第26話 本選1回戦、再会
マナリズ王国で5年に1度行われる祭典、武術大会。
何とか地区予選を勝ち抜き本選に進んだ俺とフィーナだったが、1回戦当日早朝に突然神様が現れた。
そして、なんと前世の妹、愛美がこの世界に転移してきているというお告げをもらった。
そんなことを試合の当日に聞かされても、俺としては困る一方だ。何せ、試合には出なければいけないし、何より愛美を探さなければならない。
今日必ず会えるといわれても、探さないという選択肢は俺にはなかった。
とはいえ、俺は第1試合、つまり探している暇がなかった。
だからさっさと試合を終わらせて愛美を探しにこうと決意して武舞台に上がったところで、まさかの光景があった。
いや、確かに、よく考えてみればわかることだった。
何せ第1回戦の相手はバナリーズの第2ブロック優勝者。
そして、今日必ず会えるというお告げ。
「そりゃぁ、そうだよな、愛美なら優勝するよなぁ」
そう、今俺の目の前で意気揚々と試合に臨もうとしているのは、見間違えようのない妹愛美だった。
「ファルター選手、どうしました」
すると突然司会から声をかけられた。
「いや、何でもない」
俺は平静を装いつつ武舞台に上がった。
そして、今対峙しているわけだが、愛美の視線は明らかに他人を見る目だ。
いや、まぁ、確かに、今の俺は愛美にとっては他人なんだけど、これはこれでかなりショックだ。
もし、神様のところで受けたフィーナの「誰よあんた」を聞いていなかったら、たぶんショック死していそうなほどだ。
このことだけはゼラギウス様に感謝したい、ともった俺は心の中でゼラギウス様に合掌した。
それにしてもどうするかな、俺は久しぶりに愛美を見た。
愛美は、顔つきは以前のままだが、服装は当然この世界になじむように冒険者風の格好だった。しかし、左右で縛った髪型とそれを縛っているクマのヘアゴムは変わらない。
あれは確か、俺が中学の時の修学旅行で愛美に何を土産にしようか悩んだ挙句、クマが好きだった愛美にと買ったものだった。
そういえばあいつ、あれをあげたときかなり喜んでいたからな。
それ以来、常にといいたくなるぐらい使っている。おかげで愛美のトレードマークとなったほどだ。
「それでは、始めてください」
なんてことを考えているといつの間にか俺たちの紹介が終わり、試合が始まっていた。
すると愛美が突撃してきた。
そういえば愛美はよくこうやって突撃を仕替えられたなぁ。
などと懐かしく思いながらもそれをよけた。
「くっ、このっ」
愛美は俺がよけたことが悔しかったのか、日本語で悪態をついていた。
そうそう、愛美はこうだった。
そんなことまで懐かしい俺だったが、あまり悠長なことはしていられない。
なぜなら、昔と違い、俺は明らかに弱くなっているし、そして、今の一撃で分かったが、愛美はこの1か月でかなり腕を上げているようだった。
おかげでかなり危ない。
俺は意識を集中し愛美と対峙した。
そして、数合、愛美と戦った。
「ほんと、強くなったなぁ」
俺は小さくそうつぶやいた。
さてと、となるとやばいよなぁ。
そう、愛美が強くなっていることでかなりやばくなっていた。
いわゆるじり貧というわけだ。
仕方ない、あまり使いたくなかったけど、あれを使うしかないか。
俺は1つため息をつきながら最終手段をとることにした。
本当は妹相手に使いたくない、何せ、これは愛美の癖を使った、ある意味で卑怯な手だからだ。
しかし、兄貴としてのプライドで妹に負けるわけにもいかないし、何より俺が負けたとして、俺がお前の兄貴だと名乗り出ても信じてもらえないと思うし、まぁ、ある意味いい機会だと思うことにする。
そのくせは俺が以前から直せと言っていたものだ。でも、まぁ、その癖を知ったからといってそれをつくことができたのは俺しかいなかった。
俺の師匠である親父も、愛美の師匠であるおばさんもできなかったことだ。
だから、ここで圧倒的に弱いはずの俺がそこを突くことで勝利すれば、戒めとなる。
そう思うことにした。
そして、俺はその考えに至った後すぐに技を構成する。
実はこの時の頭脳は前世のまま、今の俺でも前世と同様に使えるというありがたさだ。
だからこそ俺は今現在の俺と愛美の力と愛美の癖などを考慮して、その問題の癖が出る技を出させるように仕掛けることにした。
そして、愛美は俺の予想したとおりにその技を出そうとしている。
いまだな。
俺はそう思うと同時に動いていた。
「えっ!」
俺が突然懐に入り込んできたから愛美は驚いているだろう。
しかし、俺は心を鬼にしてそのまま愛美を場外に投げ飛ばした。
「え、えっと、場外、ファルター選手の勝利です」
何とか俺が勝ちをとることができたようだ。
「ふぅ、やっと、終わったか」
永遠と思われた戦いが今ようやく終わった。
あとは、愛美に兄だと名乗るだけだな。
さて、どうしたものかな。
そんなことを考えながら俺は手早く武舞台から降りて、出入り口に向かった。
「急がないとな」
俺は急いで、反対の出入り口、つまり愛美が出て行ったあたりを目指して、一気に走り抜けた。
反対側につくと愛美が2人の魔法使いの女の子に励まされていた。
「まさか、マナミが負けるなんて」
「うん、いくら、ファルター様でも、勝てるとは思わなかったよね」
「そうだよ、マナミ……どうかした」
「う、うん、なんか引っかかってて」
「引っかかる、何が」
「あっ」
そこでようやく1人は俺の存在に気が付いた。
「あなたは」
「ファルター様!」
「な、何か用」
愛美が冷たくあしらってきた。ほんとにショック死しそうだ。
しかし、ここでくじけてはいられない。
俺は気合を入れて話しかけた。
「よう、最後のあの技」
俺はどう声を変えようと考えた挙句、いつものように説教から始めようかという結論に至った。
「放つときにわずかにひじが下がる。その時にスキが生じるから、直しておけと、何度も言っておいただろ」
昔のように兄貴の威厳を見せつけながら。
「しかし、まぁ、今回はそれで助かったわけだが」
少し情けないが事実だ。
「この世界にきて1か月だっけ」
ここからは日本語で……
「腕を上げたな、愛美」
最後は微笑みを添えて言った。
それを聞いていた愛美は驚愕し目を最大にまで見開き、うわごとのように言った。
「ま、まさか、まさか、うそ、でしょ、まさか、お、お兄、ちゃん、なの」
そう着てきたから俺は再び微笑みながら言った。
「こんな姿だけどな」
そう答えた瞬間、愛美はぽろぽろと涙を流しながら、俺に突進してきた。
俺はそれを受け止めた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい」
愛美は泣きながら俺に謝ってきた。
多分、俺が愛美を助けるためにはねられて死んだことだろう。
「……愛美、気にするな」
だから俺はこういった。
「でも、でも……お兄ちゃんが……」
「ああ、そうだな、でもな、愛美、俺はお前の兄貴だ。妹を守るのは兄貴の務め。当たり前のことなんだ。だから、お前が気にすることはないんだよ」
俺は精いっぱいのやさしさを込めて言った。
「でも……」
それでも愛美は謝ろうとしてきた。
「俺はな、あの後、この世界に転生して、結構楽しく生きているんだ。それに、謝るとしたら俺の方だ」
「えっ?」
「俺は兄貴失格だ。妹にお前にこんな思いをさせちまったんだからな」
俺は指で愛美の涙を拭きながらこう言った。
「そんなこと、ない、お兄ちゃんは、私の自慢だもん」
「そうか、それならよかったけどな」
「うん」
ようやく愛美が笑顔を見せてくれた。
「えっと、その、マナミ?」
そんな俺たちの様子を見ていた愛美の仲間が不思議そうに俺たちを見てきた。
「ああ、悪いな、放置しちまっていた」
「い、いえ、あ、あの、2人は知り合い?」
「ああ、妹が世話になってる」
俺は愛美の頭に手を当てながら2人に声をかけた。
「あっ、いえ、って、えっ?」
「妹って、マナミ、ファルター様を知らないって、言ってなかった」
「うそだったの」
「ああ、まぁ、それについてはあとで話すよ、今は、ここにいても仕方ないし場所を移動しよう」
「は、はい」
それから俺たちは場所を移動することにした。




