第29話 本選第3回戦
俺の知っている技が相手の最後の技だったようで、何とか勝てた第2回戦だった。
「おめでとう、ファルター」
「おめでとうございます」
「おめでとう、すごいよね、お兄さん」
「さすが、愛美ちゃんのお兄ちゃんって感じだね」
「ああ、アブかったけどな」
「確かに危なかったよね。でも、あの人の最後の技があれでよかったね」
「まったくだよ、ほんとな」
「どういうこと」
フィーナがそう尋ねてきたが、考えてみればフィーナが知らなくて当然だった。
何せ、あの技は男型の技ではあるが、継承の儀を受けたものしか知らない技だ。
「ああ、あれは、俺たちの先祖が開発した技なんだよ」
「えっ、でも私、知らないよ」
「あれ、フィーナ様ってその末裔なんですよね」
「うん、そうよ」
「フィーナが知らなくて当然だよ。あれは上森の男型の技だけど、継承の儀を受けたものだけが教わるものなんだ」
「えっと、それって?」
「つまり、フィーナの先祖である勇者、浩平は継承の儀を受ける前にこの世界に転移した。だから、浩平自身がこの技を知らないんだよ」
「ああ、なるほど、だから、フィーナ様は知らなかったんですね」
「そういうこと」
「えっ、ちょっと待ってそれじゃ、私たち勇者一族の技って」
まぁ、フィーナが不思議に思うのも無理はないだろうな。
「上森の継承は、まず基本技を習う、それを覚えると継承の儀を受けるんだ。それで、そのあと基本技をもとに先祖たちが編み出した技を習得していって、そこでようやく免許皆伝となるんだ」
「お兄ちゃんは12歳の時その2つをとっているのよ」
「へぇ、すごいんだね」
ポルティも感心しているし、なぜか愛美が得意げだが、その通り俺は12で免許皆伝にまで至っている。
それが、天才といわれた所以だった。
「といっても今はほとんど使えないけどな」
「そうなんですか?」
「ああ、まぁ、強化魔法を使って身体能力を上げればなんとかできるんだけど、この武術大会では魔法が使えないからな無理ってわけだ」
「それじゃ、かなり不利なんじゃ」
「そうだな。そもそも魔法使いだしな」
「……ねぇ、ファルター」
「なんだ」
「もしかしたらなんだけど、私と強化魔法ありで勝負するときも使ってないよね」
「んっ、ああ、確かに、あまり使わないな」
「どうして?」
「簡単に言えば、文字通りほとんどが必殺技だからだよ。訓練で使うものじゃないからな。それに、言っておくがフィーナ、勇者一族って8000年続いているだろ」
「ええ」
「上森は約4000年、本格的に技を極めだしたのは2000年ぐらいなんだ。そっちの方が圧倒的に長い、だから、フィーナも俺の知らない技を結構使っているぞ」
「そうなの」
「ああ、まぁ、たまたま、あの技を作るやつがそっちの先祖の中にいなかったというだけだろ」
俺はそう言ったが、本音だった。
というかむしろ俺の知らない技の方が多そうだ。
「なるほどね、納得したわ」
「そうか」
「まぁ、とりあえず、フィーナは明日試合だろ」
「ええ」
次の日はフィーナの試合、といってもフィーナは相変わらず強い、俺ならかなり苦戦しそうなやつが相手だというのに結構あっさりと勝ってしまった。
「……」
「……す、すごいね」
「すごい」
「強すぎ」
「フィーナさんって前世のお兄ちゃんを越えてない」
「俺もそう思う」
とまぁ、そんな感じで俺たちは2人とも第2回戦を突破した。
そんな日から2日後、今度は第3回戦が行われる。ちなみに俺の試合は午前最後で、フィーナが午後、中ごろの試合となっている。
その日も俺はフィーナたちに激励されながら武舞台に上がった。
「おおー」
俺が上がったとたん急に会場が盛り上がった。
なんでも、魔法使いである俺がここまで上がったことが奇跡ということで、俺の人気が上がっているというとをサーラから聞いた。
まぁ、人気があるのはいいけど、負けにくい。
「すごい人気ね」
すると今日の対戦相手も武舞台に上がってきた。
今日の相手は女、小柄でかなり身が軽そうだ。
「そっちも人気ありそうだけど」
そう、俺の相手もかなりのファンが付いているようだった。
「あんたよりは少なそうだけど」
「そうか」
ざっと見ても同じくらいにしか見えない。
「はじめ」
そんなやり取りをしていると試合が始まった。
「あたしは魔法使いだからって油断しないよ」
そういって、カラナが一気に突っ込んできた。
「速っ」
その速度は鍛えぬいた動体視力でようやく見える程度だった。
多分、会場のほどんどのやつらが残像しか見えていないと思う。
キンッ
カラナがナイフを突き刺してきたので俺は何とか腰からぶら下げた魔法の袋から刀を取り出しそれを防いだ。
「ふぅ、あぶねぇ」
「へぇ、今のを防ぐんだ、ていうかそれ、どこから出したわけ」
俺が突然刀を出したことで驚いてくれているようだった。
そう、俺はこの戦いでも刀を使う予定はなかったので魔法の袋にしまっていた。
ちなみにこの袋は魔法を使っているわけではないので反則にはならない。
「特殊な袋を持っているんでね」
「へぇ、ほしいねぇ、それ」
そういって再び突っ込んできたが今度は魔法の袋を狙ってきた。
そして、盗まれた。
「これがその袋か、ほかには何が入っているのかなぁ。……あれ」
「無駄だぞ、それ魔力認証がかかっているから俺にしか使えない」
「なんだ、つまんない」
「というわけで返してもらうぜ」
そういって今度は俺が素早く動いた。
「えっ、なっ」
「素早さが売りみたいだけど、俺も負けてないだろ」
そういって、俺は手に魔法の袋を持っていた。
つまり盗み返したわけだ。
「へぇ、ちょっとはやるみたいだね」
その後はお互いに素早さの応酬だった。
といっても俺にとってはかなりきつい、これもまた才能の差でカラナが有利となっていた。
「このままじゃ、じり貧か、さっさとけりつけるか」
そうつぶやいてから刀を袋にしまい、徒手空拳の構えをとった。
「もう剣はおしまい」
「そんなところだ」
「それで防げるのかな」
そういってまた突っ込んできたところを、何とかよけて、カラナが踏ん張った瞬間に足を払い、こけそうになった腕をつかみ一本背負いの要領で投げた。
「ごふっ」
武舞台にたたきつけられた方となったカラナはその衝撃を受けて気を失った。
「これで終わりだな」
「カラナ選手気絶による戦闘続行不可能とします。またまたファルター選手の勝利だー」
「ふぅ、ちょっとやりすぎたか、なぁ、司会の姉ちゃん」
俺は司会を呼んだ。
「なんでしょうか」
「カラナに回復魔法かけてもいいか」
「回復魔法ですか?」
「ああ、たぶん今の衝撃で内蔵傷めているかもしれないからな」
「なるほど、……わかりました、いいですよ、試合は終わっていますから使っても反則にはなりませんから」
「そっか、それじゃ」
俺は簡単な回復魔法をかけた。
すると、魔法使用のセンサーが斬られたいなかったのかものすごい音が鳴り響いた。
ビー、ビー、ビー……
「な、なんだ、この音」
「今鳴っている音は魔法使用の際になる音です、現在、ファルター選手がカラナ選手に回復魔法を使用しているために鳴っているものですので、ご安心ください」
ちなみにこの音のおかげで俺が試合中に魔法を一切使用していないという証明にもなった。