第3話 馬鹿野郎共、旅立つ
俺たちがこの世界に召喚されてから約2ヶ月が過ぎた。
こちらの時間は地球の上層レイヤーと言うだけはあり、周期も同じようだ。
つまり冬を迎えようとしている。
そんな中俺たちは冬に向けた準備を始めていた。
「オラァ!」
「くっ…!まだだ!」
信耶と貴也の声と叩きつける音が空に響く。
「そんなんじゃ全然アカンのう!」
「まだまだぁぁぁああ!!!」
路上に白い何かが舞っている。
「まだまだや!踏め!もっと踏め!」
「よっしゃ!ええ感じなってきた!」
小麦粉だ。
というよりうどん粉だ。
そう。俺たちはうどんを作っていた。
何故こんな事をしているかって?
話は2週間前に遡る。
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2週間前 神聖ルブルム帝国 ギルド内酒場にて
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「うどん食いたい。」
「は?」
貴也が真剣な顔をして言い放つ。
「いや、ここの飯が不味いとか言うてんのちゃうで。
ただ俺は出汁のきいたうどんが食いたいねん。」
「何言うてんのお前」
「わかる。めっさわかるわそれ。」
「信耶もかよ!こいつ思いつきで言うてるだけやで!」
「ちゃうて。この世界の飯って雑やん?」
む。それはわかる。
決して不味いわけではないが、この世界は基本的に肉ドーン、野菜ドーンを焼く、蒸す、揚げるのいずれかで食べるという物だ。
文明が発展途上な事もあり、一般市民でも運動量が多いせいだろう。
早くて、多くて、安いというのが一般的だ。
「ほんでさ、肉と野菜つーか芋ばっかりで飽きてん。」
「あーわかる。でも魚が旨くないしな。肉と芋はっかりになるよな。」
ちなみにルブルム帝国の首都近辺には海がない為、魚はほとんど流通していない。
干物のような物が流通しているが、あまり人気はないようだ。
一度魚が食いたいと貴也が言い出した為、食べたが非常に固く食べられたものではなかった。
「せやからうどん作ろうや!小麦粉みたいなんあるし作れるやろ。」
「どうやろうなぁ、地球とまったくおんなじやったらいけるかもしれんけど…。」
「とりあえず買い揃えて実験してみようや。」
「よし、やるか!ほな貴也は材料揃えてきてくれ。
俺は調理器具とか場所用意してくるわ!」
「ん。了解!」
「俺は何したらいい?」
「「慶輔はええわ。」」
酷い。たしかに俺は料理が得意ではないけど。
「お前料理出来ひんやんけ。」
「なんでも片栗粉でトロミつけたらいけるなんて事はないんやぞ。」
コイツら昔の事ばっかり言う。
とりあえず翌日から素材集めに入るとの事。
暇なので貴也に付き合うことにした。
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翌日 ルブルム帝国 市場
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「おい、貴也。これなんかどうや?小麦粉っぽいぞ。」
「おう。匂いは…地球の小麦粉よりも香ばしい匂いがするな。色は小麦粉やけど…。オヤジこれは何の粉や?」
貴也は真剣な眼差しで粉を見ながら店主に問いかける。
「なんだ兄ちゃん。この辺りの人間じゃねぇのか?
これはルブルムでよく食うトウ麦の粉さ。香ばしい匂いがするだろ?この辺りじゃパンにするのが一般的だな。」
「ほう。そのパンはどこでも食えるんか?」
「あぁ、うちの向かいの店でも売ってるよ。あの薄くて丸いやつさ。」
なんだあれ?ナンの丸いやつみたいだな。
あ、貴也の奴早速買ってる。
「ふーん。これはアレだな。ローティを少し厚くしたような物やな。お前も半分食ってみるか?」
せっかくなので、半分食べてみる。
ふむ…。食感はナンに近いけど、口の中に広がる香ばしさがあるな。
「……てかローティってなんやねん!?」
「知らんのか?インドとかパキスタンで食う無発酵の全粒粉パンや。そうか。このトウ麦は全粒粉みたいな感じか…これでうどん出来るか?」
貴也がブツブツ呟いている。
もぐもぐ。しかし美味いなこれ。カレーとかと食べたい。
「日本でも全粒粉のうどん売ってるらしいしな…。
物は試しやな…。オヤジ!これ300gくれ!」
「あいよ!700ルブルだ!」
買うのか。うどん出来るといいなぁ。
楽しみだなぁ。
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ルブルム帝国 客室内キッチン
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「フンッ!フンッ!」
「セイッ!オラッ!ワンモアセッ!」
俺が部屋に帰ると上半身裸の男が2人いた。
正確に言えばパンイチの男が1人と上半身裸の男が1人だ。
何やってんだ。
「何やってんのお前ら…」
「おう慶輔。おかえり。見てわからんか?」
「変態が粉まみれになって変なプレイをしようとしてるのかと思いました。」
「うどん打ってんねや。こんなもんでええやろ。
寝かせて一回茹でてみよか。」
信耶が言いつつ生地を布で包み始める。
とりあえず茶でも飲みながら待つか。
4時間後。
「そろそろええやろ。茹でてみよか。」
「お、色はうどんやんけ。普通全粒粉やと茶色なんのにな。」
「なんか異世界来たって感じするな!」
「せやな!」
しねぇよ。
でも確かに色はうどんみたいになっている。
俺は久々に故郷の味が食べれるのかと少しワクワクしていた。
「こんなもんかな。とりあえず始めやしこのまま味付けなしで食うてみよか。」
「おう。粉の時点で香ばしかったし案外いけるかもな。」
そういいつつ貴也はうどんをつまみ上げ口に入れる。
俺も食べよう。
むぐ…。ん〜、なんだろう。コシがないな。
「不味いな。」
貴也がバッサリ言う。
「コシが無さすぎるし、茹でた時点で香ばしさが全部飛んどる。その割に口の中に嫌な後味がある。」
「せやな。すいとんの失敗作みたいな感じやな。」
粉自体がうどんに向いてなかったのだろう。
そもそもパンがええって店のオヤジも言うとったしな。
「このままじゃ終われへん!次探しに行ってくるわ!」
「わかった。ほな俺は出汁の素材探してくる!」
「頼んだぞ信耶!」
「任せとけ!お前も諦めるなよ!」
2人は扉の前に立ち、無言で拳を合わせ部屋を出て行った。
その背中には漢の熱い思いが滾っているようだった。
そこからの数日、2人は互いに色々な材料を持って来た。
とある日は首都近辺で取れる珍しい寒天のようなモノ。
「これならどうだ!?」
「ダメだ!コシは出たが固すぎて出汁に絡まねぇ!」
とある日は隣の国の料理に使われるデュラムセモリナ粉のようならモノ。
「こっちはどうや!?」
「アカン!伸びが悪すぎて口当たりが悪い!」
とある日は神殿の裏庭で取れたよくわからないやつ。
「これならどうや!?」
「全然アカン!ハリ、ツヤ、コシ全部アカン!」
2人は色々な試行錯誤を繰り返している。
「ちくしょう…!アカン!全然アカンやんけ!
俺は…うどんの一つも作られへんのか…!!!!」
「阿保!諦めるな!俺らは究極のうどんの為に戦ってるんや!」
違います。魔王打倒のためです。
しかもまだ一回も魔獣とか魔王とか戦ったことないしな。
「噂に聞く所によると、この街から南に3週間ほど進むと異民族の町があるらしい。
そこはパン文化やなくて、麺文化との事や…。」
「貴也…!まさか…行く気か!?」
「あぁ、行くしかないやろ!」
「無茶すぎるぞ!?」
本当に無茶だと思う。
俺ら街から出た事ないし、戦闘経験ゼロやぞ。
流石に俺も信耶も引き止める。
「止めてくれるな!俺の想いはもううどんしか見えてないんや!」
阿保かこいつ。
「貴也…。グスっ……へへっ、お前って奴は…。
行けよ。もう止めねぇさ…。」
「信耶…。悪いな……。我儘言っちまって…。」
「いいさ…。でもよ、必ず…帰ってこいよ?」
「…………フッ、必ず戻るさ!」
そういうと貴也は背を向けて扉に向かって歩き出す。
なんだこいつら。気持ち悪りぃな。
「へへっ…貴也が光って見えるぜ…。」
何言ってんだこいつ。
そんな訳ある…いや光ってるわ。めっちゃ光ってる。
「え、なにこれ…怖い怖い怖い。何で俺光ってんの?
あっつ!肩あっつい!!これアレや!スキルのやつや!」
『強イ意志ヲ世界ガ認識シマシタ。
スキル【不倒の探求者インディアナ】ヲ獲得イタシマシタ』
「何この声。どっから聞こえてんの?」
「?声なんか聞こえてへんぞ?」
「は?俺だけか?スキル獲得したって。」
え、意志の力ってこういう感じの意志でもええの?
つーかどんだけうどん食いたいねんこいつ。
こうして俺たちのはじめてのスキル習得イベントはグダグダのまま終わった。




