言葉を聞き取る。

 そうだ、僕は魔王を倒したんだ。これで世界は救われる。勇者としての役目は果たせたんだ。


「あなたは勇者たり得ません。あなたに人間は救えませんよ」


 消えかける意識の中で聞いた言葉は、僕の行い全てを否定するようなものだった。

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